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【競馬コラム】身震いするほどの強さ

パンサラッサが軽快に飛ばして、その独走を許すまいとタイトルホルダーとディープボンドが持久力勝負に持ち込んだらどうなるだろう..有馬記念とは違ってパンサラッサも距離は何とか適性範囲内、それに何よりドバイを制した自信と威信がある。当時よりもさらに気合の入ったラップを刻むに違いない。ああそうなったらきっと今まで見たことのないスリリングな勝負が見られるはず..そんな期待を抱いてこの宝塚記念を迎えることとなった。

まさに、期待通り。

躊躇なく逃げを打ったパンサラッサの1000m通過タイムは57.6秒。それを少し離れた2番手から追走したタイトルホルダーが自ら前を捕らえにかかると、ディープボンドも食い下がる形で直線へ。ハイペースを追いかけながらも全く手応えが鈍ることのないタイトルホルダーが満を持して先頭に立つと、息の入らない展開に脚を削られた後続勢は差を詰められない。これでもかというほど強さを誇示する形での勝利は、身震いするほどの凄みを感じさせた。

恐ろしいまでの充実ぶりである。昨秋も菊花賞を制したとはいえ有馬記念では5着に終わり、まだまだ現役最強を争うには力不足な印象があった。しかしこの春は天皇賞を7馬身差で圧勝。そして宝塚記念も制したことで、一気に古馬戦線のエースに名乗りを上げることになった。
天皇賞→宝塚記念の連勝は06年のディープインパクト以来。超高速馬場で行われることの多い春の天皇賞は消耗度も高く、万全の状態で宝塚記念に駒を進めるのが難しい。記憶に新しいところでは17年にあのキタサンブラックも9着と大敗を喫している。
しかしタイトルホルダーのタフさは尋常ではない。再びコンディションを整えて参戦を果たすと、早くも真夏を思わせる暑さにもへこたれることなく実力をフルに発揮してみせた。

これほどまでの強さを見せられると、つい凱旋門賞を夢見てしまうのは我々の悪いクセ。しかし陣営は早々に参戦を表明。しかも鞍上は引き続き横山和生でいくという。当然の判断だろう、このハイペースでも怯まずに相棒の力を発揮するための勇敢なスパートを促せるこの男以外に適任がいるだろうか。パリロンシャンでもスタイルを貫き、堂々と世界の強敵を迎え撃つ競馬を見せてほしい。

対照的にエフフォーリアは6着と完敗。大阪杯のショックを払拭することはできなかった。横山武史は「このペースでは脚がタメられなかった」と振り返ったように、道中から追走で手いっぱいのように映った。確かにスローペースの瞬発力勝負に強いタイプではあるが、同じように上がりのかかる展開だった皐月賞では早めに動いて後続をねじ伏せた。その時の2着馬はタイトルホルダーだった。
直接対決で今まで一度も負けていなかったタイトルホルダーに「現役最強」の座も明け渡す結果に。どうもゲートでガタガタしていたように、まだメンタル面に不安を残しているようにも見えた。これまで経験のなかった長距離輸送の2戦で敗れた借りを、秋は関東で返せるだろうか。

もう一頭、ぜひとも健闘を称えておきたいのがデアリングタクト。正直ここまで走れるほど状態が戻るとは思っていなかった。末脚を伸ばすのがしんどい展開で、まさに死力を尽くしたスパート。これなら秋はさらに楽しみが広がる。

オーソリティの競走除外は残念だったが、多くの馬がここを目標に定めバチバチと火花が散る名勝負が見られたことに感謝。このくっそ暑い中で消耗の大きいレースになったが、どうか各馬が無事でいてくれることを願うばかりだ。

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