【百合】音色(1011文字)

友達の待ち受けの絵がきれいだったので、
これ誰の絵?と尋ねたら高校時代の友達のものだと言う。
これ、私のための絵なんだよ、と友達はうれしそうに言う。

「私から聞こえる音色を絵にしたんだって」

聞こえる音色を絵に、ねぇ……
なんだかよくわからない。
その絵は薄めの水色をメインにしていて、
ある部分から外に向かってグラデーションが始まり、
いちばん外側は淡い紫になっていた。

絵にしてるって言うなら
人のイメージが色で出てくるんじゃないのかな。
なんだかうまく飲み込めずにいると
今、モニターを探してるらしいよ、会ってみる?
と言われたので興味本位でお願いすることにした。


「横山みさきです」
背が私より頭一つ分くらい高い女の子だった。
長いけれど重さを感じない黒髪を少しだけ揺らして
彼女は微笑む。
お互いに住んでいるところの中間地点で、
ということで決めた横浜のカフェ。
授業の兼ね合いでちょうど水曜日の午後の遅めの時間ならと、
話はトントン拍子に進み、
最初に話を聞いた翌週にはこうして会うことになったのだ。
「島野あかねです。
ナオから話聞いて興味を持ったので…お願いします」
「こちらこそお時間割いていただいてありがとうございます」
同い年なのにとても丁寧だ。
「あの…聞こえた音色を絵にするってどういう感じですか。
色が見えてるのとは違うんですか」

「よく言われるんですけど違うんです…
音色が聞こえてすぐに色はイメージできますが、
あくまで音色に対する色なんですよ」
「音楽、とは違うんですか?」
「私に音楽の才能がないからかもしれませんが…
メロディはないんです。音だけ」

ナオがアイスティーをストローでかき混ぜる。
真冬だからとても寒そうに氷が響く。

「島野さんの音は……ふふふ」
その笑顔に私は釘付けになった。
彼女は何故かとてもうれしそうだった。
「そして素敵な色です。うまく出したいな……」
敬語の取れたその言葉の余韻が耳に残って
私は顔を見られないように俯いてココアを啜った。


月末になってナオに連絡があり、
絵が描けたということで、
私たちはもう一度同じカフェで会うことになった。
シンプルなフォトフレームに入ったその絵は、
柔らかな黄色で中心に大きく楕円を取り、
グラデーションで外に向かって最後にはオレンジ色になっていた。
「明るくて暖かい音でした」
彼女は目を伏せて笑みを浮かべる。
目を伏せているのをいいことに、
その笑顔をふた呼吸分見つめた。

その絵は今も私のパソコンデスクに置かれている。
私はそこにあの日の笑顔をいつだって重ねて見ることができる。
けれど、あの笑顔は今でも思い出にはならない。
ずっとずっとそうであればいい。
少し遠い、私を呼ぶ声に立ち上がり、
私は部屋をあとにした。

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