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つかれたら、寝ようね

やるべきリストが頭の中で渋滞している。1時間で完成するはずの文章が、3時間たっても宙を泳いでいる。

こうなると、私の脳みそ、疲れているなと思う。

「書く」において、脳の健康と安定を維持するのは、わりと優先事項だ。脳は思考を走らせて整理して出力してくれる。

ぺしん、とはたかれるような傷がなくとも、ちらちらと降り積もるテレビ台のホコリのように、脳にバグがたまる。

歯医者に行ったら合計$3600の見積もりをもらってしまい、家計を思うと心が痛かった。

幸いなことに、奥歯の痛みは治まっていて、$1700分は今のところ支払う必要がなさそう。残る$1600の治癒は要検討で、するべきかどうかの情報を集める段階で、「今日はもう無理」とシャットダウンした。

寝るに限る。こんな日は、一刻も早くオフトゥンにダイブしよう(我が家、ベッドだけれど)。

私はロングスリーパーで、「疲れたら寝れる」性質なので、睡眠をわりと信用している。

夫に「今日は12時間ぐらい寝るわ」と宣言して、7時過ぎに娘と一緒に寝室にいく。6歳の娘が愛読中の『忍たま乱太郎』を読む。毎晩読みすぎて、娘がセリフを暗記し始めた。「ほうろくひや」と、日常会話ではけして登場しない爆弾の名前を娘がスラスラ唱えるのは、なんだかおかしくて愛おしい。

寝る前に、録音した『おやすみエレン』の朗読を流す。

寝かしつけの睡眠導入剤として有名なこの絵本は、長いうえに読んでいると眠くなる。iPhoneから流れる夫の声の朗読が、娘をすやすやと眠りの世界に連れていく。つられて、私も目を閉じる。

夫の声で眠る妻と娘。そこにロマンチックはカケラもなく、ただ回るのが日常だ。

「もう起きようよ」

娘に蹴られて眠りから覚める。6時過ぎ。夫は出勤した。あと1時間寝たいな……と再び目を閉じようとしても、隣の娘が「起きて」と連呼しながら寝返りを打つので、もうどうしようもない。オフトゥンよ、さらば。

リビングの明かりをつける。コンロの上に、コーヒーを淹れるマキネッタがのっていて、7割中身が残っている。キッチンテーブルに目をやると、なみなみとコーヒーが注がれたマグカップが一つ。

早朝出勤の前に、新しい豆をどうしても飲みたかった夫がわざわざ淹れたのだけど、熱すぎて冷ましている間にタイムオーバー。家を出る時間になったのだろう。

10年も一緒に暮らしていると、痕跡から推測できるようになる。もったいないので、マグカップを電子レンジにいれる。

窓を見ると、下半分が白く曇っていて、夜が随分と寒かったのだと知る。

ちょうど日が昇る時間だ。朝焼けは終わっていて、明るくなった空は準備万端で太陽を待ちわびている。

3面ある東側の窓のひとつに、光の玉ができている。キラキラところころと、白く曇った窓ガラスを照らすその光は、外に植えられたレモンの木の葉を通過したものだ。

西のほうの空に、白い月が残っている。

どうしようもないなと思う。

まだ眠いけど。一瞬だけ立ち止まってしまう。私がつくったものではない、日常に入り込む美しさに。そうやって、忘れ去られるだけのビー玉みたいなきらめきが、少しだけ水を、心に満たしてくれる。

こうやって、取るに足りないこの朝を、言葉にして書きとめるくらいには。

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