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舌と肉球

うさぎのしっぽは丸じゃない。どちらかといえば、トトロのしっぽに似ている。短い、楕円形の毛玉がお尻についている。

うさぎを飼い始めてから、見つけた「発見」はいくつもある。

たとえば、うさぎは「伸び」をする。じっと固まっていたかと思えば、おもむろに動き出し、四肢を地面に突っ張り背中をぐいんと伸ばす、猫の動きとおんなじあの「伸び」だ。

なんなら、座った姿勢から「片足伸び」を披露することもある。披露といっても、別にこちらに見せているわけではなくて、足裏の毛づくろいのために伸ばしているのだけど、たまに錆びた関節みたいにぎぎぎと鈍く足を伸ばしては、舐めずにそのまましまったりするので「なんだあれは」と凝視せざるを得ない。

それから、うさぎは「球体」だ。丸くなるといっても、猫のアンモニャイト型ではなくて、立体的に丸くなる。うさぎは、バレーボールであり、サッカーボールであり、テニスボールである。とにかくそれくらい丸い。

このあいだ動物病院に連れて行ったら、獣医を怖がるあまり、全長半分ぐらいまで丸まっていた。診察台から落ちないよう支えている私のお腹に、じりじりとお尻をくっつけてくるのだ。お尻を守るのは、捕食される側の本能なんだなあと、ちょっと切ない。


我が家にはうさぎが二羽いて、見事にタイプが違う。灰色は食いしん坊で、餌があれば膝でも背中でも乗ってくるアクティブさん。もう一方の茶色は、ストロングマインドの持ち主で、警戒心が強い。

灰色の毛質はモフモフだけれど、茶色のほうはシュッとしてサラサラである。灰色は雨に濡れるのを好み、茶色は金網についた雨水を舐める。

うさぎの舌を、見たことがあるだろうか。ちろちろと雫を舐める舌先は、桜の花びらの欠片のようだ。普段は牧草しか食べないのに、器用に舌を使うんだなあと、驚く。

うさぎの舌を初めてみたとき、なんだか赤ちゃんの爪切りを思い出した。小ささと薄さとあまりにも精巧な作り。まったく違う生き物なのに、「そういえばこことここの色は似ているね」みたいに、呼び覚まされるものがある。

うさぎの足裏には肉球がないのも、私にとって知らない事実だった。うっかりプラスチック製の蓋の上に手を置いてしまったうさぎが、氷の上のようにツーっと滑っていく。そんなことってある? と吹き出してしまう。そんな感じ。


午前中、仕事で一息つきたいとき、おもむろに庭に出る。うさぎ小屋に入って、モフモフをなでる。おでこのあたりを指先でなでてあげると、うさぎは気持ちよさそうにじっとしている。脳内が、モフモフとかわいいで満たされていく。

どれくらいかわからないけれど、できるだけ長く、我が家で平和にモフモフとしてほしいなあと、ミルクティーの香りのする牧草を撒きながら思う。




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