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【投資戦略】円安と日本株への投資戦略(前編)

とても腹落ちする「為替予測」を聞いたので、その予測についてと、それをベースにした日本株への投資戦略について書いてみようと思います - 本稿は、その「為替予測」部分についてです。

為替予測は、元JPモルガンの為替ストラテジスト、佐々木融(とおる)氏(現 ふくおかファイナンシャルグループ)のものです。

では、早速。

先に結論です。

佐々木氏の予測は、ドル円は年末までに170円。来年には200円という(結構、衝撃的な)内容です。

それから、為替介入については「日本は変動相場制の国なので、同じ水準で2回(以上)の介入はしない」とのこと - 同じ水準で複数回の為替介入をするということは、「相場を固定しようとしている」という意図になるようです。

よって、「このまま170円まで行ってしまう可能性が高い」とのこと。

そして、上記の予想の背景になっている”理屈”がとても腹落ちするのですが、それが以下の3点です。

1.日本の貿易赤字が定着
2.日本の実質金利がマイナス
3.日米の名目金利差が大きい

これら3点が「円安になってしまう構造」となっていて、この構造が変わらない限り円安はどんどん進んでいくというのが佐々木氏の考えです。

上記3点について少し説明を加えます。

まず、貿易収支が赤字になっている点ですが、それは「米ドルを買う需要が大きい」ということであり、円安・米ドル高に傾きやすい環境になります。

日本の貿易収支は、2010年代以降「赤字基調」になっています。特に、2022年以降は原油高と小麦粉など食料の大幅な値上がりによって赤字幅が拡大しています。そのため、米ドルを買う需要が大きくなり、円安・米ドル高に触れています。

財務省の国際収支統計より

これが円安の第一の理由です。

次に、日本の実質金利がマイナスになっている点です - 実質金利がマイナスということは「インフレ率 > 金利」ということなので、ほっておくとお金の価値が目減りしていく環境になります。そして、そうした通貨の価値は減価していきやすいため、円は安くなります(=他の通貨が高くなる)。

以下は、日本の消費者物価の推移です - 生鮮食品とエネルギーを除いたコアコア指数です。

総務省 統計局発表の消費者物価指数より

キレイな山型になっていますが、現状(前年比)2.0~2.5%の水準です。

一方、日本の政策金利(短期金利)は、0.1%です。

よって、日本の実質金利は▲1.9~▲2.4%(0.1%-2.0~2.5%)になります - 日本は、物価は年率2.0~2.5%で値上りするのに、金利は0.1%しかつかない。よって、「損な通貨だ!」ということです。

ちなみに、米国の消費者物価の推移をご参考までに。

米国 労働省発表の消費者物価指数より

概ね3.0~4.0%の水準です。

一方、政策金利は5.25~5.50%。

実質金利は1.25~2.50% - 物価は3.0~4.0%で上昇するが、金利は5.25~5.50%つくので「お得な通貨」といったところです。なので、米ドルにお金が流れやすい。

最後に、日米の名目金利差ですが、(上記のように)政策金利で5.15~5.45%の差があります - お金は金利の高い方へ流れやすくなりますので、円安・米ドル高傾向になります。

また、長期金利(10年債)においても、日本は1.07%、米国は4.36%ですので、3.29%の差があります - 7/5現在。

いずれも大きな差ですので、資金は米ドルに流れやすくなっています。

これら3点が「円安なってしまう構造」を形成しています。

ご参考までに、過去1年間の(日本円に対する)主要通貨の騰落率をグラフ化しています。

ウォール・ストリート・ジャーナルに記載されている通貨価格を参照

ブラジル・レアルとチリ・ペソは(日本円に対して)下落していますが、その他の通貨は上昇しています - 現状の構造が続けば、日本円は安くなり、他の通貨は高くなるという流れが続きそうです。

アルゼンチンの事例

「円安の構造」についてはご理解いただけたと思います。

では、「それが株式市場に、どのような影響をもたらすのか?」について、少し考えてみたいと思います。

個別株については「後編」でご説明する予定ですので、ここでは「市場全体へのインパクト」について整理してみたいと思います。

その事例として(極端なケースですが)「直近のアルゼンチン」について見ていきます。

結論を先に書くと、インフレと通貨安になると、株価はよく上がるということです - そして、輸入インフレの中、金利を上げられない日本も近い構造になってしまう可能性がある、という点です。

アルゼンチンは、この2年ほどハイパーインフレに見舞われた国です - 以下は、Bloombergの記事とグラフです。

Bloombergの上記記事から抜粋

アルゼンチンのインフレ率は恒常的に高かったのですが、2022年の中頃から急上昇し、2024年5月は(前年比)200%を超えています。

そして、こちらがアルゼンチン・ペソの過去2年間のグラフです。

アルゼンチン・ペソ/米ドルの推移

アルゼンチン・ペソは、この2年間で米ドルに対して86%安くなっています - 大凡7分の1になっています。

そして、株価のグラフが以下です。

アルゼンチンの株価指数の推移

株価は、この2年間で15倍になっています!

インフレになると名目ベースの売上げや利益が大きくなるので、株価はそれにあわせて(時には、それ以上に)上昇するケースが多くあります。

念のため、アルゼンチンは極端な事例ですし、日本は財政赤字を国内でファイナンスできる国です。なので、アルゼンチンと同じこと(同じ規模のこと)が日本で起こるとは思えません。

ただ、「実質金利がマイナスになっている日本は、アルゼンチンに似た構造(アルゼンチンのミ二・バージョン)になっているのではないか?」という点が、個人的な懸念です。

国内経済が弱い日本では金利を(大幅に)引き上げることは難しく、よって円安とそれによる輸入インフレが継続しやすい構造です。

結果として、日本株は(円安、輸入インフレ、低金利によって)押し上げられる可能性が高いのではないかと考えます。

特に、① 輸出企業や海外展開をしている企業、② 不動産会社や商社など「資産」や「資源」でビジネスをしている企業、③ インフレによって販売価格が大きくなる企業などが投資対象になりそうです。

ただ、上記の環境は手放しで喜べることではない点が厳しいところです - 結局、日本企業の稼ぐ力をもっと強くすることが必須ということだろうと思います。

前編は、こんな感じです。

後編で、個別銘柄について書いてみたいと思います。

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