不安に名前をつける

電車に乗るのが好きな方で、特に旅行先の電車が好きだ。知らない電車の知らない乗客、知らない駅名のアナウンス、窓から見える知らない企業の看板に、普段の生活によってギュインギュインに研磨された自意識が先端からゆっくり溶けていく気がする。

そんな電車が、苦手になった。
乗っているとなんの前ぶれもなく、頭に震度4くらいの揺れがきて、そこにいる人や景色のすべてがつらく見えてしまうことがたまに訪れるようになったからだ。
心身が穏やかなときはそうなることは無いが、運悪くそれが来てしまったときは揺れが収まるまで呼吸をなんとか整えたり、どうにもならないときは最寄りの駅で下車して外の空気を吸い、飲み物を買って飲むなどする。自分の体なのに難儀だなと、強い炭酸水を喉にあてつけて思う。

だがこの先、旅行先で電車に乗る楽しみは失いたくないので、対策を考える。
最近思いついた対処法が、「不安が来たらその不安に名前をつけて、不安が不安じゃなくなるまでそのディティールについて考える」というものだ。少しやってみよう。

不安1:ヌペンチョフ・ポルコリーニ
ヌペンチョフ・ポルコリーニ(1890〜1981)は、わたしが飼う不安であり、ロシアの作曲家でもある。頭は禿げ終わっていて、愛妻家。悲しいことがあると泣きながらりんごを投げてくる。

不安2:ポリンダフ・マチョフスキー
ポリンダフ・マチョフスキー(1999〜)は、わたしが飼う不安であり、ハンガリーの暗黒舞踏家。「この暗黒舞踏家がすごい2019」でNG大賞を受賞。筋金入りのおじいちゃん子であり、ぶどうジュースで酔うことができる。

不安3:ウラジミール・モロヘ
ウラジミール・モロヘ(1965〜)は、わたしが飼う不安であり、ロシアのお散歩担当大臣。その他を寄せ付けない圧倒的なお散歩スタイルから、モスクワのファンタジスタと呼ばれる。親日家であり、座右の銘は「武力に勝る力なし」。お雑煮にはなるとを入れる派。

以上である。くしくも3分の2がロシア人になってしまったが、無心で考えた結果だ。チョフやらスキーとかの語感がツボなのかもしれない。

こんなことを考えていたら目的の駅に着きました。きょうは大丈夫だったみたいです。

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