コミュニティを長続きさせたい管理人に必要な技能とは

 電子の海を自在に泳ぎ、顔も知らない誰かとのつながりを得られる今、何にも属さないフラットな孤独でいられるということは滅多にないだろう。同じゲームをやる人、同じ趣味を持つ人、同じ推しがいる人、そして何も互いに重なる要素はないのになぜかよく話す人。そうした自分以外の誰かと自分が共にいる場所は、そのサイズにかかわらず『コミュニティ』と言えると自分は思う。
 数多のコミュニティを転々としてきた人もいるだろう。筆者も同時に複数のコミュニティに所属していて、しかしそれらは常に一定ではなく、もう足を踏み入れなくなったような場所もある。そしてその中には、もう誰も訪れることがなくなった「死んだコミュニティ」もあるのだ。

 もし自分が何らかのコミュニティを作る側になった時、もちろんその場所はいつまでも続いて欲しいと思うものだろう。ではそのためには何をすれば良いのだろうか。何が原因でコミュニティが消滅するのかを知ることで、自分が作った場所を利用する人のためにもなるかもしれない。

 では最もわかりやすい例として、単一のつながりしかもたないコミュニティを考えよう。
 ただ一つの理由、例えば『同じゲームをしている人を集めたディスコードサーバー』があるとする。このコミュニティに属するプレイヤーたちがそのゲームに飽きてしまったならば、一人、また一人とプレイヤーはこのサーバーに来なくなるだろう。そして熱意あるプレイヤーは、このゲームをもっと意欲的にできる他のコミュニティへと移動する。こうしてこのディスコードサーバーはいつのまにか誰にも使われなくなってしまうのだ。

 ではこれを避けるためにはどうしたらいいだろうか。
 まず簡単なものとして、ゲームに飽きて抜けるプレイヤー以上の数の新しいプレイヤーをサーバーに招待することだ。ゲームコミュニティは、同時接続が増えるほど好循環が働き、プレイヤーは減りにくくなり増えやすくなる。
 例えばガチ勢サーバーになってしまい、エンジョイ勢は肩身狭いな…なんていう意見が出るのなら、エンジョイ勢を増やせば良いのだ。一つのコミュニティは一つの傾向・属性しか持つことができないというのは誤りである。コミュニティの中に多様なレート、多様なプレイスタイルがある場所こそ(議論を含めて)より活発なコミュニティになりうると筆者は思う。
 もう少しクローズドなサーバーで考えてみよう。新規参入をそれほど増やさない、いわゆる身内色の強いサーバーであるなら、他の共通のゲームや趣味を見つけることが簡単だろう。つまり、そのゲームに飽きてしまって何もなくなるから来なくなるのだから、たとえゲームをしなくてもくるような場所であれば良いのだ。

 うーむ、なんて簡単な答えなのだろう。しかし現実はそうはいかない。
 コミュニティには「人間関係」が存在する。つまり、苦手な人がいるコミュニティには足を運びにくいという、心理的な面での問題があるのだ。

 ではコミュニティの管理人としてそれに対策できることはないのだろうか?
 まず一つは、コミュニティガイドラインを作成し、そして違反行動を看過しないということだ。
 身内色の強いサーバーであるほど、人間関係の問題は大きな綻びになりやすく、また明確なルールを設けないことが多い。友達同士で今更明文化しなくても……という心理が働くのもわかる。
 しかし、ルールを設けない場合、和を乱す行動をする人物を裁くことができないのだ。その状態が続くと、コミュニティの崩壊どころか、その場所を超えた信頼関係の崩壊やいざこざにもつながる。
 ではコミュニティの管理人がすべきこととは、客観的で納得できるコミュニティガイドラインの作成と、それを実行する胆力だろう。身内だとしても容赦せず、一時的な利用禁止や、ときには追放することも選択肢に入るかもしれない。その決断を下す心理的ストレスは計り知れないが、しかし管理人がやらなければいけないことなのだ。

 しかしそこまでしたとしても、まだコミュニケーションの問題でコミュニティが死にうることがある。『悪気のない悪者』がいる場合だ。
 『悪気のない悪者』は、ガイドラインに抵触するようなことは一切しない。しかし、コミュニティの空気感と致命的に合わない性質を持っているのだ。
 例えばチームゲームエンジョイ勢の集いに、一人のガチ勢が入ってきたとする。ガチ勢は別に人の悪口を言わない一人の善良なプレイヤーだ。しかし彼はゲームに勝つことを第一の目標としており、負けたときには味方に的確なアドバイスをし、勝つための努力を怠らない。このサーバーの他の人に、「こうしたらもっと良くなるよ」を善意で伝える。
 これを苦痛に感じるエンジョイ勢がいるというのは、きっと誰しも想像に難くないはずだ。もっと気楽にやりたいのに、そう思いながら勝ちを最重視してプレイすることにストレスを感じてしまうのだ。
 そうなるとエンジョイ勢は、だんだんとこのコミュニティを訪れなくなる。果てには、このガチ勢を抜いた別のコミュニティを形成するかもしれない。たった一人の善意で、以前のコミュニティが死んでしまうのだ。その後味の悪さと言ったらたまったもんじゃない。

 この問題は、エンジョイ勢が悪いわけでもガチ勢が悪いわけでもなく、その上お互いにわかりあうことが非常に難しいということもおわかりいただけるだろう。ガチ勢を『悪気のない悪者』としてあげたが、エンジョイ勢がそうなる可能性も十分にあるのだ。
 そしてこの『悪気のない悪者』を裁くことは不可能だ。上記の例の場合だと、このガチ勢が悪態をついたり暴言を吐くヤツならまだしも、何もガイドラインに抵触することはしない人間なのだ。だからもし管理者が「あなたはウチのサーバーにあってないので追放します」なんてことを言えば、ガチ勢が「何もしてないのに追放されました」というのをSNSに書けば炎上する可能性すら大いにある。

 これを避ける方法は、誰でも入れるサーバーなら前述したようにサーバー規模を大きくして多種多様なプレイスタイルの人を確保するというのが手っ取り早いだろう。しかし今回の例のようにコミュニティがクローズド(身内色が強い)という場合においては、コミュニティの管理者がコミュニティの空気感を正確に把握し、『悪気のない悪者』を事前に弾くしかないのだ。
 私が考えるクローズドなコミュニティの管理者に最も求められる能力は、新しく加入しそうな人物が良い人か悪い人かではなく、コミュニティに対して『悪気のない悪者』であるかどうかを識別する能力だ。
 「あの人悪い人じゃないんだけど、話が合わないからサーバー遊びに行きにくいなぁ」という人が増え、不満がだんだんと大きくなり、コミュニティは死ぬ。たとえその原因となった人が社会的にこれ以上ない善人だったとしてもだ。
 そうならないためにも、自分が運営するコミュニティがクローズドであればあるほど、新規参入者がこのコミュニティにとって『悪気のない悪者』でないか、そして新規参入者にとって既にいる誰かが『悪気のない悪者』でないかを考えることが重要だろう。人間関係が完璧に上手くいくことなんてあり得ないけれど、考えて無駄になることではないはずだ。

 もし今読んでいるあなたが何らかのコミュニティの管理人になるとして、そのコミュニティをしっかりと存続させたいと考えているのであれば、自分の作るコミュニティの空気感と方向性をしっかりと想像し、ガイドラインを作成することがまず必須だと私は思う。その上で、オープンな場にするのかクローズドな場にするのかを考え、オープンな場にするのならなるべく賑わい好循環が起きるような場所に、クローズドな場にするのならそのコミュニティに属する人がストレスを溜めないようなシステム、人選をするべきだと思う。

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