いまさら丸サ進行についての話

 コード進行なんて全く知らない一般人ですら、ときたま「丸サ進行」という名前を聞くようになって、もうしばらく経つ気がする。

 正直この話題にふれること自体今更感があるが、書きたいと思ったものはしょうがない。特にこれと言って伝えたいことがあるわけでもないが、最近このコード進行について思ったことをちょろっと書けたらなと思う。


 「丸サ進行」?なにそれ全く分からない。そんな単語初耳だ。そんな人に向けて簡単に説明すると、丸サ進行とは最近流行りの曲によく使われているコード進行(ハーモニーの移り変わり方)のことだ。曲調の明るい暗いやテンポが速い遅いにかかわらず、どんな曲にでも使いやすい親和性。他の進行に派生しやすく、曲の展開を構成しやすい、なおかつ丸サ進行単体でループしていても成立する完成度などが特徴として挙げられる。ちなみに丸サとは椎名林檎の「丸の内サディスティック」の略だ。

 詳しく知りたい人は下記の記事を読んでいただければと思う。この進行が使われている曲や、進行の特徴などについて詳細に書かれていて、多少コードネームの知識が必要な部分もあるが音楽初心者でも総じて読みやすい。


 ちなみに筆者が最初にYoutubeで出したチップチューンの楽曲「Spotlight」も丸サ進行である。なんなら同じく丸サ進行が使われている椎名林檎の「長く短い祭り」とコードワークがかなり似ていて、コード進行の類似度だけでパクリと評する人々(ちなみにこれは皮肉)に炎上させられないかいつも心配である。


 さて本題だが、「このコード進行が最近流行ったそのはじまりは何だろう」と音楽オタクに聞くと、多くの人がYOASOBIの「夜に駆ける」と答えるだろうと思っている。それにAdoの「うっせぇわ」、yamaの「春を告げる」などが続く(もちろん他にもたくさん丸サ進行の曲はある)。

 しかし先ほどの記事にはその流行り初めについてこう書かれている。

「Just The Two of Us(コード)進行」は、2018年頃から音楽ファンの間で知られるようになった言葉だ。

 「夜に駆ける」は2019年の曲なので、それ以前になにかアプローチになる楽曲があったのだろうか。

 正直僕は邦楽にめっぽう詳しいわけではなく、ヒット曲のサビを口ずさめるくらいの程度でしかない。そんな僕が一生懸命記憶の中からひねり出したのが、あいみょんの「愛を伝えたいだとか」だ。

 「丸の内サディスティック」ほどジャズっぽい雰囲気ではなく、よりHipHopな曲調で、だるんとたわんだグルーヴ感に歯切れのよい歌詞。オシャレではあるけど、それよりは歌詞のメッセージ性やノリの良いメロディーラインに気が惹かれるような楽曲に仕上がっている。正直めちゃくちゃ好きだ。

 この楽曲について調べてみると、こんな記事を見つけた。

 この記事を見る限りでは、2017年当時は「丸サ進行はやっぱ椎名林檎に聞こえるよな~」なんていう人がいたのだ。それぐらいにはまだこのコード進行は流行っておらず、椎名林檎の専売特許のように捉えられていたのではないだろうか。つまり、少なくともこれ以前の楽曲が「丸サ進行」流行りの起源だとは考えにくい。

 ただ正直、この「愛を伝えたいだとか」が丸サ進行の流行りに大きく寄与したかといわれると、そうでもないのかもなーと思う。

 「愛を伝えたいだとか」がリリースされた2017年は大ヒット曲に恵まれなかった年だったような気がする。2016年は星野源の「恋」やRADWIMPSの「前前前世」、2018年には米津玄師の「Lemon」やあいみょんの「マリーゴールド」など、原曲聴いたことないけど周りの人がみんな口ずさんでたりカラオケで歌うから自分もなんとなく歌える、そんなレベルのモンスター楽曲があった。その前後年に比べると2017年は、確かにヒットした曲はあったが全国民が知るような大大大ヒット曲はなかったように思う。

 結果的に丸サ進行が大流行するまでは「愛を伝えたいだとか」から2年後、2019年のモンスター楽曲「夜に駆ける」を待つことになったんじゃないだろうか。

 それともう一つ、今流行っている丸サ進行の楽曲は、「丸の内サディスティック」らしいオシャレさやダークさを売りにした楽曲ではなく、ただ使いやすくノリやすいコード進行として利用している場合が多い。それは「愛を伝えたいだとか」ではなく、「夜に駆ける」の特徴だ。丸サ進行の後続ヒット曲の流れを作ったのは、間違いなく後者だ。


 さて話は戻り、先ほど紹介した二本目の記事中では、丸サ進行についてこう書かれている。

これは使ってしまうと強烈すぎて椎名林檎にしか聴こえないかなり尖ったコード進行。

 こう書いた記事の筆者は、現在の流行りの丸サ進行楽曲を聞いてどう思うのだろうかと、僕はそれだけが気になってやまないのである。

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