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リモートワークとハイブリットワーク〜コロナ落ち着いた後は、結局出社すべきなのか?問題〜

Twitterで流れてきた記事から辿りついた論文が示唆に富んでいたので、備忘録ついでにまとめておく。また、約半年前に出された論文を合わせて読むとより一層理解とリモートワークに関する考えが深まると思うので、そちらもメモしておく。

1. 論文①リモートワークが企業内のコミュニケーションに与える影響

Microsoft社の6万人を対象とした調査で、コロナによるリモートワークがコ
ミュニケーションにどのような影響を与えたのか?の調査論文。

原文は nature human behaviourで無料でダウンロード可能です。
The effects of remote work on collaboration among information workers

英文やんけ!という方にはGIGAZINEさんが記事を執筆されています。

1) 調査目的
コロナによって適用されたマイクロソフト社のWFH(Work From Home)ポリシーを壮大な実験として扱い、リモートワークが従業員間のコラボレーションとコミュニケーションに与える影響・因果関係を調査すること。

2)調査手法
従業員の業務用メールアカウントとMicrosoft Teamsで行われた活動(ビデオ/オーディオ通話・電話会議/チャット/ファイル共有が行えるソフトウェア)の結果を取集して分析。

3) 先行研究(組織のネットワーク構造とコラボレーションについて)
組織のネットワーク構造は個人と組織にとって重要な役割を果たす。例えば、組織が異なる繋がりから得られる情報の有用性や、特定のネットワーク構造が創造的な成果物に寄与する。

ネットワークに所属する参加者同士が新しい情報を伝達・提供することの効果はその強さに依存する。例えば、強い絆で結ばれた同士は、共通の視点を持つ可能性が高いことにより、簡単に情報を伝達することが可能だが、一方で弱い絆においては、より新規性の高い情報へのアクセスが可能になる。

4)調査結果サマリ
社内のビジネスグループの相互関係が希薄になった。

社内の非公式なコラボレーションネットワークとの結びつきの数が減少し、既にある結びつきとのコラボレーションに費やす時間も減少した。

従業員は情報伝達に適した強い結びつき(強い絆)に多くの時間を費やし、 新規性が高い情報へのアクセスが可能な弱い結びつき(弱い絆)には時間を割かなくなった。

ネットワークの結びつきを再構成する時間が減り、新しい繋がりと過ごす時間が減った。

5)調査結果データ(原文より一部抜粋)

Fig. 2: Time trends for collaboration networks.
グラフd グループを超えた結びつきに費やす時間の割合
グラフf 組織の橋渡し的な結びつきに費やす時間の割合
グラフh 弱い結びつきに費やす時間の割合
グラフk 新しい結びつきを追加することに費やされた時間の割合


全従業員のコラボレーション、ネットワークに関連する変数の月別平均値(2019年12月〜2020年6月までのトレンドグラフ)において、全社的なリモートワークへの移行が実施された2月・3月を境目に、大きな変化が見られており、急激な減少が起きている。


2. 当時抱えていた問題認識との合致と1つの疑問

通勤時間がなくなったこと、家族と過ごす時間が増えたことによる生活の質は間違いなく向上する一方で、社内外での繋がりが明らかに減ったことによる中・長期的に様々なところで悪影響が出ると考えていた。

当論文によって当時抱えていた問題意識がそれなりに正しいことが証明されたのだが、以前と同様に週5日間出社することに意味・有用性を見出しづらかった。

週に1~3日は出社して社内外のネットワーキングやコミュニケーションに費やして、残りはリモートワークで個人的な活動・作業に集中するバランスが一番良さそうと考えていた。

では、一体週に何日ぐらい出社するのが最も効率的・効果的なのか?といった疑問に答えてくれる調査はないものかと当時からぼんやりと探していたのだが、つい先日別の調査結果に出会った。

3. 論文②ハイブリットワークはいいとこどりの働き方なのか?

バングラディッシュに本拠地があるNGOを対象とした調査で、HR部門の130人を対象に、WFH(Work From Home)の頻度・程度がパフォーマンスにどのような影響を与えたのか?の調査論文。

ちなみに調査対象となったのBRACは世界最大規模のNGOとのこと。

BRAC (bangladesh rural advancement committee) は、バングラデシュ国内で活動するNGOである。1972年、バングラデシュ独立戦争後の荒廃した状況においてプァズレ・ハサン・アベッド(英語版)が創設した。当初は12人の職員しか持たない規模であったが、2008年現在年間予算規模535億円、職員数12万人を越える超巨大NGOに成長している。活動は農業開発・教育・保健・金融ビジネスなど多岐にわたる。現在アフガニスタン・タンザニア南スーダンなどに活動範囲を広げている

wikipedia BRACより

原文は 無料で公開されています。
Is Hybrid Work the Best of Both Worlds? Evidence from a Field Experiment

英文やんけ!という方はこの論文はGIAZINEさんも記事を執筆しておらず、DeepLにお世話になってください。

1) 調査目的
『ハイブリットワーク : 従業員が勤務日の一部をオフィスで過ごして、残りの日をリモートワークで働くこと』の程度が、社内でのコミュニケーションの手法や、仕事の成果物における新規性にどのような影響を与えるかについての因果関係を調査すること。

2) 調査手法
オフィスに出社する日数に基づいて3つのグループに分類した:High WFH(週に0~23%はオフィスにいる) 、Middle WFH(23%~40%)、Low WFH(40%以上)。

分類したグループによって送信されたメール本文・添付ファイルの分析を行い、成果物の新規性・創造性を評価。加えて、マネージャー(評価・管理者)によるグループ別の主観的な評価も実施。

3)先行研究(働き方の柔軟性と孤立)
リモートワークは、労働者の働き方により高い柔軟性を提供し、斬新で創造的な仕事を生み出すことに寄与している。

一方、リモートワークは、同僚とのコミュニケーションが疎遠になり、孤立する事例が増え、孤立は仕事の成果にマイナスの影響を与える報告があり。

4)調査結果サマリ

Middle WFH グループの成果物の新規性・創造性のスコアは、High WFHのスコアより明らかに高く、また副次的な評価であるマネージャーの評価も同様で、Middle WFHグループがより高く評価された。

Middle WFHグループは、High / Lowと比べて、ワーク・ライフ・バランスのスコアが高いことに加えて、組織からの孤立感といったネガティブスコアが低く、仕事への満足度が高いことが示唆された。

これらの調査結果は、ハイブリッドワークの程度が企業内コミュニケーションや労働者の成果物に及ぼす影響について、初の因果関係を示している。

4. コロナ禍が収束すれば出社すべきなのか?


タイトルにもなっている問いは、この2つの論文を踏まえると出社すべき。ただし、リモートワークにも良いところはあるので、週に1〜2日間(月に5日~8日)出社するのが最も効果的である。

リモートワークによって組織の交流・コミュニケーションに変化が発生したことは明らかなのだが、結果として個人・組織としてアウトプットにどれほど良い/悪い影響が出たことの因果関係の証明が難しいと考えていたため、本調査結果は非常に参考になる。

また、現在のチームは、特定の曜日には全員出社して、事業・組織横断での顧客課題、機会や脅威を議論・共有する定例を実施しているが、こういった運営方針にそれなりの効果がありそうと思えたのも良かった。

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