小さな靴
「履いた靴をそろえなさい。」
「早紀ちゃんはいつもだね。」
と、お母さんが言うと、
「はーい。ごめんなさい。」
と、早紀は返事をしました。
部屋で着替えをしていた私は、しばらくして玄関に近づきました。すると、お母さんが登り口の奥にあった小さな靴を取り出して、じっと見つめているのでした。早紀は、
「お母さん、何しているの?」
と、声をかけようとしましたが、やめました。小さな靴を眺めるお母さんの様子は、とても異様に思えました。
その小さな靴は、病院で亡くなった妹の久美の物でした。久美が外に出るたびに履いていました。早紀は、久美の小さな靴を眺めているお母さんの頭の中が、久美が亡くなるまでの思い出で、いっぱいになっているのではないかと、想像しました。
久美が初めて自転車に乗った時のこと、百貨店で好きな人形の売り場に駆けて行ったこと、また公園の滑り台で泣き出したこと、公園でお母さんが知り合いの人と話をしている間に、おもちゃで遊んでいたこと。
そして病気になり、もうこの靴が履けなくなってしまったことなどを思い出しているのではないかと、早紀なりに理解できる想いをお母さんの後ろ姿から感じていました。
お母さんは、久美を早紀と同じ愛情を、をかけていたと感じました。
そんなお母さんの様子を見た早紀は、少し嫉妬したような顔をしていました。
私は、そんな思い出を大切にする優しいお母さんを、これからも大切にしようと思い、目の前にある自分の靴をそっとそろえました。
対象年齢 小学校高学年〜中学生
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