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唱う雪

 880 文字

 寒い寒いと靴の下の雪が唱う、空を見上げて星の数など数えられない。
 顔を動かさずに瞳キョロキョロ、足元キョロキョロ、氷があるとえらい目に合う、確認しながら一歩二歩、雪が唱うキュッキュッキュッ、方向を変えるとキュウウ〜ッキュウウ〜ッ、歩き続けて雪の唄聞いていたい、だけど、身体が寒過ぎる〜と抵抗激しく温かい場所に滑り込み身体は安心してだらしない顔になる。

 パーン

 子供の頃、子守り唄に凍裂のパーンパーン、ふくろうの声とは解らずに ホウ ホウ の声に怯えていた現在よりもっと寒かった、普通に氷点下30℃超えの冬。
 遊びたい私はパーンを聞きながら、明日は買って貰ったスキーを履いて滑りたくて仕方ない心を抱きしめて凍裂の子守唄。
 風の子 風の子 こどもは冬の子、雪の中に埋まっても寒かった記憶がない。
 両親が寒かろうと手袋履きなさいと向こうで叫んでいる、帽子は何処に置いて来たのと怒られた。
 探しても見つからない帽子、トボトボ親の前に行き

「探したけどない」

「何処探したの ? もう一回探して来なさい」

 ないものはないんだから、なかったんだから〜とブツブツ心が文句を言っていた記憶が靴の下の雪の唄で思い出した。
 帽子は見つからなかった、春になり雪解けで赤い帽子がベチャベチャに変わり果てた姿で・・👀あった。
 スキーを履いて転んだ時に頭から勢い良くスッポーンと飛んで行ったのね~。

「帽子あった~」

 あった事が嬉しくて、見つけた帽子握り締めて母に見せた。

「………………………..」

  覚えていない。

 洗って被るかい ? とかなんとか言われたのだろうと振り返る。 
 フカフカの新雪の中にダイビングが楽しかった、降ったばかりの新雪に朝の太陽のキラキラが好きだった、私だけの足跡が雪の上につく、野兎の足跡を辿って何処まで行くのやらと歩いて首迄雪の中、ジタバタ、ヒーヒー、命の危険を小さいながらにも経験して、このまま帰らなかったら怒るのかな ? なんて思った事が蘇って来た。

 足の裏でキュッキュッ雪の唄、今日の朝は暗闇の中を野兎の白い身体が柔軟なバネの様に飛び跳ねて横断して行った。

 うさぎの足の裏でも雪が唄うのだろうか ?
 

 

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