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偽もののおもしろさ

 ユリイカ2020年12月号「偽書の世界」が面白い。
 でっち上げ、盗用、剽窃はアウトなのを厳しく指導されるようになった今、真面目に偽書について考えるのは、興味深い。こう、数値などではっきり示されることの少ない人文学系の学問でも、きちんと立証できるという手法は、もっと知られるべき。(悪用する人も出てくるのだろうが)

 基本は書誌学。

 古い文献の信頼性については、中身の精査だけでなく、物理的な本の生態、紙の素材、文字の形、等々も精査せよと。テキストの中身だけを見ていると、なかなか気付かない視点である。

 そう、ネットで様々なテキストが、検索してすぐ読めるようになって、そのテキストがどういう体裁で発表されているかを気にしない人は多いだろう。

 中でも「椿井文書」の話は、人はなぜ薄々偽と分かりつつ受容するのか、偽書制作者も事実と創作を巧みに組み合わせて、ひとつの世界を作り出そうとする点など、人にとっての物語とは何か、を考えさせる。

 そういえば、父方の祖父の家には、祖先は藤原鎌足であるという系図があった、という話は、子供の頃何度も聞かされた。それを話した親類たちも、おもしろ半分という調子ながら、まるっきりの嘘というスタンスでもなかったように思い出される。子供の私は、もちろんその系図を見たかったが、ついに見る機会がなかったのが残念である。
 「椿井文書」が、身分上昇を望む地方の富農に受け入れられたというところも、祖父の家の大きさを思うと、納得できるところであるし、そういう、自分の家が古代の偉人とつながっているという家系図は、特に取り上げられないだけで、その時代には珍しいものではなかったのだろう。