桜の願い

私が福島を離れる数年前、家族と福島の花どころを巡る旅をした。例えば、須賀川の牡丹園、平田村の芝桜、双葉のバラ園、夜ノ森の桜。

どの場所も印象深いが、特に記憶に残っているのは、夜ノ森の桜だ。

夜ノ森の桜は、人々の暮らしの中にあった。街の中に桜の木々が立ち並び、淡く色づく花びらが、優しげに彩りを添える。

人出の賑わいの只中でも、和煦の昼下がりはどこかのどかに。

日が傾き、辺りが夕闇の色をまとい始めると、明かりが灯され街はより祭りの様相を濃くしていく。

妖しい魅力を放つようになる桜花の重なりと、人混みの賑わいと、もてなす住人たち。街中が高揚する。

それが、街の人々の暮らしと繋がりあっているのだ。私はそのことに感激し、思わずにはいられなかった。

この街の人たちは、幸せだ、と。

数年後に何が起こるかなんて知らず。

だから今、願わずにはいられない。かつての日常が再び彼らのもとなるように。

桜の季節にまた出会えるように。


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