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「無批判にコンテンツを浴びるのやめよう」についてつらつら

・これは大事なことですが、本当に大事なことですが、すべての表現には「意図」があります。ある意味で悪意があって物事を切り取り、組み換え、自分の伝えたいことを事象から読み取らせる、これが表現です。
・たとえノンフィクションであっても、ニュースであっても、それは変わりません。生中継ですべてをダラダラ流し続けるような特異な表現でなければ、あらゆる「編集」には意図があり、そこには歪曲があります。
・すべてのグラフに意図があるのと同じくらい、そんなのは当たり前のことです。

・無批判にコンテンツを受け取る。それは例えば、表現されているモノゴトを内面化してしまうことです。描かれているものが事実だと、社会情勢だと錯覚してしまうことです。
・表現はいつも、称揚したいものを称揚するとは限りません。批判したいものを批判するとも限りません。逆説的に悪や問題を礼賛することで、受け手の価値観を揺さぶったり、良識に訴えかけたりする表現もあります。
・表現者自身の中で、価値判断が下せないものもあります。目を背けたくなるようなことだけれど、果たしてこれは是なのか? 否なのか? 答えが出ないものを表現に織り交ぜることも、もちろん往々にしてあります。
・珍しいことですらない。

・「悪は悪だ、とちゃんと描いていればいい」というのは、ひどく一面的な価値観です。表現を大きく縛ることになる。
・「ステレオタイプを強化するような描き方はダメ」というのも同じことです。登場人物や物語が出した結論、交わされた言葉は、その表現の結論であるとは限らないからです。
・もちろん、作者の思想と一致しているとも限りません。
・誰かが何かを貶めるようなことを作中で言ったとして、それ自体が壮大なアイロニーであるということは、これもまた往々にしてあることです。蟹工船を読んで「社畜文化を後押ししている!」なんて言ったらお触り禁止案件ですが、恋は雨上がりのようにに対しては「おっさんのJK消費を肯定している!」みたいな人がガチで出てくるの、本当に不思議なのです。

・表現者の多くは、人の矛盾や理不尽、不完全さを描き出すことに惹かれる傾向があります。現代を生きる「人」をリアルに切り取ろうとすること、たとえファンタジーであっても「人らしさ」を描き出したいと思うこと、が本当に多いです。
・現状、「政治的にただしい人物、社会」がボリュームゾーンを占めていない以上(そんな時代くるのかね、という思いはありつつ)人らしさを描けばほぼ確実に何かしらの差別や抑圧を包含することになります。そういう人の悲しさを、表現者は十分に踏まえてキャラクター作りをすることが多くあります。
・それを「ただしくない」のひとことで排除したり、否定したりすることは、本当に乱暴だし、偏狭な価値観だと私は思います。
・ユッケ食べてたら「肉に火通ってないなんて料理じゃない!」って怒られたみたいな感じ。いやそりゃユッケだから…っていう。「政治的にただしくない!」「政治的なただしさを描くのが目的ではございません」みたいなね。
・小学校の真ん前に見世物小屋はやめてくれ、ならまぁ…って思うけど、「花園神社は子供も通るんですよ!」みたいなこと言い出したらもう戦争じゃないですか。おんなじことなんですよ。
・子どもたちがそんな無菌室みたいな環境で育てられていいはずがない。
・もちろん、ポリティカルにパーフェクトなスパダリ(あらゆる性を含む)を描きたい人も同じくらいいると思います。そういった作品にも同時に揉まれて育つべきだし、それこそが多様な価値観を育てると思います。

・「差別的だ」「暴力的だ」から入って、最終的に「ステレオタイプ強化」「同様のものが多すぎてある属性に抑圧」に着地する茶番、何回繰り返すんですか。
・「差別的」「暴力的」といわれたら、版元は当該作品の撤回を含めて考えざるを得ません。表現の内容そのものが著しく有害であるということなので。
・でも、「こういうの多すぎ問題」だとすれば話は別です。「毒が入っている」とある食品が名指しされることと、「猫も杓子もグルコ○ミンで健康に悪いだろ」と言われるのとでは、メーカーの対応は当然違ってくるからです。
・「流行りものより政治的にただしい」作品は、たぶん探せばたくさんあります。メジャーシーンにねえんだよ! 何もしてなくても番宣とかで仕入れさせろよ! という訴えがあるとすれば、それは現状難しいと言わざるを得ないし、その点をして偏りがあるという嘆きは正当なものと思います。情報流通業の端くれとして、謹んで受け止めます。
・でも、あるんですよね。マーベル系とかいい線行ってるんでしょうし。最近はプリキュアもあるしね。
・すでにある、あなたの価値観にあうもの、あなたをエンパワメントしてくれる作品を激推ししてください。それをメジャーシーンに押し上げることに注力してください。
・需要があると判れば、業界は変わります。誰かのコンテンツを矯正しようとするより、はるかに全方位的に幸せな形で済みます。
・今まさに生まれつつある、生まれたばかりの作品にテコを入れようとするの、暴力だということを認識してください。
・顧客になりうる「一般の方のご意見」が、版元に対して大きな権力であるということを自覚してください。

・「物語に肯定的に描かれたら肯定してしまうじゃないか」みたいなの、本当にやめましょう。
・特にこれからの子どもを、そんな風に無防備に、無批判に育てるべきでは絶対にありません。
・物語に流されないでください。ダメなものはダメ。イヤなものはイヤ。そういう自我をしっかりと持ってください。
・そして、あなたが好きなものを探して、もっとみんなに教えてください。

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