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水中それは

このツイートとリプ欄、および引用の生態系がとても好きなので時々見に行くのだけど、セクハラに対してあれほど「これが嫌ならもう何も言えないじゃんとか甘え」と嘲笑していたはずの人類がまったく同じことを嘆きあい、なんなら「嫌な人は嫌ってアピールしてるはずだから私たち気づいてるはずなんですよ!(だからこれからも気にせずやっていこ!)」とエンパワー()しあっていて、こりゃハラスメントはなくならねーなと笑顔になってしまう。

エンパワメントという謎用語が嫌いだ。ただただ鬱陶しい。

「ブスというのはいかなる文脈でも許されざる言葉、滅ぼすべき」みたいなあの執念はなんなのだろう。「ちょうどいいブス」が火あぶりにされていた時も謎だったけど、「魂の殺人」なる形容が咎められるようになったから、別のところに矛先を向けただけにしか見えない。
私は女の体をしている。でも女の部類ではないなと思っていたせいか、「女はこういうもの」みたいな意味づけを仮に「表象」(?)が発していたのだとしても、とくだん受信することなく今日まで生きてきた。
受信した上に内面化した女の形をしたものにはだいぶ責め立てられた。罵られもした。部族の掟に従わなかったからだ。
死ぬほどくだらないと思うし、詳しくはもう何も憶えていない。

ブスとかブサイクとか調子乗んなとか、たぶん相当言われた。だからなんじゃいと思う。
「ブス絶許!」「女の子はみんなかわいい!」文化が鬱陶しいのは、それに深刻なダメージを受けることが大前提になっているからだ。
ルッキズムはどうした?人のために装うわけじゃない、んじゃなかったのか?
外見至上主義、選好至上主義に抗うために、「みんなかわいい!」に着地する気が知れない。かわいいとか文化だし、移ろいゆくものだし、今かわいいとされるものにあてはまらない特徴を持っている事実を無効化しても何も始まらないだろう。
かわいくない、を無批判に卑下として捉えるの、やめたらどうだねと思う。
でも、こういうことは「多くの人が内面化して苦しんでいるから、余計ややこしくなるから黙っといて」という流れになる、いつものやつ。

もう黙るのはやめようと最近は思う。
本当にあほらしい。マジョリティが困るとか気勢を削がれるとか知らんがな。
「見た目を褒め合うのはいい文化(だから何も考えずに奨励!)」「みんな見た目が良くなりたい気持ちはある(問答無用で高めあってこ!)」みたいなのは本当に迷惑だ。
洗えば落ちる塗装に腐心するの、あまりにも虚無では。

私のことは私が決める。顔面が流行に則していないという素朴な実感と発信を禁じられる道理はない。
それが「女の子の自尊心を損なうの!」とか、女の子私より遥かにマジョリティなんだからちょっとは立ち止まって考えてほしいんですが。
「自虐」ってなんだよ。虐めてねえよ。

美容院がずっと嫌いだった。
かわいくなりたいでしょ!魔法をかけてあげる!みたいな空気が非常に苦痛だったし、たんに邪魔になってきた髪を刈りたいだけなのに、自分でプランを考えないとならない。(希望などねえ!)
正直な話、形としては1000円カットでも坊主でもどうでもいいのだ。でも、髪って短くするとめちゃめちゃ手入れが必要になる。あまつ坊主にすると何らかの記号を発してしまう。無色でいたい、最低限のリソースしか割きたくない人間には本当に面倒くさい装備だ。
とはいえくせっ毛で伸ばすのも大変なので、乾かすのがラクという利点を信じて、しょうがなくこまこま切りに行き、美容院難民を10年くらい続けていた。

「手入れしたくないなら、一回がんばって伸ばしちゃった方がラクですよ」

そう教えてくれたのは、アトピーで両手をガビガビにしながらも「(パーマやカラーなど)薬剤オタクなんです」という業の深い告白をしてくれたメガネの兄ちゃんだった。
見るからに陰キャ。好きなことを喋り出すと止まらない。一般的な世間話は絶望的に下手。でも知識と腕があって、「仕方なく美容院に来る」私のような面倒な客の要望もシステマティックに考慮してくれる、今思えば発達に難のありそうな困った美容師だ。
「何もしたくないのかそうかそうか」
と、一度納得すると、その方向からとことん利便をはかってくれた。ごくごくまれに私が素人考えで「この髪型はラクそうか」と発議しても、「ハチが張ってるから逆に面倒だよ」とバッサリ却下してくれるの、本当にわかりよくて助かった。

彼は髪のことしか喋れないのに、あっという間に偉くなってしまい、いくつも店をかけ持ちするようになって、私も北海道に越したので、直接切ってもらうことはなくなった。
でも、同じようなワケあり職人タイプの美容師in札幌を紹介してくれ、カルテみたいな引継ぎまでしてくれたので、私は転居先でもストレスなく面倒な髪を始末してもらっている。現在の私は半年に一度切りに行けばいいほうだし、背中に届くくらいの長さがあっても、まとめ方を教わったので洗いっぱなしにしてドライヤーすらかけない。とても暮らしやすい。

エンパワーとか応援とか、別にしてくれなくていい。
冷たいことを言ったけど、内面化したルッキズムに深く傷つき、「そんなことないよ!」という空気で世界を満たさないと生きづらい女の子、なるものも多いのだろう。気の毒だとは思う。
でも、あなたが生きやすい空気は私を踏みつけにする。
「連帯」とは何だろうかね。


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