MRIの中で寝る

 E判定をもらったのは、大学受験の合格可能性判定ぶりかもしれない。会社の健康診断で「聴力E」と言われても、
「まあ今日はちょっと調子悪いだけかな」
と放置していたが、2年連続のE判定を食らってしまったので、仕方なく耳鼻科に赴いた。

 東京で一人暮らしを始めてから、耳鼻科には初めて行く。おじいちゃん先生に促されるまま、防音室で聴力検査が始まる。ドアの向こうから看護師さんの雑談が少し漏れ聞こえていたので、いつもより聴力を研ぎ澄ませる必要があった。

「こんな数値は見たことがない」
どうも1000Hzの音だけが聞き取りづらいらしい。いくらおじいちゃんとはいえ、医者の言う「見たことがない」はちょっと怖い。
「紹介状を書いてあげるから」
と近くのでかい病院に行くように言われた。

 でか病院では、より細かい検査を受け、人生初のMRIまで体験してしまった。仰向け状態で円柱の中にゆっくりと進んでいくあれである。最初は少し緊張したものの、円柱の中で聞こえる機械音が妙に心地よく、良い感じに薄暗くて、、、、

 寝てた。α波でも出てたのかもしれない。結局聴力については、そういう遺伝の一種らしい。
「綺麗な耳です」
MRIで撮影した耳の画像を見せながら、でか病院のおばちゃん先生が教えてくれた。1000Hzがちょっと聞きづらいという、遺伝子のバグみたいなことらしい。健康診断ではこれからもEって言われちゃうかもしれないけど、聞こえる日もあるって言うからその可能性に賭けて、診察を終えた。

 なんだか優秀なおばちゃん先生によって"綺麗な耳"ということが証明されたので、これから何か不都合なことを言われたら、
「私1000Hzは聞こえない体質なんですよ」
と伝えていくことにする。

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