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2月、それは人間をやめる季節

 曜日感覚が日に日に無くなっているが、卒論提出まであと何日かだけは明確に分かる。大学院の内部進学とはいえ、一旦学部を卒業してからの、形式ばかりの入学。院生より少し前に成績が付けられる学部の4年生は明日が卒業制作の締め切りらしい。2年前の自分達のことを思い出すと、重なる睡眠不足と栄養不足によるストレスから、あの時期だけ学年全員が人間を辞めていた。女子は誰も化粧なんてしていない。

 当日、提出締切の12:00を迎え、後日の発表を残してほぼ卒業が確定する。眠いのと空腹と達成感で、とりあえずゼミのみんなで近くの回転寿司に行き、ひとしきり空腹を満たして全員その場で寝た。寿司に毒でも入ってたのかと思うくらい、私たちのテーブルだけ全員が突っ伏している動画を、唯一起きていた友人が撮っていた。私は全く覚えていない。

 そのあと学校に戻って全員寝た。会計をした記憶も歩いて戻った記憶もない。ただ全員が数時間前まで追われていた卒業設計から解放されて、欲望のままに空腹を満たし、欲望のままに寝た。特に会話も無かったように思う。2年前はまだ大学で徹夜ができていた時代なので、風呂に入っていたかも定かではない。

 人は本当に疲労困憊すると、目や耳からの情報が頭に届かず思考が停止することを、この卒制を乗り切った院生達はみんな知っている。もう一回経験したいなんて建築変態以外は、誰もがこの2月を懐かしく思い、渦中の後輩を鼓舞するのだ。

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