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「君たちはどう生きるか」は宮崎駿の強い気持ち・強い愛

今日、2023/08/11に君たちはどう生きるかのパンフレットが発売になる。公式の設定や思いが世に出る前に自分だけの自由な感想を残しておきたいから書く!
(いま朝の7:30だけど早朝からオープンしてる映画館あるから手遅れといえば手遅れ)


私はブライダル業界に携わってるんだけど結婚式だからこそ叶うことっていうのがあって、それはいままで素直に言えなかった気持ちを伝えることとか、ずっと口を聞いてなかった兄弟が涙を流しながら仲直りすることとか。とにかく日常じゃできないんだけど、非日常の1日だからこそ叶う奇跡みたいな光景があってブライダル業界の人は頻繁に目撃しているわけです。
(目撃だと自然現象っぽいけど奇跡を起こすためにあの手この手で奮闘した先に奇跡が発生してる)

そんな私は君たちはどう生きるかはを見た時に「あ、結婚式でいつも目撃してるやつだ!!」
と思った。バラバラだった家族がひとつになって新たに一歩を始める物語。

ナツコさん。ナツコさんが好きです。
ナツコさんの姉の夫の妻になること、急に息子が増えることへの複雑な気持ち。上手くやっていけるかなという不安。上手くやらねばという決意。それらの感情を押し殺して、母を亡くし不安定であろう眞人の前ではでーんと構えて安心させなければという気遣い。
そういのが表情や声から伝わってきて応援せざるを得ない。根っから天真爛漫で、眞人に何も気にしてないような態度をとってるわけではない。すごく優しい人だと思う。

そんな人が産屋で「あなたなんか大っ嫌い」って感情むき出しで眞人に言う。あの場面はナツコさんが誰かに乗っ取られたようにも見える。でも乗っ取られたから本心がでたようにも見える。
すごくリアルな感情だなと思った。ひとりの人間に対してあらゆる感情を抱くのは私達が日々繰り返していることで。

好きだから嫌い。嫌いだから好き。
心はシンプルではない。

母の妹と母の子供が親子になるいびつさを(当時はよくあったこととは言え)そのいびつさをなんでもないことだよってすっとぼける演技をしていたナツコさんが限界を迎える瞬間。でも大嫌いだから絶縁したいのではなくそれでもどうにか心通わせたいという葛藤。
ナツコさん。ナツコさんに感情移入しかない。本当に大好き。

すっとぼける演技と言えばキリコおばあちゃん。
御屋敷の秘密も、森のその先に何があるかも、ナツコさんと眞人の醸し出すビミョーな空気も全部知ってる。知ってるくせにすっとぼけている。
いよいよ御屋敷に惹き込まれる眞人の前で観念してすっとぼけをかなぐり捨てて眞人が行ってしまうのを止める。あのシーンのキリコさんなんて言ってたかな。忘れてしまった。でも、わぁ!このばぁさん全部知ってたんだ!!ってとても愉快な気持ちになった。
最初に眞人が失踪した時にナツコさんとおばあちゃん達が武装して探しにくるシーンも、ただの迷子を探す装備ではなくて、この人達異世界がすぐそばにあることを知ってるんだなぁ、知ってて普段は隠してるんだなって思ってワクワクした。

突然ですが私は抽象的表現で感動して泣くという特性がありまして。宮沢賢治等のなんだかよく分からないのに分かるみたいな状況に弱い。あと抽象的な世界観そのものの美しさに感動してよく泣く。
だから御屋敷入ってからのパートはずっと圧倒されていて、大叔父と眞人が出会って空白の空間から星空の下に出たあたりから号泣し始めて以降ずっと嗚咽を噛み殺すくらい泣いていた。その星空のシーンは大叔父が眞人に対してなんか嫌なこと言ったシーンだったので(詳細忘却)、いや己の涙腺、抽象世界に引っ張られすぎやろ!!ぜんっぜん泣くような会話してない!!とセルフツッコミ入れながら泣いていた。

ああ、でも私は本当に宮崎駿の抽象表現が好きだ。ポニョを始めて見た時もポニョが津波に乗って走ってくるシーンで爆笑してしまった。たぶん友達の家で始めて見たのかな。ゲラゲラひとりで笑って友達に心配された。あの爆笑の元は思うに歓喜だったと思う。あのシーンが歓びに溢れすぎて爆笑するしかなかった。
今回泣いたのといい、説明を超えたところで感情が揺り動かされるから宮崎駿監督の作品が好きだ。

それから私は小沢健二の強い気持ち・強い愛も同じ意味で好きだ。曲の終盤の歌詞。人生って辛いことばっかりだよねという抽象的な比喩が羅列される。長い階段、大きく深い川、冷たく強い風。

長い階段をのぼり 生きる日々が続く
大きく深い川 君と僕は渡る
涙がこぼれては すっと頬を伝う
冷たく強い風 君と僕は笑う
今のこの気持ち本当だよね

小沢健二 「強い気持ち・強い愛」

でもここのメロディは歌詞とは打って変わってめちゃくちゃ希望に溢れている。希望と祝福を感じるインストにのせて人生の困難が綴られている。君と僕が一緒なら困難でも人生は悪くはない。
それから「夜と霧」の著者で精神科医のV・E・フランクルという人がいて。彼は第2次世界大戦でナチスに強制収容所に入れられる経験をする。その経験を経てなお講演の中で「それでも人生にYESという」という名言を残す。

ツイッター(X)を開けば反出生主義が勢いを増して中国では寝そべり族が溢れるのはクソみたいな世の中がデフォルトだからだ。世界は美しくない。

そのクソみたいな世界で私は強い気持ち・強い愛を聴いた時、「それでも人生は美しい」と思ってしまう。
君たちはどう生きるかのラストはまさに強い気持ち・強い愛であった。

眞人は現実に戻ればそこは戦争真っ只中の世界。自傷もいとわない日常。ヒミは現実に戻れば火事で焼死の未来が待っている。
それでも。それでも人生を生きたい。生きてあなたとまためぐり逢いたい。そして扉をあける。自分の人生にYESという。

宮崎駿監督の強い気持ちと強い愛が刺さっていよいよ涙が止まらなかった。
世界を肯定してくれてありがとう。

そしてその先はすっとぼけることなく信頼しあえている家族が見えるエンディング。
家族が修復する物語を私は職場で何度も何度も見ているけど宮崎駿が描くとこういう世界になるんだってすごくすごく胸がいっぱいになった。

エレベーターやエスカレーター混むのが嫌でエンドロール終わると真っ先に出口に向かう派なんだけど
君たちはどう生きるかはエンドロール終わったあとも涙が止まらなくてしばらく席で泣き終わるのを待たなければならなかった。

なんか終わり方分からんけどこれが今の率直な感想です。あと100回見たい!!

あとどうでもいいけどとなりのトトロのヤギがヤギは歯が生えないのに歯が生えてるというネットミームが昔からあるけど、そこへのカウンターとして青鷺の歯がずらっと並んだ気持ち悪い表現してんのかなーーって。そこだけ穿った見方しちゃったごめんなさい。

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