昔書いたショートショートです。

ショートショートとは、だいたい原稿用紙10枚分の短い小説です。
それのさらに短い3OR4(3行か4行で終わるお話)に分類されます。
『磨製石剣』などの小さいズ」(自由テーマ)

『磨製石棒』

 その呪われた磨製石棒は縄文人の呪術使いによって作られ、どんな所有者でも残忍な殺人鬼に変えてしまうのだが、持ち主が戦いで死んでからは、ずっと地中に埋まっていて戦いと血に飢えていた。
 何千年経過したか解らないほど月日が巡ったある日、近くに落下した雷によって大木が倒れて地面が崩れることで、呪われた磨製石棒はもう一度日の光を浴びた。
「人間が近寄って来るのが見えるぞ。さあ、愚かなる人間よ、私を手に取れ。そして再び血を流し合うのだ」
「これは雷様の太鼓バチじゃあな。雷様が取りに来るまで、誰のものでも無い宝物として、神社で大切に保管すべぇ」

『青菜』

「母さん、ビールのつまみが足りないんだが、昨日のほうれん草のお浸しはまだ冷蔵庫にあるかい?」
「青菜はもう食ろう判官義経。鯉の洗いならありますよ」
「家の鯉の洗いはしゃもじでよそうんだよな。よしよし、弁慶、弁慶」
「父ちゃん、それは落語なら『よしよし、義経、義経』だし、どこの世界にしゃもじでよそう鯉の洗いがある。これは『おから』だ。母ちゃん、そこは『九郎判官』で止めないとイカンし、出す順番が逆だ。本当に、家は夫婦揃って落語好きのボケ好きだな。私が突っ込まないと、ボケとボケで果てしなく迷走する」

『見え過ぎてしまって困るの』

 できてしまったから自分でも驚いたわけだが、若い女の子の服だけが、透けて見えるようになるコンタクトレンズを発明した。
 それからすぐに気の合う彼女ができ、深い意図もなくそのコンタクトレンズをつけたままでデートにのぞんでしまった。
「ねえ、この服とこっちの服とどっちが私に似合うと思う? あなたが選んで」
 と彼女に言われた場合、普通の男なら服が見えなくて困るだろうが、幸い私には目の裏側にコンタクトレンズを仕舞える特技があるので、目をこするフリをして仕舞って事なきを得た。

『龍の餌』

「君と一緒に呑んでいたらもう終電間際か、そうだ、龍の餌を買って帰らないとな」
 と言いながら、ドイツから帰国したばかりの上司は、閉店直前のショップに立ち寄って、クリームたっぷりのケーキと薔薇の花束を買った。
「えっ! 課長、龍を飼っているのですか? ケーキとかお花、そんなものを食べるんですか?」
「ああ、そうさ。ツノと鋭いかぎ爪を生やし、カミナリをドーンと落とし、嵐を起こし眼を光らせて口から炎を吐いて暴れ狂う。妻という名の一匹のご機嫌伺いには、どうしても必要なものなんでね」
※龍の餌とはドイツの言葉。妻が家で待っているのに、自分の仲間と遅くまで呑んでしまった夫が罪滅ぼしに買って帰るお土産のこと。ドイツ語でDrachenfutter.

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