昔書いたショートです。

『楠ノ木』などの3or4
 
『楠ノ木』

「なあ、小夜子さん。お向かいの楠ノ木。やけに綺麗に見えないか?」
「ホント、手入れした訳でもないのに、どうして今年はいつもより美しいのかしら?」
次の日、あえなく楠ノ木は宅地造成で伐採され、切り株だけになっていた。
「あなた、あの楠ノ木は私たちに必死で助けてとお願いしていたんでしょうね」

『透明人間になれる薬』

 透明人間になれる薬を開発した研究所に強盗が押し入った。
「この液体が透明人間になれる薬だな」
「やっと成功したんだ。お願いだからその薬は飲まないでくれ」
という必死の研究員の訴えを無視して飲んだ強盗は、泡を吹いてその場で絶命した。
「だから飲むなと言ったのに。これは液体から蒸発したガスを鼻から吸って使う嗅ぎ薬なんだから」

『新型人工毛髪』
今までの人工毛髪は頭皮に植毛しても伸びないが、彼が開発したのは画期的な伸びる人工毛髪だった。
「こんなすごい物をどうやって開発したんだ? さぞ開発資金や設備投資がかさんだだろう?」
「大してかかっていないよ? 実家の蔵でホコリをかぶっていた永遠に髪の毛が伸び続ける日本人形の髪を抜いてきて、それを寒天培地に移植して温度管理して増やしているだけなんだ」

『松○家千とせ』

 私の通っている女子校の校長が痴漢容疑で逮捕され、記者会見を開いているのがテレビニュースで流れた。
「どうして家庭も地位もある教育者がこんなことをしたんですか!」
と記者に問い正された校長は
「わっかるかナ~? わっかんねえだろうナ~?」
とうそぶいて答えていた。
「この発言自体許されないけど、令和時代の今じゃあ若い視聴者には松○家千とせ自体が『わっかるかナ~? わっかんねえだろうナ~?』なのよ」

『カサブランカ』

「君が実験台になってくれたおかげで新発明が完成したよ。ありがとう。乾杯」
「愛するあなたのため、ひいては私のためですもの」
 最愛の妻が事故で失明し、楽しみだった読書も出来ずに一日中家で塞ぎ込んでいるのを不憫に思った夫が、眼孔にはめ込んで使う本物の目とまったく変わらない見た目と機能を持つ人工眼球の開発に、今成功した。
「これが本当の君の瞳に乾杯だ」

『探検隊のユニフォーム』

宇宙探検隊が帰ってきた。
今までの探検隊はみんな宇宙怪獣に食べられていたが、天女の羽衣のようなヒラヒラを宙に漂わせている新型布製ユニフォームを着た探検隊は全員無傷で帰ってきた。
「従来の装甲服より生還率が高いこのユニフォームには、すごい武器でも隠してあるのですか?」
「いえ、このヒラヒラには宇宙怪獣が一番嫌がる味を付けてあります。隊員を食べようとしても、次の瞬間、みんな吐き出してしまいます」
 

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