昔書いたショートショート 2

ショートショートの中でも短い3or4(3行か4行で読み終わるショートショート)に分類される読み物です。

『ミンナリンダ・アイクのレコード』ほかの3or4」(自由テーマ)
 
『ミンナリンダ・アイク』

 珍しくて古いLPレコードを、ネットオークションでレコードマニアに売りつけるのが生業の骨董屋が、中古レコードショップの廃盤コーナーから、ミンナリンダ・アイクという、聞いた事のないミュージシャンのレコードを見つけ出した。
「このミュージシャンは聞いた事がない。集めておけば、高く売れるかも」
 と思った骨董屋は、ミンナリンダ・アイクのレコードを集めて回ったが、どんな音楽なのか聞いてみようとレコードジャケットを開けたら、中に入っていたのは、レコード型にハサミで切り抜いたボール紙を黒く塗って鉛筆で同心円を描いただけのものだったし、中のライナーノーツも全部手書きだった。
 知り合いのジャズ喫茶の店長に、ミンナリンダ・アイクを知っているかと聞いてみると
「ミンナリンダ・アイク? ああ、作曲も楽器の演奏も一切出来ない単なる黒人なんだけど、レコードは出したい、ジャケットイラストも描きたい、インタビュアーには収録中の裏話や、影響を受けたり、尊敬しているミュージシャンをたっぷり語りたいという情熱だけは人一倍の奴でな。ジャケットは勿論、中のライナーノーツもレコード自体も全部ボール紙で自作して、中古レコードショップの棚にこっそり紛れ込ませては、レコードマニアにこんな無名のミュージシャンがいたんだと勘違いさせるイタズラ者だ。レコードマニアの間ではアウトサイダー・アーティストとして有名人だよ」
 
『Meet James Ensor.(ジェームズ・アンソールに会いに行こう)』

 ぼくの親戚で、土産物屋を経営していた、友達も家族もいないおじさんは、いつも関西系球団の白地に黒い縞模様の入った野球帽をかぶっていて、おじさんは
「わしな、金が貯まったら、ベルギーのジェームズ・アンソールに会いに行かないといかんねん。あいつ有名な画家やけど、友達おらんから」
 と口癖のように言っていた。
 そんなおじさんは、ぼくが高校に入学した頃に突如行方不明になってしまい、うちの親は心配して警察に行方不明者届を出したらしいが、おじさんはついに見つからず、経営者のいなくなったおじさんの土産物屋は取り壊された。
 それからしばらくして、ぼくが大学を卒業して社会人になった頃に、日本でジェームズ・アンソールの個展が開かれたので行ってみると、パンフレットにはジェームズ・アンソールは生年1860年4月13日、没年1949年11月19日、生涯独身で、友達もおらず、母親の営む土産物屋の屋根裏部屋をアトリエとしていたと書かれていた。
 そして、会場に展示されていたジェームズ・アンソールの代表作 『オルガンにむかうアンソール』『仮面に囲まれた自画像』『キリストのブリュッセル入城』のどの絵を見ても、隅っこにはしっかりと野球帽をかぶった笑顔のおじさんが描かれていた。

『手品使いのジャガー』

 天王寺動物園から脱走した手品使いのジャガーが、大阪の新世界界隈に逃げ込んだというニュースがテレビから流れ、大阪府警と猟友会がローラー作戦でいぶり出そうとしたが、ついに捕まらなかった。
 数日後、私が新世界に呑みに行くと、逃げ出したジャガーとバッタリ出くわして、大声を出そうとしたが、ジャガーの方が一足早く人混みに紛れて消えてしまった。
 どこに逃げ込んだのかは分かるのだが、今どこにいるかは分からない。何せジャガーが逃げ込んだのは、新世界名物のアニマル柄の服を着たおばちゃんの服の中なのだ。
 

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