戯曲「riverbed」と雑記

 あっという間に春が過ぎて、梅雨に入り、着るもので季節を感じるような少し寂しい日々を送っています。友達と遊んで、新しい物を見たり、食べたり、そんな当たり前から一度離れると、その数年前のことが輝く青春のような、もう戻れない遠い日々のような気がするのは何でしょうね。そんなことはないのに。
 さて、今日は戯曲について、ここへ書き留めておきたいと思います。長くなりますが、手紙のような気持ちで読んでくれると嬉しいです。
 去年、福岡学生演劇祭へ審査員として参加して、出場団体への作品の講評に、世の中にはたくさんの表現方法があるのに、なぜ演劇でなければならないのか。こんな風に書いたのは、自分自身への問いでもあったように思います。ある意味副産物のように生まれたものには、当人は気づかない、気づきにくいと言うのでしょうか。簡単に言ってしまうと客観性を強く意識しなければ、その副産物こそが実は重要な出会いであることに気づけないのではないか、私の希望的観測かもしれませんが、映像越しにも関わらず、学生たちの目指す演劇がちゃんとそこにあったからこそ、このように改めて考えた時間でした。
 それがあってなのか「riverbed」は構造や台詞よりも、自分自身が問いかけを持って書いた気持ちが大きいかもしれません。それは作家自身との対話という意味ではなく、3人の登場人物がどのような関係性を持って、何故その出来事の中にいるのか、そこに比重を置いたと思います。ちなみにこの作品は、ヘッセの「車輪の下」がモチーフになっているのですが、今の時代だからこそ「車輪の下」のような作品を書かなければという使命感は全くなく、私の本棚に並んでいて、なんとなく手に取った本の一冊でした。正直大人になって読んでも、そう面白い話ではないです。ただ主人公のハンスの劣等感、挫折は、時代が移り変わっても人間が持ち続ける負の感情として何も変わらない。そんなところに共感があって、その辺りは大きく反映されていると思います。
 いつもはある程度プロットが出来て、タイトルを考えるのですが、「車輪の下」をイメージしていたので先にタイトルを決めて、プロットを書くスタイルでしたね。「riverbed」は川底という意味で付けました。
 もう一つ、「川」が公演のテーマになるのですが、この戯曲を書いている時に、偶然川へ連れて行って貰える機会がありまして、それはすごく良かったです。前日が雨だったので、川の水かさが増して大荒れな感じや、あちこちに小さな渦が出来てたんですが、水鳥がその渦の中でくるくる流されて遊んでるのがすごく可愛かったです。この可愛いエピソードは戯曲には出てこないので、ここに記しておきます。
 今日は「riverbed」の着想や、内容について少しでも伝わるといいなと思いながら書きましたが、取り留めない内容だったかもしれません。本当に最後まで読んでいただきありがとうございました。戯曲販売の予定はないので、公演が終わったら一部戯曲公開をしようかなと考えてはいますが、いかがでしょうか。
 最近ようやくコロナ終息の気配もありますが、一日も早く日常に戻って欲しいですね。それでは、健康にお気をつけて、元気にお過ごしください。
追伸 この戯曲を上演するにあたり、演劇祭の出場団体だったギムレットには早すぎるさんが今回役者で参加していただけることになりました。いつか一緒にお芝居がしたいと思っていたので、楽しみです。


**「riverbed」あらすじ**
その町は工業で成り立ち、小さな工場が密集しているその区画には、対岸からでは顔が認識できない程の大きな川が流れている。自動車修理工で働く張本は、階段から滑り落ちたその帰り道、大学受験のカンニングが元で高校を退学してからは一度も会っていなかった重田と栗栖と川沿いの土手で再会する。小さな町では人々の噂話で初恋の相手だった栗栖は結婚して、遠い町で暮らしていると張本の耳には届いていた。栗栖は高校の時突然眠ってしまう病を発症し、今も症状は変わらず時々眠っていたが、張本と重田は当たり前に受け入れ、高校時代の話、張本の職場でのこと、そして栗栖の話へと移り変わってゆく。夏の夕刻、3日間の出来事。

参考図書
車輪の下 著 ヘルマンヘッセ 集英社文庫
デミアン 著 ヘルマンヘッセ 新潮文庫
よだかの星 作 宮沢賢治 絵 中村道雄 偕成社
ナルコレプシーと生きる―向き合い方から在り方へ― 著 川崎俊 幻冬舎

78-spirit performance#2『カワトナガレル』
『レーヨン姉妹』作・池田美樹
出演・中村公美/ともなが舞/月沢友理香/井上真里奈
『riverbed』作・宮園瑠衣子
出演・古賀駿作/山下万希/岡部竜弥

△ぽんプラザホール△
2022/7/3(sun)13:00/18:30
2022/7/4(mon)18:30


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