見出し画像

ひかりあれ

『お盆休みに帰省した人々のUターンラッシュが──』

 ピ。……あ、またチャンネル変えやがったな、と海月みつき は静かに悪態をつく。

 先ほどから海月に断りなくチャンネルを変えているのは、海月の親友、水戸渚月みと なつき である。

 なつき、という中性的な名前と、可愛らしい容貌から、昔は可愛い可愛いとクラスの女子から近所のおばちゃんに至るまで絶大な人気を誇っていた。

 だがしかしその面影はどこへやら。今ではちょっと擦れたおじさんに片足を突っ込んでしまっていた。

「時の流れは残酷だなー……」
「……」

 渚月を横目にそう呟いても彼は相変わらず無表情でチャンネルを変えている。

 Tシャツを適当に着て、床に落ちていたスウェットをこれはまた適当に履いている三十路手前の男性。

 今でも端正な顔立ちをしているものの、ふわふわとしたクセのある黒髪も大人の彼には少々暑苦しそうで、普段の表情にもいくらか影が差すようになってしまった……気がする。

 諸行無常とはこのことか、と海月が遠い目をしていると、

「はあ。夏は嫌だな」と、ため息が聞こえてきた。渚月、本日三回目のため息である。

「タバコ、どこだっけ」
「おまえの右斜め後ろに転がってるよ。ライターも一緒にな」
「ああ。あったあった」

 海月が指差せば、渚月はのろのろとタバコとライターを掴んで、ベランダへと向かう。

 そんな彼の背中を追って、海月もベランダに足をのばす。

 かなり築年数の経ったアパートの二階、ぬるい風が頬にあたった。

 カチ、カチ、と音がして、ふう、と煙が夏の空に溶けていく。

「なあ。タバコ、やめないの」
「……やめられないな」
「そっか」

 やめられない、といった渚月の表情がわずかに曇る。だってそりゃ、タバコ苦手だもんな。

 今吸っているのもずいぶんと可愛らしい銘柄だし。

 渚月は大きく息を吐いて、青空を見つめている。

 渚月がタバコを吸い始めたのはいつだったか。

 大学三年生の頃には慣れた手付きで嗜んでいたように思う。嗜めてないけど。

 タバコの香りが広がるベランダの下からは車の音が聞こえてくる。

 それだけじゃない。このまちからは子どもたちがはしゃぐ声、自転車のベルや、様々な人の営みの音にあふれている。

……懐かしい。

 ああ、いいなと、渚月の方を見やれば、彼もうっすらと目を細めてこのまちを眺めていた。

 お互いに言葉を交わすことなくただ目の前の景色を眺める。海月はこの沈黙が心地よかったのだが、

「……、海月」

 ずる、と渚月の手がベランダの柵を滑って、そのままうずくまってしまった。

「渚月?大丈夫か!?」

 渚月の異変に海月が慌てて声をかければ、「……きもちわる」と、彼は普段から色の白い顔を真っ青にしていた。

「もー……、だからタバコ向いてないんだって」
「うう、」
「ほら。部屋に戻ろうぜ。暑いからさ、余計に辛いんだって」
「海月、」

 ぽた、と渚月の声が落ちていく。

 海月、みつき。ああ、俺の名前だったな。海月くらげ じゃないぞ、なんて。

「渚月、ほらはやく」

 大人は泣かないものだと思っていた。けれど、実は違うらしい。

 海月、と自分の名前を呼ぶ渚月の顔を見て、そう思った。

 すんでのところで感情を飲み込んでしまうのは、彼の昔からの悪いクセだと思う。

 胸の奥でわずかにひりつくものに気づかないフリをして、海月が笑いかければ、渚月は渋々といった様子でベランダの扉をガラガラと開けた。

 そんな様子に海月が胸を撫で下ろしていると、渚月が扉を閉めようとしていて、海月は危うく締め出されるところだった。

「あ、コラ!俺も部屋に入れろってば!」

◇◆◇

 夕方のメロディチャイムがまちに流れた頃、キッチンからはぐつぐつと何かが煮える音と出汁の香りが漂っていた。

「渚月、何作ってるんだ?」と、渚月が菜箸でかき回している鍋を見れば、そこにはすっかりくたくたになったうどんにかき揚げ、さらにちくわやカニかま、唐揚げといったバライティに富んだ食材が放り込まれていた。

……完全に残り物たちである。

「今日もうどんだな」
「変わり種うどんだな」
 渚月が力無く呟くものだからつい笑ってしまった。
「でもさ、出汁が染みて案外うまいだろ」
「ふふ、」

──あ、今やっと笑ったな。

 思えば、渚月が海月の前で笑うことなんてなかった。歳をとっても控えめに笑うところも昔と変わらない。けれど──

◇◆◇

 カチ、コチ、と狭いワンルームに時計の秒針の音が響く。

 渚月はすっかり寝入っているようで、そばのベッドからは規則正しい寝息が聞こえてくる。

 一方で海月はすっかり薄暗い部屋に目が慣れてしまっていて、このまま眠ってもよかったが、一年振りの友人の家だ。少しくらい散策してもバチも当たるまいと辺りを見渡した。

「なんだあれ」

 海月が見つけたのは、男性の部屋には似つかわしくないものだった。可愛らしいリボンがあしらわれたピンクの紙袋。

「……おまえが寝てるのが悪いからな?」

 イタズラっぽい笑みを浮かべてそうっと紙袋の中を覗き込む。そこにはハンドクリームと、それから……、

美帆みほ 拓海たくみ だって!?」

 海月は思わず声を上げた。ハッと我に返って振り返ると、渚月はすやすやと眠っていた。

「はは。ふたりとも大きくなったなあ」

 笑みがこぼれる口元を手で押さえる。海月の見たものは、一枚のメッセージカード。

 キラキラとしたインクで『美帆と拓海より』と書かれている。拓海は癖字だったからおそらく美帆が書いたのだろう。

 美帆と拓海は海月の弟と妹である。

 拓海は海月の二歳下だが、美帆とは年が離れているので、こんなに綺麗な字が書けるようになったのかと感動してしまった。

 多分、このハンドクリームは美帆が選んだものだと思う。

 きっと、自分が一番気に入ったものを渚月に渡した。美帆はそういう子だ。当然、渚月は素直に喜んで、もらった袋ごと大事にして、このハンドクリームを使っているんだろう。渚月はそういうヤツだ。

 結構量が減ってるし。これ大学の女の子が使っていたものと同じじゃないか?

 フローラル香る俺の親友か……。

「あ、」

 海月はつい声を漏らす。ハンドクリームに気を取られてしまっていたが、紙袋の傍らにあるのは、

「まだ持ってたのか。女々しいな、おまえも。……俺も、人のこと言えないけどさ」

 ゆるりと可愛い海洋生物が描かれたメッセージカードだった。

 大学生の頃、渚月の誕生日に渡したものだった。当時、まだ幼かった美帆に「海月おにいちゃんも渚月にお手紙書くの!」と半ば流されるかたちで書いたものだった。

 海月も柄ではないな、とは感じていたものの、改めて普段の想いを言葉にしたためるのは、意外と楽しかった。

 渡した時も相当気恥ずかしい思いをしたが、今見ても恥ずかしいものは恥ずかしいものだなと、口元を手で覆っていると、

「それ、いいだろ」と、急に声が飛んできて海月の肩が大きく跳ねる。振り返れば、渚月がごそごそと海月の方を向いて、ふわふわと笑っている。

「おま、渚月……起きてたのか」
「美帆ちゃんと拓海にもらった。……いい匂いがする」
「そう言ってくれるならふたりとも喜ぶさ」
「……おまえにはあげない」
「わかったわかった。悪かったって」
「…………、」

 渚月は夢見心地なのだろう。次、起きた時にはきっと、忘れている。

「起こして悪かった。ついでに紙袋を覗いたことも反省してるって」
「ほんとうに?」
「ほんとだよ」
「嘘つくなよ」
「嘘なんかついてないって」
「来年もさ、」
「……来年も海に行こうって約束しただろ」
「そうだな。約束、してたよな」
「うん」

 渚月の言葉に海月の心がざわめく音を立てるが、無視をして渚月の話に耳を傾ける。

「俺さ、今、スクールカウンセラーしてるんだよ」
「美帆から聞いたよ。出勤初日に生徒全員の顔と名前を覚えて話しかけに行ったらびっくりされたんだって?」
「そうなんだよ。親睦を深めようと思ったら、裏目に出てさ。逆に引かれちゃった」
「初対面の人が自分たちの名前と顔を覚えてたらちょっとびっくりするかもな」
「確かにそうかも」
 渚月は目尻に優しいしわを作って笑う。
「海月はなんで俺がカウンセラーになったかわかる?」
「……──それは、」
「俺さ、別に大それたことはできると思ってないよ。俺の体はひとつだし、手を引ける腕だって二本しかない。けどさ、人って些細なことで傷つくけど、些細なことで救われたりもするだろ。ほんの小さなことでああ、まだ生きてやってもいいかな、なんて、思える時だってある。そんな少し面映い記憶のささくれになれたら、って」
「なれるよ。きっと、渚月なら」

 海月は渚月のベッドに腰掛けながら言った。すると渚月は海月を見て、

「公園で海月がさ、手を引いてくれたあの日、まだ生きてやってもいいかなって思ったんだ」と、あまりにも懐かしいことを言い出すものだから、

「いつの話だよ、それ」

 と笑ってしまった。

「ありがとう、海月」

 その言葉とともにはらはらと雫が落ちていく。

「俺、ありがとうって言えないままだったし、」
「いいって。そんなこと気にしなくて」

 頬を伝って広がっていく。

「カウンセラーになったのは、おまえのせいなんかじゃない」
「おい、渚月、泣くなって」
「海月、」

「泣いてるのは、おまえだろ」

 カチ、コチ、と時計の秒針の音が嫌に響く。海月は薄暗い部屋に立ち尽くしていた。渚月はまた眠ってしまったようで、規則正しい呼吸が聞こえてくる。やわらかな寝顔を見て、

「渚月、」

──ごめんな、とは、言えなかった。言えないままなのは、一体、どちらなのか。

『カウンセラーになったのは、おまえのせいなんかじゃない』

 そんな顔、するなよな、と笑いかけるのが精一杯だった。

「ったく、渚月もどうしてこんな狭い部屋に住んでるんだか」

 と、海月は目元と、少しの後悔を拭って悪態をつく。もちろん渚月は夢の中なので返事は返ってこないけれど。

 渚月は社会人だ。けれど、わざわざ学生の一人暮らしのようなワンルームの部屋を借りている。駅やバス停からはほど近いが、築年数が古い。だから、家賃だって相場より安い。

 キッチンも小さいし、コンロも一つしかない。シンクだって小さい。夕飯の洗い物の時なんか何度もシンクのふちに鍋をぶつけて、水があらぬ方向に飛んでいった。

 まるで海月が一人暮らしをしていた時の光景だった。きちんとご飯を作ると明らかに作業スペースが足りなくなるのも、シンク周りが水浸しになるのも、おまけに服がびしょ濡れになるのも。

 キッチン周りだけではない。肝心の部屋だって狭い。六畳ほどの部屋にベッドやソファー、テーブル、ラック……はまだいいのだが、本棚が二台もあればかなりの圧迫感が出るのだ。

 引っ越そうと思えばもっと広い部屋で暮らせるだろうに。

 圧迫感の元凶である本棚には、教本や専門書のほかに、海洋生物の図鑑や写真集が隙間なく並べられている。

「好きだなあ、おまえも」

 と、海月はクラゲの写真集の背表紙をなぞった。

◇◆◇

「海、行こうかな」
「は、海?」

 翌朝、海月の開口一番がこれである。まさか夜中のことを覚えているのかと、海月は冷や汗をかいたが、

「気分転換がしたい」

 と、当の本人は呑気にパンをかじっている。どうやら覚えていないようだ。

「急だな」

 海月が安堵の息を吐いていると、渚月は床に転がしていたスマホを手に取って、おもむろに触っている。カチ、とボタンを押す音がして、画面が切り替わる。

 一瞬見えたホーム画面には、笑顔の少年がふたり。背後には海、渚月の今より明るい髪色。これは、

「うん。電車で行けそう」

 と、渚月がうんうんと頷く声に、海月の思考が中断する。すると渚月はスマホを置いて、そそくさと着替え始めた。

 寝起きおじさんスタイルから瞬く間に爽やかな好青年のできあがり。

 Tシャツにチノパンというシンプルなスタイルだがサマになっている。先ほどまでの緩慢な動きはどこへやら。

 かじりかけのパンはテーブルに放置されたままだったが。

「おまえ、そういうところあるよな……」と海月は半ば呆れながら渚月について行く。

 ところで、渚月が電車やバスで移動するのは、車の免許を取ったばかりの頃に「アンタは二度と車に乗るんじゃない!!」と、助手席に座っていた渚月の母にものすごい剣幕で迫られたからである。

 渚月の運転は命がいくらあっても足りない。

 名誉ペーパードライバーの俺の親友、だな……。

 ガチャン、と渚月がドアの鍵をかけて、いざ海へ。

 ふたりの足取りは軽く、電車の乗り継ぎもスムーズだった。車窓から見える景色が街中から青々とした木々へと変わり、やがてキラキラと光る海が見えてきた。

 乗客もまばらになっていき、目的地の無人駅に降りたのは、渚月たちくらいだった。

 駅近くのコンビニのイートインコーナーで簡単に食事を済ませて、目的地へと向かう。

 たどり着いたのは小さな浜辺だった。人気はなく、空高い陽射しが短い影を一本、映し出していた。

 街中よりやや涼しい潮風が、肌に触れる。以前、渚月と一緒に海に行った海は、結構人がいて賑やかだったが、ここでは静かな波音だけが聞こえてくる。

 波音が水平線の向こう側へと誘っているようだった。

「うん。来てよかった」

 と渚月は波打ち際へ足を進めながら行った。

「俺もまた、おまえと来られて嬉しいよ」

 約束、したもんな、と海月が笑えば、渚月はさざなみの声に耳を澄ますように目を閉じた。

「亡くなった人がさ、海の向こうにいるって、本当かな」

 渚月の言葉が揺れる水面に落ちる。海月も渚月と同じように目を閉じた。

「死んだらさ、お空のお星さまになるって、信じたこともあった」

「目に見えない人のこころが知りたかった」

「自分のこころもわからないくせに、馬鹿だろ、俺は、」

「……どうして、どうして死んだ。どうして何も、教えてくれなかったんだ」

 両の手からこぼれ落ちたものが潮風に、波に、攫われていく。

「…………海月、」

──は、

 目前で高い水飛沫が上がって、海月はその光景に絶句する。

「おい!こんな時期に海に入る馬鹿がどこにいるってんだ!!」

 ザブザブと押し寄せる波を押しのけた先には、海に沈む渚月。渚月の肢体には、おびただしいほどの腕が絡みついていた。

「渚月!おまえはまだこっちに来ていい人間じゃないんだよ!!」

 必死に渚月の腕を掴めば、腕が渚月を逃すまいとさらに渚月を締め上げる。水中からごぼ、と苦しそうな息が漏れた。

「渚月をはなせ!!」

 と、怒号を飛ばせば一瞬腕たちの力が緩む。その隙をついて一気に渚月を引き上げた。

「……、み、つき」

 海月が焦点の合わない目で見上げてきた。

「まったく、世話焼かせんなよな」
「……海の向こうに、いるんじゃ、なかったの、」
「バーカ」

 渚月を抱き抱えて笑う。渚月も笑って、

「みつき、ごめ……」
「渚月」

 それ以上は言わせてやらない。

「……生きろ、渚月」

◇◆◇

「……ぅ、」

 頭がガンガンと痛い。渚月は混濁した頭をどうにか持ち上げて体を起こす。四肢にはおぞましい痕がこびりついていた。

「……!うっ、おえ、ゲホッ、ゲホッ!」

 途端に苦しくなって、びしゃ、と喉から上がってきたものを吐き出す。

「俺、何を、」

 と顔を上げた先には、

「みつき……?」

……懐かしい姿があった。短髪の焦茶色の髪と、優しい目元をした彼。

 渚月の親友、鈴木海月すずき みつき である。

 信じられない光景に渚月の声が詰まってしまう。そんな渚月を見かねたように、海月は屈んで微笑んだ。

「あは、」

 馬鹿だな、本当に。寝ても覚めてもこんな夢を見るなんて。

 海月は、大学二年生の夏に亡くなった。

 自ら、命を絶った。一人暮らしをしていた部屋で亡くなった。海月を見つけたのは彼の両親だった。

 どうして海月が死のうと思ったのか、誰ひとりわからなかった。クラスメイトも、サークル仲間も、友達も、家族だって、そして、渚月も。

 家族思いの兄だった。両親と弟、妹が大好きだった。努力家で真面目だった。よく笑い、周囲をパッと明るくできる太陽のような人だった。

 そして、あの日、渚月の手を引けるようなあたたかさも、優しさも、持ち合わせていた。

 渚月と海月は小学校から大学まで一緒だった。だから、これからもそうなんだって思っていたんだ。

 信じて疑わなかった。だから、海月の『たすけて』に気づけなかった。

 海月のこころが、知りたいと思った。本当は、そんなことできっこないってわかっていた。

 海月のこころは海月だけのもので、誰のものでもないのだから。

 渚月が母にカウンセラーになりたいと、大学院に進学したいと頭を下げた時、

『海月くんが亡くなったのはどうにもならないことで、アンタにとって辛いことだよ。その道に進むのは』と言われた。

 母は、渚月がこれからもずっと、海月の死と向き合わないといけない道を選んだとわかっていたし、渚月自身も、辛くても何かに縋らないと生きていけそうになかったから。

 今、こうして生きている。人の心に寄り添う仕事に就いて、海月の死から時間が経って、海月は、思い出になった。

 あれから、色々あった。あれから、様々なことが変わっていった。

「みつき。……ありがと」

 でも、目の前の親友は、少し眉尻を下げて微笑むだけである。

 これは、変わらない。

 時々、海月が夢に出てくることがあった。自分に原因があったなら、なじって欲しかった。周囲に不満があったなら、愚痴のひとつでもこぼして欲しかった。

 でも、海月は、ただ、微笑むだけ。夢でも、現でも、変わらずに。

……渚月は、この表情をよく知っている。

 すると、海月は立ち上がって、渚月に背を向けて海の方へと歩きだす。ふわり、と体が浮いて、渚月のことなんか、知らない、というように。

「みつき、どこに、」と呼びかけても、素知らぬふりだ。

──ああ、今日で帰るのか。

 おまえが何も言わないなら、俺が好きに言ってやる。おまえがそんな表情をするのは、後ろめたいことがある時だ。

「みつき!!」

「バレバレなんだよ!!おまえは!!」

「おまえはさ、自分が死んだこと、後悔してるだろ!!」

「そうやって笑って誤魔化しても!!何年親友やってると思ってるんだ!!」

「おまえのこころなんて、わかんない!!でも、」

「みつき!!おまえが死んだこと、俺にはぜっ──たい!!謝るなよ!!」

「一度でも謝ってみろ!!友達なんかやめてやる!!」

「俺たちは、親友だろ!!」

 渚月が叫ぶと、ざあ、と風が吹いて咄嗟に顔に手をやった。それでも、表情は崩さずに。

……ああ、そうだった。控えめに笑うのはクセで、本当は、くしゃっと、太陽みたいに笑うんだった。

 ふわふわとしたクセのある髪を揺らして。あの日、二人で海に行った時みたいに。

 昔と、変わらずに。

 渚月が手をのけると、海の向こう側、親友がこちらを振り返って、屈託なく笑った気がした。

 君にどうか、ひかりあれ。


おしまい