ボカロリスニング+リーディングガイド 前編(ロックからポップスへ)

はじめまして。sol@mimi と申します。
先日からボカロリスナーの方々がここnoteで楽曲レビューやボカロ語り等を次々発表しているのをいいなあと思って眺めていた私ですが、軽率にも#vocanoteタグを呟いてしまった為に悪い人に拾われてしまい、何か書くことになりました。どうか宜しくお願いします。僕という人間はいつの日も誰かに引っ張り出されるのを待ってるのですきっと。
書くと決めた以上とりあえず一つアップしたい。ならば有り物ということで、いつものアレです。私が3年前まで更新していた自ブログ、今では立派な廃墟と化していますが下記の記事だけは特に思い入れがあって、時折更新しているのです。

見当もつきません|ボーカロイド私的リスニングガイド

ズラリと並べたお気に入りボカロPの面々。最初は40人ほどだったリストも、聴けば聴くほど増え続け5年ほどで300人オーバー。十数万曲以上という極めて膨大な数のボカロ曲、合成音声音楽の世界を泳ぐにあたって作った、自分なりの地図というかCDラックの仕切りといった感じでしたが、たまに反応してくれる方がいたり、ここを更新することでボカロ曲を聴いてる時も聴いていない時も常にボカロ世界と繋がっている様な気分を感じることができました。結局何かをリストアップするのが好きなんですよね。ゲーム音楽でも似たようなことやってたし。
別段特に音楽に詳しいわけでもない私のこと、思い付くまま気の向くまま、斯様に適当なジャンル分けではありますが、どこかで何でこのジャンルなのか説明したいな~という気持ちがあって、うまいこと記事に組み込めれば一番良かったのですがwebに明るくない自分には如何ともし難く、もやもやとした気分を抱えたまま今に至るというわけです。そして好機がやってきた!さあ、誰も待ってない素人の音楽ジャンル語りを始めるよ!まずはロックカテゴリから!!

●不協和音・スケールアウト・スタッガード

アタマから存在しないでっち上げジャンルですね。でも自分の中では”外し、ズレ”という明確な要素のある音で、ボカロ曲を聴く際に重視してる”違和感”ないし”不協和音”を楽しめるド真ん中のところを集めたロックジャンルです。代表的なボカロPは蜂蜜さん(ミツバチP)と厨二病P。この二人の曲を聴いて生まれた、聴かなかったら存在しなかったジャンルです。

蜂蜜さん 【初音ミク】voice【オリジナル】

この次第にズレていく感覚が激しくトキメくわけです。何故そうしたのか。蜂蜜さんの音程がおかしいのなら伴奏もズレているはずで、そうではないということは何かしらの意図があったのでしょう。美しいものをそのままにしておかない、しておけない、むしろ美しさが次第に失われていく過程のほうが余程...というような。コメントでdisってる連中は何も分かっちゃいませんが、もしかすると蜂蜜さんはそうコメントされることすら望んでいたのかも。

paskureさん 三寒四温/開発コードmiki(オリジナル曲)

こちらは最初ズラしておいてサビでピッタリ合わせてくる逆パターン。これがサビの爽快感を何倍にもするわけです。ビール飲む前に水を控えるアレですよアレ。ちょっと違いますか。不協和音を取り入れるやり方は昨今のボカロ界隈ではさりげなくクレバーで、リスナーにそうと気付かせない程度の隠し味で用いられてる感じ。

●サイケデリック・ドローン

ファズやワウとかのエフェクターでギターの音を歪ませてブルースを弾く!ふざけたようなフレーズからおどろおどろしい音等の音の反響で威嚇する!UFOっぽくてデーモンみたいでパンサークローみたいなやつ!とか並べてると、ピアノをメインで使ったりする全自動ムー大陸さんが入ってるのが違和感あるかもしれませんね。心をザワつかせるのに全体としては心安らぐふしぎ音楽です。 

●ノイズ、ドリームポップ・シューゲイザー

いい湯加減のリバーブで夢見心地のおんがく。人々が”エモい”と呼ぶ要素の半分はこの辺にあるのではないかと思っています。しかしHaniwaさんの音ではドリームどころか目が覚めてしまう!Haniwaさんは轟音ベースのゆかりポエムで一ジャンル作り上げてしまったのでいずれジャンル分けしたい。nikiさんとかゆにさんはわりかしポップで甘い音楽なのに対してAIR田さんはシュガーレスな感じが良い。ds_8さんは美しいけれど悪い夢を見ているような。

bothnecoさん 【初音ミク】choco-mint flavor【オリジナルPV】

●オルタナティブロック

ポストロックと並んでよく使われる便利なロックカテゴリ。”もう一つの、代わり、型にはまらない”という「オルタナティブ」の単語の意味的にはポストロックとほぼ同じ言葉ですね。自分がここに入れてる要素的には「ダルそうな、気の抜けた」感のあるロックでしょうか。あとはピロウズがオルタナなら似てるからこれもオルタナでいいじゃん的な、いい加減な区分をしてた時期もあります。もしニルヴァーナ(米)みたいな音を出してたら多分メタルかギターロックの方に入れちゃいます。

アナルバージンP 【初音ミクオリジナル】冬になると死にたくなる【*】

●パンクロック

パンク。自分としては曲調とか音楽的なものはそれ程重要ではなく、自分自身の懊悩や怒り、他者や外の世界に対しての呪詛や不満を吐き出してる曲全般がパンクだと考えています。歌詞に込めたメッセージ性そのものですね。強いて言えば凝ったアレンジや音作りはあまりそぐわず、単純なビートやコードに乗せたノイジーな叫びが「らしい」感じです。あとHi-STANDARDとかのメロコアも世間的にはパンクカテゴリなので、そういう感じの音だと全く主張無くてもここに放り込むこともあります。

梨本P 【初音ミク】童貞三十歳【オリジナル曲】

●テキスト・コミックソング

このカテゴリも音楽的なものはさほど関係無いですね。思わず笑ってしまうような突飛な発想、バカバカしい題材で皆を笑顔にしてくれる音楽全般です。ただ「笑わせる」ところまで持っていく為にかなり高い音楽的スキル、言葉選びのセンスの良さが求められる筈で、わりと百戦錬磨の玄人が揃ってる印象です。下の方でまた述べますが、類似ジャンル:PCゲーム・萌え・電波ソングと異なる点はこちらはキャラを全面に出したりせず、あくまでテキスト自体のおかしみでじわじわと楽しませるところでしょうか。

じゃぐさん 【がくっぽいど】 吉高由里子のうた 【オリジナル曲】

●ラウドロック・ヘビーメタル

秒速12発以上もの高速バスドラ連打にテクニカルにかき鳴らす轟音エレキ、しゃがれ声のグロウル(デスボイス)…メタルを構成する音の要素ってハッキリしていてすごく分かりやすいですよね。ボカロメタルは既存のメタルよりもポップな感じのものが多くて聴きやすい印象。本家のオカルト、ドラッグ、猟奇犯罪等のキーワードが日本だと少女、鬱、燃えるアニソン辺りに入れ替わってる(個人の主観です)のが興味深いです。

眼球P 【初音ミク】 『滅・殺・少・女』 【オリジナル曲】

●ゴシック・ネオクラシック・ビジュアル系

ニコ動ではまさに悪ノPから始まった悪ノPの為のジャンル。ビジュアル的には中世ヨーロッパの上流階級的ゴシックファッションと入れ墨、ピアス等の自傷的パンクファッションが合わさった耽美な女性メインのイメージですね。音楽的にはオーケストラをバックにオペラ的な歌唱をさせてみたり、パイプオルガンやエレキギターでクラシック風に演出してみたりと音そのものもハイソな雰囲気を求めている感じがします。クラシックをロックで奏でた速弾きギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンのイメージがあってメタルとも被りますね。V系ロックバンド的な音も動画や歌詞のイメージが近ければ大体ここに入れます。道化やコスプレといったハロウィン文化的なものや明治・大正の和洋折衷モダンファッション系もこの辺り。

追記:ボカロ界隈では2017年辺りから流行り出したエレクトロスウィング(1930~40年代に流行したビッグバンド形式のダンス向けジャズ、スウィング・ジャズをロックやダンスミュージックに絡めたもの)も今の所ここです。

MARETUさん 【初音ミク】 脳内革命ガール 【オリジナル】

●歌謡ロック

このジャンルを意識したのは田中Bさんの曲を聴いてから。ニューミュージック・歌謡曲から分割してみたジャンルで、テレサ・テンや80年代の中森明菜、竹内まりやのバラード辺りのマイナー調泣きメロ、火曜サスペンス劇場のエンディング曲的な…と言うと逆に分かりづらいですかね、そんな感じのロックミュージック全般を想定してます。非常に女性的で情念を感じる曲であるというのも特徴の一つ。心の奥深いところに悲しみを秘めたロックバラードです。

otetsuさん 【巡音ルカ】 ゆりかご 【オリジナル】

●ギターロック

エレキギターの為のロックンロール。ギター以外の全てはギターの引き立て役。もしくは縁の下の力持ち。歌は勿論メインじゃないし、ポップで楽しげな展開などもっての外。マイナー調で物悲しいメロディ、しかしその中に熱い情熱を秘めた攻撃的なサウンド。それがギターロックだ!(ちょっと誇張があります)

マイゴッドP 【ミクリンレンルカハク】飛べない烏と迷い犬 SPEdition【オリジナル・MMDPV

●ギターポップ・マスロック

ギターメインなのはギターロックと変わらないんですが、あの殺伐とした雰囲気はどこへやら。カラッと爽やかなカッティング中心の心地良いギターサウンドがあなたを迎えてくれます。ポップでもかわいくてもなんでもオーケー。でも邦楽特有のキャッチー至上主義みたいな感じはなく、メロも展開も甘さ控えめ。クールさが肝心です。下の方で述べるジャンル、渋谷系の特徴の一つもギターポップサウンドですが、あちらはアコースティックギター中心の90年代ギタポ、こちらはエレキ中心のハードな感じでゼロ年代辺りからの新しめのギタポと捉えております。

Vaderさん 【巡音ルカ】 15 【オリジナル】

●ポップロック

自分にとってのポップロックに必要な条件とは!

1.全体的に明るい雰囲気(長調)のロック
2.伴奏がロックバンド形式のポップソング

この2つのどちらかを満たしていればポップロック認定ですハイ。ではポップとは何か、と聞かれるとこれはムツカシイ。何かしらの親しみやすいメロディの特徴だと思うのですが…。

みきとP 【GUMI】 非公開日誌 【オリジナルPV】

●切なポップ&ロック

2012年にn-bunaさんが登場して以来じわじわと勢力を広げ、いつの間にか人気ボカロ曲の代表の一角を占めるようになったPの面々を独断と偏見でジャンル分けしたもの。大きな特徴は"寂しさ"と”切なさ”。叶わないと分かっていても諦められない願い、胸をギュッと掴まれるような切ない歌詞やポップでいながらもどこか悲しいやるせなさ、切なさが魅力です。概してチープな音源であったり派手さはありませんが、だからこそ寄る辺無く愛を渇望する今の若者に強く支持されているのだと思います。ゆるやかで段階を踏む展開を嫌うのかイントロがサビ頭なことが多い傾向があります。せっかち感。

はるまきごはんさん フォトンブルー / 初音ミク

●ダンスロック

高速ボカロックから分離したジャンル。ヒップホップ・ディスコ・ダンスミュージックに入れていたハチさん、ポップロックに入れていたバルーンさんが共に納まりが悪く、何度も何度も聴き直した結果このジャンルを作ることに。キーワードは「和」。津軽三味線なギタリフやお囃子的スネアパターンなどリズムの根底に”和”の要素を持つマイナー調四つ打ちギターロック、といったイメージの楽曲群です。ロシア民謡的な音階でちょっと悲し気なメロディ、1オクターブを何度も往復する特徴的なサビメロ、あと行進曲的なリズムが好きなPが多い感じです。

ハチさん 【オリジナル曲PV】マトリョシカ【初音ミク・GUMI】

●高速ボカロック

2009年のwowakaさんブレイク以降に流行したボカロムーブメントを代表する曲調のダンスロックで、シュルるPが名づけ親の新ジャンルです。要素としてはテンポ早め、フラットな音程の畳みかける様な早口(ラップの節回しとは異なる、いわば棒読み的な)で難解な単語混じりの言葉を並べ立てるギター寄りのポップロック、という感じでしょうか。ボカロ音楽の人気に一役買ったジャンルであり、ボカロ曲=高速ボカロックというイメージを持ってる人も少なくないでしょう。れるりりさんは玄人アレンジ→R&B・ソウル・ファンクから、脳漿炸裂したことによってココへ移動。

日向電工さん 初音ミク オリジナル曲 『ムーンウォークフィーバー』

●ニューウェーブ

パンク以降の70年代後半から80年代前半辺りまでの洋楽…う~んコトバにすると難しい。このジャンルに入れるのは非常に感覚的なものですね。変な歌い方、変な音ですごく整ってないロックというか。でもポップアートみたいなキラキラしたビジュアルで綺麗なものを作ろうと試行錯誤してる感じ。テクノポップとロックの狭間、シンセとロックが交じり合う寸前って感じの音をイメージしてます。

ボサツさん 【巡音ルカ】ストライプトライブ【オリジナル】

●テクノポップ

合成音声ソフトのボーカルシンセサイザーの立ち位置から言うと最も親和性の高いジャンルであり、”初音ミクが歌っている曲”という一般的なイメージソングはここに集中している感じです。今のところkzさんがボーカロイドにおけるテクノポップの代名詞ですね。幾重にも重ねられた合成音声はフワッと浮遊感があって、トランスやクラブビートまで行かない絶妙なさじ加減のシンセとキックでキュートかつ甘いメロディをポップに奏でる…。ネットでもイベントのステージ上でも最もスポットライトが当たっている華やかなところです。近年メジャーになってきたジャンル、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)とは兄弟の様な関係ですが、ここでは『クラブビートはメインでなくあくまでポップス』『サビ前の畳み掛けるようなライザーサウンドが無い』ものを中心に扱っています。

沙野カモメさん 飛行訓練 - vy1v3+kmsn

●ハウス・ユーロビート

テクノポップから分割したジャンルでちょいダンス、歌謡寄りの音楽として設定した気がします。踊れるポップス。でも今見たら下の方のヒップホップ・ディスコ・ダンスミュージックと内容的には結構被ってるし、一緒にした方がいいかもと思えてきました。

MineKさん 【がくっぽいど・MEIKO】 Dancing Love 【オリジナル】

●ゲームミュージック・チップチューン

アニメソング・ゲームソングから分けたジャンルで、伴奏がビデオゲーム黎明期に使用されていた音源、いわゆるチップチューンオンリーだったり、PSG音源やFM音源をよく使用するP、ゲームのBGM的トラックに歌詞が載っている感じのボカロ曲等、主にゲームミュージックから強い影響を受けたと思われるPを集めています。ロックマン・サガ・カービィシリーズ辺りが影響を受けたタイトルとしてよく話題に上りますね。MAD動画や替え歌など、ボーカロイドと並ぶニコ動の人気コンテンツで取り上げられることの多かったタイトル群です。個人的な印象としては他にグラディウスや悪魔城ドラキュラなどの80年代コナミサウンド(フュージョンやネオクラシック等)や、聖剣伝説やクロノ・トリガーなど90年代スクウェアサウンド(北欧系民族調曲など)の影響を受けたPが一大勢力という感じです。
デッドボールPはここに入れていたのですが、PCゲーム・萌え・電波ソングの枠を作った時に要素として濃いのはこちらかなと移動させました。

sasakure.UKさん 【初音ミク】スマートを模索する

●アニメソング・ゲームソング

TVアニメの主題歌やキャラクターソング、ビデオゲームのオープニングに流れるゲームソング的な音作りのPを集めたジャンルです。ニコ動ではロボットアニメOPを思わせる熱いロック曲に付けられるタグ「機動歌姫ヴォーカリオン」が有名ですね。自分にとっては何といってもryoさんの存在が大きいです。メルト、ブラックロックシューター初聴きの衝撃ときたらもう。『凄い!ニコ動に菅野よう子みたいな人がいる!!』と驚いたのなんの。ブレイク後のryoさんは実際アニメソング制作に携わり活躍の場を広げていきました。
これを書いている現在(2019年)ではアニメ、ゲームの主題歌をボカロPが手掛けることはそれほど珍しいことではなくなりました。今では色々なアニメ番組や音楽ゲームなどでPの名前を見ることができます。(ゆうゆさんのケムリクサed曲は最高でした!)。そういうメディアによくボカロPが起用されるのはやはりアニメ、ゲームのファンがボカロ曲、及びボカロキャラクターのファン層と大きく被っていて注目されやすく人気があるからなのでしょう。これは初音ミクが世に出て以来(2007年8月発売)しばらくはアニメソングやアイドルマスターなどのゲームソングのカバーが主流だったことからも伺えます。

とくさん 【初音ミク(とく)】SPiCa【オリジナル曲】

●PCゲーム・萌え・電波ソング

Key Sounds Label等のPCゲームソング、卑猥な言葉を繰り返す電波ソング、東方Projectフォロワー等のジャンルです。正統派の楽曲群とは大きく趣を異にした作り、むしろ一般の音楽ファンにとっては”聴くに堪えない”ような騒がしさが求められるカテゴリーです。耳に残るインパクトある歌詞と突拍子もないメロディに加え、絶妙のタイミングで入る掛け声や合いの手など楽曲には勢いとノリが重視されます。繰り返されるキャッチーなフレーズ、その中毒性からコメント弾幕が生まれたりと人気に火が付いた時の爆発力はトップクラス。

オワタP 【初音ミク・巡音ルカ】リンちゃんなう!【鏡音生誕祭2011】

後編につづく