「Black Box」P51の強姦致傷の描写は致命的失敗

「Black Box」には致命的欠陥があります。巨大すぎる嘘、と言うべきかもしれません。
それは、ホテルの一室で起きた強姦致傷の場面(P51)です。

伊藤詩織さんは明白に強姦致傷の被害を受けたはずなのに、なぜか警察・検察では準強姦(昏睡レイプ)として処理されました。
警察・検察が無能だったのか、「Black Box」のほうが嘘なのか、二つに一つです。

「Black Box」を読んだ人の多くが気にしていないのが不思議です。

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詩織さんが「Black Box」で主張している2015年4月4日の事件は次のようなものです。

『目を覚ましたのは、激しい痛みを感じたためだった。薄いカーテンが引かれた部屋のベッドの上で、何か重いものにのしかかられていた。』(P49)
……つまり、レイプされている最中だったということです。
『トイレに駆け込んで鍵をかけたが、パニックで頭は混乱するばかりだった。バスルームは清潔で大きな鏡があり、そこには何も身につけていない、体のところどころが赤くなり、血も滲んで傷ついた自分の姿が映っていた。』(P50)
バスルームから再びベッドに引きずり戻された詩織さんは……。
『抵抗できないほどの強い力で体と頭をベッドに押さえつけられ、再び犯されそうになった。(中略)
 体と頭は押さえつけられ、覆い被さられていた状態だったため、息ができなくなり、窒息しそうになった私は、この瞬間、「殺される」と思った。(中略)
 必死に体を硬くし体を丸め、足を閉じて必死で抵抗し続けた。頭を押さえつけていた手が離れ、やっと呼吸ができた。
「痛い。止めて下さい」
 山口氏は、「痛いの?」などと言いながら、無理やり膝をこじ開けようとした。膝の関節がひどく痛んだ。そのまま何分揉み合ったのだろう、体を硬くして精一杯抵抗し続けた。
 ようやく山口氏が動きを止めた。』(P51)
その後、詩織さんは膝の痛みがひどくなり、整形外科を訪れました。
『ここでも私は医師に、知人にレイプされた、とは言えなかった。「仕事でヘンな体勢になったので。昔、バスケをやっていたから古傷かもしれません」と曖昧に説明した。
「凄い衝撃を受けて、膝がズレている。手術は大変なことだし、完治まで長い時間がかかる」
 診察した男性の医師は、そう言った。
 痛みが治まらなかったら手術の可能性もあると言われ、その日は電気を当ててもらっただけで治療は終わった。
 それから数ヶ月間、サポーターをはめて過ごすことになった。今でもこの膝が痛む時があり、そのたびに悪夢を思い出す。』(P66)

これは強姦致傷罪です。まさにど真ん中のストレート、疑う余地がありません。
ちなみに強姦致傷罪とは、加害者が強姦目的で被害女性を襲い、結果的にケガをさせてしまった時に成立します。重罪であり非親告罪です。強姦の目的を達しなくても(未遂であっても)、ケガを負わせてしまえば成立します。

「Black Box」を参考にして、犯罪に関する部分を整理してみます。
1)朝5時ごろに目が覚めたらレイプされている最中だった。
2)バスルームに逃げ込み、鏡を見たら体のそこかしこに傷やアザがあった。
3)再びベッドに引きずり戻され暴力的にレイプされかけた。
4)抵抗したため、膝を大怪我した。

準強姦罪に該当するのは1)ですね。
2)については強姦致傷罪の疑いが濃厚です。
3)の段階で強姦罪の実行行為が開始します。
加害者がレイプを諦めたために強姦罪は未遂に終わりましたが、4)の段階で詩織さんの膝に大怪我を負わせてしまったので強姦致傷罪(既遂)が成立します。

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しかし、なぜか、この明白な強姦致傷事件を警察は準強姦(昏睡レイプ)として扱い、検察も準強姦として不起訴処分にしました。準強姦よりも罪が重い強姦致傷が消えてしまったのです。
「Black Box」から拾ってみましょう。

P125 高輪署の捜査員A氏の言葉。
『薬でなくとも、ここまで酒を飲んだことを店の人が証言したのだから、準強姦罪の要件の一つにはなる、とA氏は言った。』
P145
『捜査官は続けて、こう言った。
「今日、相手の弁護士が私のところに来て、あなたに伝えたいことがあるということなので、今伝えてもいいですか?
(中略)
 この場合、出てくるのはお金の話しかない。
 強姦、準強姦は親告罪なので、被害者が告訴しなければたとえ犯人がわかっていても起訴できない。こういう事件で示談したいというのは、たぶん告訴を取り下げてくれということでしょう。』
※非親告罪である強姦致傷のことを全く問題にしていません。
P161-162
『担当のK検事と二度目に面会したのは、二〇一六年七月半ばのことだった。(中略)
 そして彼は、日本には準強姦罪という罪状はあるが、実際にはなかなか被疑者を裁けない、と、現行法の持つ矛盾を、長い時間かけて語った。
(中略)
 私は、彼の言う「第三者が犯行現場を見ているか、その犯行ビデオがないと、準強姦罪の適用は難しい」という説明を、この時そのまま鵜呑みにしてしまった。大きな問題は法律そのものにあるのだ、と。日本の「準強姦罪」は、あってないような法理なのだ、と。』

準強姦のことしか言っていませんよね。
詩織さんの膝の大怪我や体の傷のことは、どこに行ったのでしょうか?

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詩織さんが高輪署に提出した告訴状にも強姦致傷に関しては何も書かれていません。

性被害者を侮辱した「伊藤詩織」の正体 【後編】|小川榮太郎
2019年11月20日
https://hanada-plus.jp/articles/231
『他方その間、4月30日、高輪署は山口氏に対する刑事告訴状を受理した。
(中略)
被告(山口)は伊藤詩織(25)を酒に酔わせて姦淫しようと企て、東京都渋谷区恵比寿の飲食店「鮨の喜一」で同女に飲酒を勧め、同女を酔いのため意識不明の状態に陥れて抗拒不能にさせた上、平成27年4月3日午後11:30から4月4日午前05:30頃までの間、東京都港区のシェラトン都ホテル233号室に連れ込み、意識不明の同女のパンティーなどを脱がし全裸にした上で、同女の体の上に覆いかぶさるなどして同女を姦淫したものである。』

後で触れますが、弁護士に相談したのが4月23日ですから、詩織さんは、自分が受けた性的被害が刑法上どんな罪状に該当するか、すでに理解した上で告訴状を作成したと推測できます。

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不思議なことに詩織さん自身も準強姦についてしか書いていません。

P3
『顔見知りの相手から被害を受けた場合は、警察に行くことすら難しいことがわかる。そしてもし犯行時、被害者に意識がなかったら、今の日本の法制度では、事件を起訴するには高いハードルがある。
 私のケースがそうだったように。』
P71
『私はようやく、警察へ行って相談してみようと決心した。
(中略)
 Rの家で一通り彼女たちの近況を聞いた後に、私は、「準強姦にあったかもしれない」と話した。この時には自分でいろいろ調べて、自分の身に起きたのは「準強姦」事件なのではないか、と思っていた。「準強姦」罪とは、主に意識の無い人に対するレイプ犯罪のことだ。』

ちなみに「Black Box」の第6章は「準強姦罪」というタイトルです。

もしかして詩織さん、膝を壊されたことを忘れてしまったのでしょうか?

なお、BBCのドキュメンタリー番組「Japan's Secret Shame」の中でも、詩織さんは膝の大怪我や体の傷など強姦致傷に関することは語っていませんでした。
編集でカットされた可能性もありますけどね。


↓このニュース動画でも強姦致傷については報道していません。……というよりか、どう考えても準強姦疑惑として報じています。
山口敬之(元TBS記者)から“性的暴行”女性被害訴え
https://www.youtube.com/watch?v=15APv6jYo0k

(2017/05/31公開。2:15ごろから)


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ついでに言っておくと、詩織さんが当時相談していた弁護士の先生も準強姦扱いでした。

P89
『セクハラで退社した友人Rが、弁護士などに相談できる「法テラス」について教えてくれたので、無料相談をしてみることにした。
 四月二十三日、弁護士と面会した。ここでもまた一から事件の説明だった。それまでやりとりしたメールも見せた。
 初めて弁護士に相談し、いくつかの問題点を整理することができた。ここで教えてもらったのは、
・準強姦事件の証明に必要な争点は二点。性交したか。合意の上かどうか。』

詩織さんが『また一から事件の説明』をしたのです。
この弁護士のセンセイは膝の大怪我の話を聞いても、何とも思わなかったのでしょうか?

ちなみに、元検事(副検事?)の詩織さんの叔父も、強姦致傷の被害が警察で準強姦扱いされたことに何ら異議を唱えていません。

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裁判では詩織さんは、強姦致傷についても警察に話したが、アチラの都合で準強姦になった旨の主張をしたそうです。
だとしたら、膝を壊されるような激しい暴行を受けたにも関わらず、警察・検察によって強姦致傷が葬り去られたことになります。
これは由々しきことですよ。
しかし、不思議なことに、現在の詩織さんも弁護団も彼女の支持者たちも、強姦致傷の被害について全く無反応です。
本質的にどうでもいい逮捕状の執行中止に関しては異常にこだわるのに……。

今からでも遅くないから、徒党を組んで高輪署に押しかけ、「強姦致傷の被害について捜査しろ」と要求したほうがいいのでは?

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以上、イロイロおかしな部分を指摘しました。

「Black Box」の強姦致傷の場面は後になって創作された、と考えると辻褄が合います。
すなわち、詩織さんが警察に被害を申告した時は、準強姦(昏睡レイプ)のみを訴えたということです。

「Black Box」から高輪署の捜査員A氏の反応について抜き出します。

P74
『A氏の応対は、原宿署の捜査員より、ずっとハードだった。
「一週間経っちゃったの。厳しいね」
 いきなりこう言った。そして、
「よくある話だし、事件として捜査するのは難しいですよ」
 と続けた。(中略)
「こういう事件は刑事事件として難しい。直後の精液の採取やDNA検査ができていないので、証拠も揃わなくて、かなり厳しい」』

膝の大怪我のことも体の傷やアザのことも話題にのぼっていません。
それよりも、注目すべきは、詩織さんが具体的にどんな被害を説明したのか、それが抜けていることです。
捜査員A氏の『よくある話だし、事件として捜査するのは難しいですよ』という文句が、準強姦被害についてなのか、強姦致傷についてなのか不明なのです。

この点は、詩織さんの記者会見でも同様です。
警察のつれない反応だけが繰り返し指摘される割には、その前提として詩織さんが具体的に何を訴えたかはキレイに省略されているのです。

「Black Box」の読者はP49からP51の凄惨な強姦致傷の印象を脳内に刻んだまま読み進むから、無意識のうちで「詩織さんが強姦致傷の被害を申告した」と思い込んでしまうのです。
巧みですよね。

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なお一審での山口さん側弁護士は、昨年12月18日の記者会見でこんなことを言っていました。

12_18、14:00「山口敬之記者会見」生中継◆出席者:山口敬之、小川榮太郎、他◆司会:花田紀凱|「週刊誌欠席裁判」のライブ ストリーム
(※この動画は2019年12月26日時点でYOUTUBEから消えてしまいました)
『ですから、しかも、警視庁に彼女が山口さんを刑事告訴ないし被害届をしたときも、準強姦というかたち、意識がない状態での性暴力被害を訴えています。その結果として、山口さんが被疑者として取り調べられた時も、朝の強姦被害のことについては一切聞かれていません。彼女は、意識がない、眠っている間に準強姦被害に遭ったということを訴えていたわけです。』

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さらに付け加えるなら、あの東京地裁判決でさえ、詩織さんの膝の大怪我と山口敬之さんとの因果関係を認めませんでした。

JUSTICE FOR NY
裁判資料
https://www.justiceforny.com/cont7/32.html
『3 争点(2)(原告の損害額)について
(中略)なお、前記1(4)ウに認定したとおり、原告は、本件行為後の4月6日、元谷整形外科において右膝内障及び右膝挫傷と診断された事実が認められるところ、同障害が原告が記憶を喪失した期間中に生じたものであることは窺われるものの、本件行為により生じたものか、それ以前の経過の中で生じたものであるかは証拠上明らかではなく、本件行為により生じたものと断ずるには至らない。』

彼女が受診した整形外科のカルテには、膝のケガをした日が3月31日と記載されていたそうです。つまり事件の4日前ですね。
となれば、いかに詩織さんに甘い裁判官であっても、事件と関連付けるわけにはいきませんよね。

もっとも『同障害が原告が記憶を喪失した期間中に生じたものであることは窺われる』という表現に、何とか膝のケガを詩織さんに有利な方向に持っていこうとする意思を読み取ることができます。
裁判官って、全然公正じゃないんですね。

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幸いなことに、詩織さんはジャーナリストとしての使命感から、早い時期から警察内でのやり取りをブラジャーに隠したレコーダーで録音していました。
この音声データを公表すれば、詩織さんが強姦致傷の被害を訴えていたのに警察と検察が無視したのか、あるいは強姦致傷は話を盛り上げるための創作か、はっきりします。

もしも警察・検察が強姦致傷の訴えを握りつぶしていたなら、トンデモない不祥事ですよ。
それを明らかにするためにも、どうか音声データを公開してください。

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なお、2年分の音声データをもとにして出版されたのが「Black Box」です。
音声データの公表は、担当編集者の安藤泉さんでも結構ですよ。
これは貴女にも責任があることですから。

安藤さんは編集者として、「強姦致傷の被害が警察・検察で準強姦として処理されているのはなぜ?」と詩織さんに確認すべきでした。
P51に書かれている強姦致傷は、「Black Box」のみならず詩織さんの主張のすべてをぶち壊す端緒になり得る、それほど致命的な矛盾を抱えた描写なのです。
なんでこんな文章を載せるのを許してしまったのでしょうか、安藤泉さんは?

まさか天下の名門出版社・文藝春秋の編集者樣が「レイプが中断されたのだから強姦致傷にはならないでしょ」とか「本を売るためなら、これくらいの脚色は当然」みたいなことを考えていたわけではありませんよね?

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