山口敬之メールのベッドの位置と東京地裁判決

伊藤詩織擁護派の方々が鬼の首を取ったように狂喜するのが、山口敬之さんのメールのベッドの位置についての記述です。
これについて下書きを準備していたら、tassさんに先を越されてしまいました。


というわけで、私の駄文などどうでもよくなりましたが、せっかく書いたので発表しておきます。

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1. メールに何が書かれていたのか

東京地裁判決が伊藤詩織さんのレイプ被害を認めたのは、供述の核心部分が変遷する山口敬之さんより詩織さんのほうが相対的に信用できるという理屈からです。
これには、山口さんが事件の2週間後の4月18日に詩織さんに送ったメールの内容が大きく影響しています。

「Black Box」のP88には次のように書かれています。
ゲロの処理をしている間に詩織さんは眠ってしまい、『その後あなたは唐突にトイレに立って、戻ってきて私の寝ていたベッドに入ってきました。その時はあなたは「飲み過ぎちゃった」などと普通に話をしていました。だから、意識不明のあなたに私が勝手に行為に及んだというのは全く事実と違います。私もそこそこ酔っていたところへ、あなたのような素敵な女性が半裸でベッドに入ってきて、そういうことになってしまった。(中略)」Y 2015-4-18 23:51』

これを読むと、詩織さんは山口さんが横になっていたベッドに忍んできたみたいに受け取れます。が、実際には、性行為が行われたのは詩織さんが寝ていたベッドでした。

これを以て東京地裁は山口さんの供述の信用性に疑念ありとしました。

JUSTICE FOR NY
裁判資料
https://www.justiceforny.com/cont7/32.html(このサイトは削除されました)
(3) 被告の供述について
『さらに、本件行為に至る経緯についても、前記1(4)コに認定したとおり、被告は4月18日、原告に対して送信したメールにおいて、「あなたは唐突にトイレに立って、戻ってきて私の寝ていたベッドに入ってきました。」、「あなたのような素敵な女性が半裸でベッドに入ってきて、そういうことになってしまった。」などと記載して、原告の方から被告の寝ていたベッド、すなわち窓側のベッドに入ってきたと説明していたことが認められるが、同メールの内容は、原告に呼ばれたために被告が窓側のベッドから原告の寝ている入り口側のベッドに移動したとする被告の供述内容と矛盾するものであり、このような供述の変遷について合理的理由は認め難い。この点につき、被告は、上記メールにおける「私の寝ていたベッド」とは、前日まで被告が寝ていたベッド、すなわち入り口側のベッドのことを指すなどと供述する(被告73~75頁)。しかし、被告の供述を前提にすると、原告は、それまで寝ていた入り口側のベッドから唐突に立ってトイレへ行き、戻ってきた後、もともと寝ていた入り口側のベッドに戻ったに過ぎないことになり、本件行為のきっかけについて説明するという上記メールの趣旨からして明らかに不自然というべきであるし、「私の寝ていたベッドに入ってきた」とする上記メールの文理とも整合せず、被告の供述は不合理というほかない。
以上のとおり、被告の供述は、本件行為の直接の原因となった直近の原告の言動という核心部分について不合理に変遷しており、その信用性は重大な疑念があるといわざるを得ない。』

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2. 山口さんの真意を推測する

実は、山口さんのメールの記述は何でもないことです。

判決では『本件行為のきっかけについて説明するという上記メールの趣旨からして』とありますが、山口さんのメールは説明のためのものではありません。
アレコレ言いがかりをつける詩織さんを黙らせるために、敢えて「誘ってきたのはキミだよ」ということを思い知らせるために書いたメールなのです。
事情を知らない第三者に何が起きたかを説明するために書かれたものではありません。

このメールを書いた時点では、山口さんの認識では、詩織さんに意識があったことを前提にしています。
山口さんは、後になって警察の事情聴取を受けてから、ブラックアウトの可能性に思い至ったのですから、メール送信の時点では詩織さんが意識を失っていたなんて思っていなかったはずです。
だから、山口さんは詩織さんに事件の経緯を正確に説明する必要などないのです。

いわば、事実関係を時間軸から解体した上で自己防衛の意図に沿って再構築された詩織さんに対する嫌味表現とも言うべきものです。
供述ではないのだから、『供述の変遷』には当たりません。

その証拠に、山口さんのメールには、詩織さんが冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲んだことも、山口さんのベッドに寄ってきて、ひざまづき涙ながらに粗相を詫びたことも書かれていません。
当たり前です。詩織さんがその夜のことを覚えていることを前提にしているのですから。

『私の寝ていたベッドに入ってきました』『あなたのような素敵な女性が半裸でベッドに入ってきて』という表現も、山口さんが横になっているベッドに詩織さんが近寄ってきたことを、「私の領域内に入ってきた」というふうに解釈した上での表現かもしれません。

そもそも、誰のチェックも受けないメールの文章に厳密な正確さを求めても仕方ないと思いますよ。
「俺は個人的なメールのやり取りでも完璧に事実関係を押さえた文章を書いてるッ!」という人以外はね。

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山口さんは、メールについてこんな説明をしています。
YouTubeから削除されてしまった動画から書き起こしました。

12_18、14:00「山口敬之記者会見」生中継◆出席者:山口敬之、小川榮太郎、他◆司会:花田紀凱|「週刊誌欠席裁判」のライブ ストリーム
1:13:10ごろから。東京新聞のカシワザキ(女性記者)の質問。
ベッドについて、メールの記述と裁判での供述が変わっているとの指摘に山口さんが気色ばむ。
(1:14:55ごろから)『この判決文に書かれている、そのメールというのは、伊藤さんが、私……、その事案が起きたのが4月の3日の未明(?)から4月の4日の朝にかけてなんですけれども。その後で、伊藤さんが私に対して、最初は「お疲れさまでした」というメールだったんですが、意識のない中で不本意な性行為をされたという主張をされた後で、私がそういうことではなかったんですと。私は伊藤さんがその時覚えていると信じていたので、いやそうではなくてあなたは酔った結果、私のホテルの部屋に入ってくる経緯となったのだということを事後のやりとりのメールの中で書いています。それは確かです。ただ、それは、その時に何が起きたかを詳細に時系列で書いているメールではないんですね。これは、裁判資料をご覧になりましたか? (中略:カシワザキ記者の返事)
 裁判資料を見ていただければ、ここには閲覧制限、かかっておりませんので、当時のメールのやりとりがすべて出ています。これを読んでください。
 それで、私は、結果として、私が連れて行ったのではなくて、あなたが酔ってしまったから、結果として私のベッドに寝ることになったんだということを書いています。で、それについて、この判決は、伊藤さんの主張をすべて一方的に根拠なく真実・事実と採用しているから、そこに矛盾があると指摘していますが。私として全く矛盾があると思っていないので、是非裁判資料を、メールを読んでいただいた上でね、是非もう一度私に取材をしてください。』(1:16:58)

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3. 詩織さんこそ核心部分が変遷

東京地裁判決の設定に付き合ってあげて、ベッドに関する山口さんの供述が『核心部分について不合理に変遷』しているものだと仮定しましょう。
しかし、それがどうしたと言うのでしょうか?

山口さんは「詩織さんから誘ってきた」旨を一貫して主張しています。
ベッドの位置についてのメールの記述が山口さんの意図的な嘘だと仮定しても、合意があった性交渉という大枠の中での、個別的な出来事についての嘘でしかありません。

翻って、詩織さんの主張に嘘はないのでしょうか?
彼女が山口さんに送ったメールを読んでいて感じるのは、どう考えても意識不明状態に乗じてレイプされた準強姦の主張であるということです。
「Black Box」の49ページから51ページに描かれているような、凄惨な強姦致傷など、詩織さんのメールのどこからも読み取れません。

すなわち詩織さんは後になって主張を大幅に変えたのです。事件そのものを捏造したと言ったほうが適切ですね。

これについては過去のnoteの文章をご参照ください。



山口さんの「個別的な出来事についての嘘」と詩織さんの「事件そのものの捏造」のどちらが、核心部分についての嘘なのでしょうか?

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4. 東京地裁判決の汚い罠

東京地裁判決には印象操作の罠が仕掛けられています。
詩織さんの嘘・捏造については完璧に無視します。それが訴訟成立の前提にかかわるような重要かつ巨大な嘘であっても、まったく何の言及もしません。
ところが、山口さんには容赦しません。前述のベッドの位置に関するメールが好例です。「これこそ奴が嘘つきである証拠だ!」的に決めつけます。

このような演出を、権威がある(と一般に思われている)裁判官にやられたら、素朴な人は「裁判官樣が判断なさったのだから、山口さんの主張はデタラメなのだろう」と思ってしまうことでしょう。

汚い罠がそこかしこに仕掛けられているのが東京地裁判決です。

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