詩織さんが両親に打ち明けたのは事件から1か月後:「Black Box」のマジック

前回は、自称レイプ被害者の伊藤詩織さんが産婦人科を受診した時間の謎について書きました。
今回も引き続き「Black Box」における日時のマジックについて考えます。

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詩織さんが(自称)レイプ被害について両親に初めて報告したのはいつでしょうか?
「Black Box」ではこのような表現になっています。

P72-73
『原宿署に一人で出かけたのは、四月九日の夕方だった。事件から五日が経過していた。当時住んでいた家から一番近かったのが、そこを選んだ理由だ。
(中略)話が終わって警察を出た時は、夜の十時を回っていた。一人でアパートに帰ることが怖かった。
 そんな時、心配した看護師の幼馴染のSが駅まで迎えに来てくれたのは、前に書いた通りだ。彼女にひと通り警察での話を報告した後に、実家に帰ることにした。
 何も知らない両親に対し、どんな顔で接すればいいのかわからなかった。』

この日は実家に帰った詩織さんは両親にレイプ被害について何も語らなかったみたいです。
4月11日に詩織さんは再び原宿署を訪れます。そして・・・

P74-76
『警察に行ったからには、家族に話さなければいけなかった。第三者から家族に伝わることだけは嫌だった。自分の口から伝えなくてはと決心したものの、どう切り出したらいいのか、わからなかった。かなり抵抗はあったが、特に妹には伝えたいことがあった。
(中略)
 ようやく決心した時、彼女は私の話を黙って聞いてくれた。そして、「もしも何かあったらお姉ちゃんがいるからね、話してくれるだけで、あとは何も心配しなくていいから」と伝えると、静かに頷いた。
 同じ日に、両親に話した時の反応は、見ていて苦しいものだった。細かいところはすべて避けながら、淡々と起こった事実を私は伝えた。それでも母は怒りに震え、
「奴を殺しに行く」
 と言った。父は私に怒りをぶつけた。
「なんでお前はもっと怒らないんだ。怒りを持て」』

普通の読者なら、4月11日から程なくして詩織さんは両親のもとを訪れ、事件の報告をしたと受け取るでしょう。
「Black Box」の著者の天才的なマジックに幻惑されてしまうわけです。

しかし、デイリー新潮によると、事件から1か月後に初めて詩織さんは両親に打ち明けたことになっています。

デイリー新潮 - DAILY SHINCHO
「伊藤詩織さん」両親が初めて話した苦難と葛藤
週刊新潮 2020年1月2・9日号掲載
https://www.dailyshincho.jp/article/2019/12280800/?all=1
『詩織さんの母親(57)は、彼女から最初に事実を打ち明けられた際の心境を、

「(性的暴行から)1カ月後くらいですね。娘が打ち明けてくれたのは。正直、びっくりしましたし、その後、どうしたらいいのだろうって……」』

4月4日から1か月後ということは、5月に入ってからでしょうか? 被害届が高輪署に受理された後ということになりますね。
事件が刑事手続によって処理されることがほぼ確実になってしまったから、やむなく両親に報告した・・・ということでしょうか。

     *     *     *

レイプ被害が存在しなかったとしたら、詩織さんの行動も理解できます。

警察に足を運んだものの、捜査員の態度は消極的でした。
刑事手続きで処理されないとしたら、両親に報告する必要などありません。レイプなど本当は無かったのですから。

しかし、友人Kたちが積極的に警察に働きかけてくれたおかげで、ようやく4月30日に被害届を提出するところにまで漕ぎ着けました。
事ここに至ったら、両親に報告せざるを得ません。警察から両親のもとに何らかの連絡が入るかもしれないし、マスコミに取り上げられるかもしれませんから。

だから両親への報告は4月4日から1か月後になってしまった。以上、私の想像です。

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私が「Black Box」の著者に問いたいのは、なぜこんな小細工を弄するのか?ということです。
両親に知らせたのが1か月後だということを読者に知らせたくないなら、書かなければよいのです。
なぜ、後でバレる危険を敢えて冒すのでしょうか。

理由は、前回取り上げた産婦人科の受診時間疑惑と同じで、詩織さんにはレイプ被害者らしき行動が存在しないからです。
レイプそのものが存在しなかったのだからレイプ被害者として行動しなかったのは当然です。が、MeToo運動を推進すべき「Black Box」を執筆するに当たって、何もなしでは困るわけです。
「空白があるのはマズい。警察にレイプ被害を申告したのだから両親にもすぐに知らせるのがまともな感覚の持ち主だろう」と「Black Box」の著者は考えたのかもしれません。

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ちなみに2015年の時点で詩織さんが両親に何を話したのかは不明です。

前出の「Black Box」のP74からP76の描写を読むと、両親には正直に事実を知らせたような書き方です。
『家族に話さなければいけなかった。第三者から家族に伝わることだけは嫌だった』
『母は怒りに震え、
「奴を殺しに行く」
 と言った。父は私に怒りをぶつけた。
「なんでお前はもっと怒らないんだ。怒りを持て」』
・・・という表現から、すべてを打ち明けたように錯覚してしまいます。

しかし・・・。

「Black Box」P220 記者会見を開くにあたり・・・。
『二年間どうするべきかと一緒に考え、支えてくれた友人たちは、この決断を応援してくれた。家族にもきちんと伝えるため、ある晩、席を設けた。(中略)
 しかし、今度は大反対だった。何よりも、今まで事件の内容を詳細に私の口から語ることはなかったが、今回初めて週刊誌を読み、私の身にあの夜、何が起こったかを知り、相当辛かったのだろう。』

この描写で、詩織さんが両親に肝心なことを隠していたことがうかがえます。
また、元検事(のちに元副検事と訂正)の叔父に相談していなかったであろうことも推測できます。
相談したのが本当なら、叔父から両親に話が行くはずです。2017年になって『今回初めて週刊誌を読み、私の身にあの夜、何が起こったかを知』ったなんてことは不自然極まりないです。

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