産婦人科カルテと鈴木昭洋裁判長の不正判決

伊藤詩織さんが事件当日に受診した産婦人科のカルテには『coitus(性交)AM2~3時頃、コンドームが破れた』と記載されています。
前回は、これこそ「Black Box」の朝5時レイプの描写が嘘であることを証明する決定的な鍵であると述べました。
が、東京地裁の鈴木昭洋裁判長は、カルテの信用性を認めませんでした。

東京地裁の判決文から引用します。

『(4) 原告の供述の信用性に関する被告の主張について
ア  被告は、イーク表参道のカルテには性交渉が4月4日午前2時ないし3時に行われた旨の記載があることから、原告自身、同時刻において意識があったことを認めていると主張する。
しかし、本件行為時に避妊具が使用されていない点は当事者間に争いがないところ、イーク表参道のカルテには、避妊具が破れたなどと客観的事実に反する記載がある点で、記載内容の正確性に疑義がある。もとより、アフターピルの処方のみを目的とする診療で、患者から詳細な聴取がされていないとしても不自然とはいえないこと、原告がイーク表参道を受診したのは本件行為から間もない時点であり、アフターピルの処方の対象となる性交渉の詳細を述べることに抵抗を感じていたと考えられることからすると、原告の曖昧な申告に基づき、カルテに不正確な記載がなされたとの疑念も払拭することができない。そうすると、イーク表参道のカルテの記載内容に依拠して、原告が4月4日午前2時ないし3時頃に意識があったと認めているということはできない。』

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カルテには(中略)記載内容の正確性に疑義がある
カルテのほうが間違っている、というわけです。
つまり、判決は、詩織さんは嘘をついていないという前提から出発しているわけです。

性交渉の詳細を述べることに抵抗を感じていたと考えられることからすると、原告の曖昧な申告に基づき、カルテに不正確な記載がなされた
詩織さんは医師から『性交渉の詳細を述べること』など求められていませんし、『曖昧な申告』もしていません。

これら鈴木昭洋判決の不正無道ぶりについては、すでにnoteで公にしました。


今回は新たに気づいたことを書いてみます。

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1. 詩織さんが記者会見で語ったこと

そもそも詩織さん自身が、上記判決を事実上否定しています。
判決後に開かれた記者会見での彼女の発言からもそれは明らかです。

【ノーカット】ジャーナリストの伊藤詩織氏が日本外国特派員協会で会見
https://www.youtube.com/watch?v=PBCl8Ggp4MY
カルテについての詩織さんの説明。33:55。
in ***** this report, it say that I was my ***** ***** two to three in a morning and the condom was broken and these two things were nothing I had said to them, to this doctor, what I said to her is that I, I actually didn't say anything, because this gynecology just I want it was only day, take only, under reservation, on the reservation, so I beg them that I, it's emergency and need to go on and then once I getting to the consulting room all she said was what time did you fail. And I said early morning. And that was it. That was the only conversation. And we never discuss about condom ever. So therefore the judge decided this is unimportant, wasn't accurate
(***** = 聞き取り不能部分)
彼女の英語は非常に聞き取りにくいので、この書き起こしは正確ではないかもしれません。ご自分で視聴して、確かめてください。

重要部分を訳してみます。
「カルテには『2時から3時、コンドームが破れた』と書いてあるが、この二つは私が医師(女医)に言ったことではない。(中略)彼女が言ったことは『何時に失敗したのか?』だけだった。私が答えたのは『早朝』。そういうこと。それが会話のすべて。私と彼女はコンドームについて話などしなかった。だから裁判官も『これは重要ではない。正確ではない』と判定したのだ」

記者会見では『early morning(早朝)』と言ってますが、法廷では「明け方」と医師に申告したことになっています。

lisanhaのPansee Sauvage
2020-07-03
珍プレー好プレー。本人尋問を読む その5
https://lisanha1234.hatenablog.com/entry/2020/07/03/204653

「明け方」というのは簡潔にして明瞭な表現です。『曖昧な申告』ではありません。

そして『性交渉の詳細を述べることに抵抗を感じていた』など、どこにも出てきません。

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他の媒体では、詩織さんはむしろ性交渉の内容について説明する意思があったようなことを書いています。それが医師の取りつく島のない態度で萎んでしまったと。

『性暴力救援マニュアル』 オンラインシンポジウム開催にあたり特別公開!
新興医学出版社
2020/10/21
https://note.com/shinkohigaku/n/nf404310bee87
『医療者に伝えたいこと  
伊藤詩織(ジャーナリスト)
(中略)
幸いにも自宅から歩いて行ける婦人科をみつけ,オープン間近に駆け込んだ。「予約がないと受けられません」そう言われてしまい,緊急でピルがほしいのだと伝えると,待てば診察の合間に入れてくれると言ってくれた。それは救いだったが,小綺麗でモダンな待合室で,ブライダルチェックアップをやっているような婦人科の待合室で待つことが辛かった。自分が汚く,この場に相応しくないと感じた。診察の合間に処方を出してくれた先生は,時間がなかったのだろう。診察室に入った私の顔も見ずに「いつ失敗されちゃったの?」と聞いた。私は頭の中で先生には事情を説明するべきか,説明できるかなと考えていたところだった。けれども,合意があった性行為での避妊の失敗を前提にされてしまい,質問には「明け方ごろです」と答えることしかできなかったのだ。そしてそのまま薬を渡され,外で飲むようにと指示された。それが唯一取れたコミュニケーションだった。』

いずれにしても、詩織さんは『曖昧な申告』などしていません。

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2. 「明け方ごろ」が「午前2時から3時」になるのは変

判決文の考え方によると、「明け方」という表現が『曖昧な申告』に該当するようです。これを受けた医師が『詳細な聴取』をしなかった結果、『カルテに不正確な記載』がなされたと言いたいようです。
それにしても、この判決文は異常に意味が分かりにくいですね。

判決は、詩織さんの「明け方」という申告を医師が勝手に時計時間に変換したことを当然の前提にしています。
しかし、常識的に考えれば、詩織さんが「明け方」と申告したなら、医師はそのままカルテに記入したことでしょう。

アフターピルの服用は早ければ早いほど効き目があります。が、毒蛇に咬まれたのと違って、1分1秒を争うというほどではありません。
性交渉から120時間以内よりも、72時間以内のほうが、それよりも48時間以内のほうが妊娠阻止率が高まるという程度です。
12時間以内に服用すればほぼ確実に妊娠を阻止できるらしいです。

詩織さんは事件当日に、しかも『オープン間近』に病院に行ったのだから、12時間以内という条件はクリアしていました。
だとしたら医者も、詩織さんが「明け方」と申告したなら、細かく詮索しても意味がありませんから、そのままカルテに書いたでしょう。
どうしても時計時間でカルテに記載しなければならないのなら、詩織さんに問い返したでしょうに。

仮に医師が「明け方」という申告を詩織さんに確認せずに時計時間に変換したとしても、午前の2時から3時にはなりません。
「明け方」は文字どおり「夜が明ける(空が明るくなり始める)」頃合いですから、普通の人の感覚では午前4時以降でしょう。
カルテの記載は午前2時から3時ですから、詩織さんが「未明」と答えていなければ辻褄が合いません。

なお、lisanhaさんのブログで知ったのですが、事件当日(2015年4月4日)の東京都の日の出は朝5時半です。

lisanhaのPansee Sauvage
2020-10-16
ホテルでの出来事、いったことのない場所でのパニック発作(喜一とシェラトン都ホテル233号室に行ってきました)
https://lisanha1234.hatenablog.com/entry/2020/10/16/015236

だとしたら、医師が「明け方」と聞いて思い浮かべるのは午前4時から5時くらいでしょう。

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3. 「明け方」を書き間違える医者などいない

それでは、医師が詩織さんの申告を書き間違えた可能性はあるでしょうか?

そもそも医師との会話の絶対量が少ないのです。
カルテに記入すべき内容も僅少なわけです。
詩織さんの申告も単純明快で「明け方」。
書き間違えたと考えるのは無理があります。

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4. 詩織さんは時間の重要性を認識

そもそも、普通は病院に行く時は、あらかじめ何を医師に伝えるべきか頭の中で整理しておくものです。
アフターピルを出してもらうために医師に申告すべき最重要事項は、性交渉があった時間です。
詩織さんもこのあたりの事情は心得ていたと推測できます。

『性暴力救援マニュアル』 オンラインシンポジウム開催にあたり特別公開!
新興医学出版社
2020/10/21
https://note.com/shinkohigaku/n/nf404310bee87
『医療者に伝えたいこと  
伊藤詩織(ジャーナリスト)
(中略)
 一つだけ確かだったこと,それは望まぬ妊娠は絶対に避けたいからモーニングアフターピル(緊急避妊薬)をもらいにいかなければと思ったことだ。モーニングアフターピルは摂取が遅ければ遅いほど,妊娠を回避する確率が下がってしまう。そんな基礎知識はあったため,とにかくピルは早急にもらいに行かなくてはと思った。
(後略)』

だから詩織さんは医師に問われる前に、性交渉があった時間についての答えを頭の中に用意していたと考えるのが自然です。
詩織さんは、レイプされた時間が分かっていたことになっているのだから、これを医師に申告するのが通常でしょう。

『ホテルの前からタクシーに乗った。時刻は五時五十分頃だった。目を覚ましてから部屋を出るまでにどのくらい時間が経ったのか、はっきりとはわからないが、おそらく三十分くらいのことだったのではないか。』(「Black Box」P55)

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5. 鈴木昭洋裁判長が依怙贔屓してくれたのに

『性交渉の詳細を述べることに抵抗を感じていたと考えられることからすると、原告の曖昧な申告に基づき、カルテに不正確な記載がなされた』というストーリーは詩織さんのために鈴木昭洋裁判長が職権濫用的な不正を犯して創作してくれたものです。

だから詩織さんも記者会見ではこれに合わせて、「その時はやっぱりパニック状態が続いていて、だからお医者さんが勘違いするような表現をしてしまったかも」的なことを言って、ごまかしてしまえば良かったのです。
4年前に医師に何を申告したかなんて、覚えていないのが普通です。
むしろ、なぜ4年前の一回こっきりの自分の発言を詩織さんがはっきり覚えているのか不思議です。

しかし、詩織さんは記者会見の場で明瞭に「コンドームの話などしませんでした」「早朝(early morning)と言いました」「医師に言われたのは『何時に失敗したの?』だけだった」的なことを答えてしまいました。
医師の短い質問に簡潔明瞭に返した、ということを断言したわけです。
つまり、鈴木裁判長のストーリーを裏切ってしまったのです。

何故この点を記者たちは追及しないのでしょうか?

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6. つぶやきに似た個人的感想

東京地裁判決は不正判決です。
鈴木昭洋裁判長の判決文は空虚な詭弁でしかありません。

鈴木裁判長が無理な理屈を捏ね上げなければならなかった理由は、産婦人科のカルテのほうが詩織さんの法廷での供述よりも信用性が高いから、これを潰さなければならなかった、というところにあります。

片方は、プロフェッショナルであり客観的立場の第三者でもある医師によって、事件から数時間後に詩織さんから直接得た記録。

もう一方は、それから4年後の、カルテの記載を認めたら圧倒的に訴訟が不利になる状況下での詩織さんの供述。
しかも詩織さんは事件の根幹部分の供述を目まぐるしく変遷させるような人です。

どちらが信頼できるかというと、カルテですよね。

カルテの『coitus(性交)AM2~3時頃』が真実であるならば、詩織さんが「Black Box」で描写したレイプは成立しません。
つまり詩織さんが敗訴するわけです。

鈴木裁判長が詩織さんを勝訴させるシナリオを用意していたなら、どうしてもカルテの内容を否定しなければなりません。
しかし、医師がよく聞き違いをする人だったとか、山口さんの知り合いだったという特殊な事情がない限り、カルテの記載のほうが正しいと判断せざるを得ません。

「正しい」ものを無理矢理に「間違っている」ように印象操作するには、詭道を用いるしかありません。
それが『性交渉の詳細』と『曖昧な申告』という観念的道具です。
鈴木昭洋裁判長は不正判決を下したわけです。

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鈴木昭洋判決のおかしな部分はカルテだけではありません。
汚いトリックや一方的に詩織さんに有利な解釈・事実認定がそこかしこに見受けられます。




要するに一審で詩織さんが勝訴できたのは、鈴木昭洋という奇っ怪な裁判官のおかげです。
普通の人は、裁判官が不正をするなんて思いもしないから、判決の異常さを見抜けないわけです。

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なお、産婦人科カルテの件は権藤しま氏の考察が合理的かつ最も説得力があります。


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