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ぽすとさん 2話〜夏の日から雪解けの朝まで

4 . 文月

それは
なつのゆうぐれどき
こんもりたかい おかのうえに
きつねとぽすとの すがたがありました

ざんねんだったね、
はやしのはずれの きいろいぽすとも
まちかどにある おおきなぽすとも
ちっとも きみみたいじゃなかった
こころがないのかな

きつねが ためいきつきますと
ぽすとは さみしくいいました

そうだ こころがないんだよ
あたらしいぽすとだもの

すると とおくのはやしから
ひぐらしのこえがしました


たいようは
すっかりにしへ かたむいて
きいろくそまった くさのうみが
かぜに ざわざわゆれています

ふしぎだね、きみ
ゆうがたになると
すっかり おれんじいろになるんだから

きつねがいいました
たしかに ぽすとのあかいろは
ゆうやけいろにとけています
まけずに ぽすともさけびました

きみだって、
きみだって、
なんだか きいろいかおをして

ふたりは かおをみあわせると
おおきなこえで わらいました

すると とおくのほうでまた
ひぐらしがなきました


ひぐらしのこえが おおきくなると
きつねはふいに そわそわしました
そして

ママがさみしがるから
そろそろかえるね

ぽすとにむかってそういうと
ぼうぼうしげった くさのなかへ
あっというまに きえてゆきました

(おかのとがったくさったら
きつねのこと、
すぐにみえなくするんだから)

ひぐらしのうたを ききながら
ぽすとはかなしくおもいました


つぎのひ きつねは
おひるすぎに やってきました
てには なにかをもっています
どうやらそれは
うえきばちのようでした

ちょっとしつれい
きつねは すましていいますと
ぽすとのあしの ちかくのつちを
さじで こつこつほりました

よせうえにしたいんだ

きつねは ぽすとのそばにさく
きいろいはなのかたばみを
じょうずに はちへ うえかえますと
くびをかしげていいました

りんどうがみつかるといいんだけど


すてきだね
きみのママは きみがいて
たぶん とってもしあわせだよ

ぽすとが うらやましげにいいますと
きつねは くびをぶんぶんふりました

そんなことないよ
ママはいつも さみしいんだ
パパは めったにかえってこないし
こころが はなれてしまうとね
いっしょにいても
さみしいんだって

そしてしたをむくと
ぽつりといいました

ぼくは パパもママも
だいすきなんだけどね

ぽすとは もいちどいいました

きみのママは きみがいて
きっと とっても しあわせだよ


5 . 葉月

あめがちかいぞ

とつぜん きつねが
はなを ひくひくさせました
そらをみると ぶあついくもが
みなみのほうから きたへむかって
すごいはやさで すすんでいます

ぽすとさん
あらしがくる

ぼく、むらのみんなにしらせるね
ぽすとさんは うちのすあなへ
くるといいよ

きつねのことばに
ぽすとは ふかくおじきをしました

こころづかい ありがとう
でもだいじようぶ
だって ぼくはぽすとだもの


くろいくもにおおわれて
あたりはだんだんくらくなり
よるがきたかのようでした
そうして あらしのさいしょのかぜが
ひどいあめと いっしょになって
ぽすとのそばを ひとふきしますと
おかの とがったくさむらが
おおきなひめいをあげました

(よおし がんばるぞっ)

ぽすとは あかい2ほんのあしで
たおれないよう ふんばりました

なあに こんなこと
はじめてではなかったのです


ごうごう ごうごう

あおいつきも ほしもなく
まっくらなよる

どこか とおく
みなみのくにから
ぶあついくもを つれてきた
かぜは おこって ほえていました
なんだかひどく なきながら
ごうごうおこって ほえていました

ごうごう ごうごう
ごうごう ごうごう


よこなぐりの ひどいあめは
ぽすとのほほを ひっぱたき
おかのうえの くさむらを
なぎたおしてゆきました

きょうのかぜは
やけにおこっているね
でもこんなこと
ながくはつづかないのさ

そしてぽすとは
うれしいことを かんがえました

はじめてもらった きゅうじつに
みんなであるいた まつばやし
きんようのよるにみた
いっとうおおきい ながれぼし


よるが しらじらあけてきたころ
ぽすとが そうっと
めをあけますと
かぜはなぎ あめはなく
ただ そらのたかいところで
くもがあわてて ながれていました

おかのうえの くさたちは
からだについた しずくのせいで
たちあがれそうにありません
おかげでずいぶん みはらしがよく
むらのようすが かんさつできました
こんなに あさがはやいのに
なぜだか みんな そとにいます

しばらくすると
こちらにむかって かけてくる
きつねのすがたがみえました


ぽすとさん、たいへん、
たいへんなんだよう
ゆうびんやさんが かわへ
おちちゃったんだあっ

えええっっ

ぽすとはおどろいて
あんまりおどろいたせいで
かたっぽうのあしを ふみはずし
ひっくりかえったかとおもうと
ごうろごろ ごうろごろ
きゅうなくだりの さかみちを
ころがりおちてしまいました

ぽすとさんっっ

きつねはあわてて おいかけました


くねくねみちまで ころがりますと
ぽすとは カーブをまがりきれずに
そのまま のはらへつっこみました
そして
しめったくさに うけとめられて
やっとのおもいで とまったのでした
あとから きつねがやってきて
すこしばかり きつくいいました

しっかりしてよね
きをつけてよね
きみまで にゅういんするっていうの

きつねのこえは
ちょっとなきごえになっています
ぽすとは ひっしにめをみひらいて
ふるえるこえで たずねました

それじゃあ ゆうびんやさんは
だいじょうぶなんだね


きつねは にっこりこたえました

だいじょうぶだよ
たくさん みずをのんだみたいだけど
もう だいじょうぶなんだ
となりむらの びょういんへ
いまから おみまいにいこうよ

そして よこめでいいました

ずいぶんころげおちたから
あんがい はやくいけそうだね

とにかく ぽすとはほっとしながら
ちょっとだけ
じぶんの まあるいからだを
うらめしくおもいました


こもれびのなか
ぽっくりまつの はやしをあるいて
ことりのこえと
かぜのざわめきをききながら
いしづくりの かべをぬけると
ひろい なかにわがありました
まんなかには
ていねいに ていれをされた
ふかいいどがあって
そのまわりには みたこともないくさや
きれいなおはなが
ぎっしりとうえられて
ふしぎなにおいを はなっていました

これは みんなくすりなんだよ

きつねがいいました

だから かってにたべちゃだめなんだ
まちがってたべると しんじゃうんだ


かさかさかさ

はっぱのこすれるおとがして
ふりかえりますと
しろいぬのをまとった
ひつじのおいしゃさまが
きのかげから
とつぜんにあらわれました

そうして おいしゃさまは
そらをみあげると

あらしのあとは
くうきがすんでおりますね

そう つぶやいたのです


かいろうのさきにある
びょうしつでは
ひらひらと しろいカーテンが
かぜにゆれ
うしろのそらが みえかくれしました

そして 

ベッドによこたわる 

ゆうびんやさんの あおいめに

ひとすじの あさのひかりが きらきらと
すいこまれてゆくのが みえました

きつねとぽすとは いきをのみ
おたがい かおをみあわせました

ゆうびんやさん、
あんなに きれいなめをしてたっけ

いつも ぼうしをふかく
かぶってたもの


しばらくして
きつねがこえをかけました

げんきそうで あんしんしたよ

ゆうぴやさんのめは
すきとおった ガラスだまのようです

しんぱいかけたね
ぼく、どうかしてたんだよ
あんなひに はいたつにいくなんて
ぼく、しななくてよかった
おかあさんを ひとりのこして
ほんとうに しななくてよかったよ

でもね
ぼくは たくさんのてがみを
ぬらしてしまった

そういうと
ガラスだまのひとみは
せいいっぱいの なみだをふくんで
ゆらゆら ゆれているのでした


きつねがさけびました

いっぱい なけばいいよ
いっぱい ないたら
また げんきになれるんだって
おばあちゃんがいってたよ

すると せきをきったように
ゆうびんやさんのなみだが
ながれだしました
ほんとうに かなしかったに
ちがいありません

きつねとぽすとは
どうしていいかわからずに
しばらくいっしょに
ないていました


かえりぎわ
びょうしつの まどから
すっかり はれたそらをみて
ゆうびんやさんが いいました

かなしいひでも
そらは きれいなんだね

すると ぽすともつぶやきました

かなしいひでも
いちじくのみは うれるんだよ


6 . 長月

けさは そらがたかいね

きっと あきになったんだ

きつねとぽすとが おかのうえで
ごろんとよこになっています

ゆうびんやさん すごいねえ
あらしのひも はいたつにいったんだ
すごいねえ
ぼくも ゆうびんやさんになりたいよ

きつねは いいました


ぼくも、

ぽすとはいいかけましたが
ふっと おくちをつぐみました

(だめだめ だって、
ぼくは ぽすとだから
ぼくがいないと
ゆうびんやさんがこまるんだよ)

ぽすとは なんだかおかしくなって
ひとりで くすくすわらいました

すると

なんで わらうのさ

きつねが まっかなかおで
ぷりぷりしました


これなあに

きつねがたずねました
なんだか あちらこちらに
きみょうなぼうがたっています

そうか きみ、はじめてなんだ

ぽすとが うれしそうにいいました

これは まんじゅしゃげ
あきになると にょきにょきでてきて
まっかなおはなを さかせるんだ
はっぱがないから ふしぎでしょ

へーえ たのしみだなあ

きつねは めだまをくるくるしました

そらには いわしぐも
いつのまにか あきが
またすこし ふかまったようで
ひんやりとした かぜにのって
あかとんぼが すーうっと
とおりすぎました

おかのうえでは
ぽすとが なきそうなかおで
きつねのことを まっています

だって きつねったら
まんじゅしゃげのこと
たのしみだっていってたくせに
つぎのひも つぎのひも
ちっともやってこないのです
つぼみは ずいぶんふくらんで
もう あしたにでもさきそうです

そして
すんだくうきに
まあるいつきがうかぶ
あかるいよるのことでした

ささきり こおろぎ まつむし かんたん

あきのむしが うつくしいこえで
おもいおもいに うたうなか
とがったくさは
あおくひかる つるぎのようです

(ああ、こんやのけしきは
ほんとうにきれいだ)

ぽすとはつぶやきました

(みえるものすべてが
つきのいろにそまって
みえるものすべてに
ながいかげがのびている)


ぽすとは つめたいくうきを
おもいっきり すいこみました
それから しずかにめをとじて
むしたちのうたをきいていると
かさかさかさと ものおとがして
おもいがけなく
きつねがやってきたのでした
そしてなんにもいわずに
あかい なきはらしためで
ぽすとのからだにだきついて
しばらくじっとしていました


つきが まうえにやってきたころ
きもちいいかぜが ひとふきして
さやさや くさのすれるおとがしますと

あしたね、

きつねがぽつりと はなしはじめました

あした となりむらの
おばあちゃんちに ひっこすの
パパとママが おわかれしたんだ

ぼくはね、
まちのがっこうへいくんだよ

ぽすとは そらにうかぶつきのかおを
あながあくほど みつめました

(つきも かなしいかおをしている)

そして なみだをいっぱいためると
きつねにむかって いいました

また、あえるよね

するときつねは
ほんのすこしほほえんで
うなづきながら いいました

はなれていても ともだちだよ


わっ

ぽすとがとつぜん
さけびごえをあげました

きみ、とけいをもってるの

するときつねが
わらいながらいいました

ちがうよ これはしんぞうのおと

だってきみ、
ゆうびんやさんがもっている
とけいみたいなおとがする

ぽすとが まんまるのめだまで
ひっしにさけびますと
きつねは ふしぎそうにつぶやきました

そういわれると とけいみたいだ

もしかして ぼくのとけいが
ときを きざんでいるのかな
いのちのじかんを
かぞえているのかな


すっかり げんきになったきつねは
わかれぎわに いいました

ぼく がんばって
べんきょうするんだ
それで、

とちゅうまで いうと
きつねは にっこりほほえんで
ぽすとにむかって
もいちど ねんをおしました

はなれていても ともだちだからね

さやさやゆれる とがったくさは
こんやもやはり きつねのすがたを
すぐに かくしてしまうのでした


ともだち

ぽすとは つぶやきました
ひゅーっとふいた
なつかしいろのかぜ
よふけまでつづく
むしたちのうた

そして こんや ながれぼしは
ひとつも みえませんでした
つきがあかるすぎたのです


7 . 神無月

ああ、みごとにさいたね

そういって ゆうびんやさんが
ひさしぶりに やってきました
おかのうえには てんてんと
まんじゅしゃげのしげみがつづき
あたりをあかくそめています
いつのまにかぽすとは
おはなにぎっしりとりかこまれて
うごけなくなっているのでした

すこしとってあげようか

ゆうびんやさんが みかねていいますと

そのまんまにしておいて

ぽすとは あたまを
ぶんぶんふりました


ゆうびんやさんが おはなをかきわけ
ぽすとのそばに やってきました
そして おなかのかぎをあけ
なかをのぞくと ざんねんそうに
ためいきついて いいました

きょうも おてがみはいってないね

ぽすとは なきそうなかおで
ぼそっと つぶやきました

きつねくんが ひっこして
だあれも こなくなっちゃったよ


きょうの ゆうびんやさんは
なんだか のんびりしています
きりかぶに こしかけますと
おおきな いつものかばんから
しろいノートを とりだしました
そして みぎてのえんぴつで
さらさら なにかをかきました

(しんあいなる きつねさま)

ノートには そう かいてあるのです

わあっ、おてがみだね

ぽすとは とてもうれしくて
あしを ばたばたならしました


「おげんきですか、
こちらは まんじゅしゃげが
はなざかりです
おはなに すっかりとりかこまれて
ぼくはずうっと たちぱなし
とうぶん うごけそうにありません
きつねくん、いまあそびにくれば
みごとなけしきが みられますよ」

ゆうびんやさんが かきおえると
ぽすとはまじめなかおでいいました

あの、さいごのところは
けしてください

(だって そんなことかいたら
きつねくんが こまるじゃないか)

ぽすとは そうおもいました


ゆうびんやさんは
しぶしぶ てがみをかきなおし
はっぱのきってをはりました

そして とってもだいじそうに
じぶんのかばんにしまいますと

ぼすとさん、おてがみ、
たしかにあずかりました

そういって
まんじゅしゃげの はなさくこみちを
はしっておりてゆきました


そのとき ぴゅーっと
きたかぜがふきました
すると どこからか
きいろいもみじがとんできて
ぽすとのほほに あたりました
ひにひにつめたくなるかぜには
ふゆのにおいが まじっています

(そうか、ぼくはまた
ゆきにうもれてしまうのか)

ぽすとはすっかり
かなしいきもちになりました


よくはれて
すこしあたたかいあさのこと
すすきのはらの むこうのほうに
ゆうびんやさんがみえました
みぎての しろいふうとうを
そらでぱたぱたしています

ひやっほう!

ぽすとはさけんで あしぶみしました
だって しろいふうとうは
きつねのてがみに ちがいありません

まっかなまんじゅしゃげを
かきわけて
おかのうえへやってくると
ゆうびんやさんは
さっそく てがみをあけました


「ぽすとさん、
もうすぐ ふゆごもりのきせつですね
そっちは ゆきばっかりで
さみしいこととおもいます
でも ぽすとさん、
ぼくは きづいたんです
ふゆのつぎに やってくるのは
あの きもちいい
はるだってことに

またあったかくなったら
あそびにゆきます

きつね


はる、かあ

ぽすとは とおいめで
ためいきをつきました

あったかなひざしと そよそよかぜ
ちょうちょうが ひらひらして
つい いねむりをする
あの きもちのいいきせつ

ぽすとは たかくてあおい
そらをみつめていいました

きょうはすこし はるににている


8 . 霜月

よくよくじつは こがらしのふく
さむくて くもっぽいひでした
ゆうびんやさんは いつもより
ずうっとはやくきたかとおもうと
いきなり
みどりのぽうしをぬいでいいました

きょうが さいごのおしごとです


そして いつものかばんから
きつねにもらった てがみのたばを
だいじそうにとりだしますと
ぽすとのおくちへ すとんといれて
やさしく あたまをなでました

このおてがみを のみこんで
おなかをあったかくして
ながいふゆを こすんだよ

ゆうびんやさんは そういいながら
ぽすとのからだの ていれをしますと
ずぼんについた つちをはらって
もいちどふかく ぼうしをかぶり
きっぱりとしたいいこえで
ぽすとにむかっていいました

おかねが すこしたまったので
おとうさんをさがしにゆきます
いつまでかかるか わからないけど
あえたら かならず てがみをかくよ


はやく、
みつかりますように

ぽすとは さみしいのをがまんして
せいいっぱいに ほほえみました

ゆうびんやさんは ふっとわらうと
おもたいかばんを かたにさげ
ぽすとに くるりとせなかをむけて
さっさときえてしまいました

ただ ふかみどりいろのぼうしだけが
ちゃいろになった くさむらにうかんで
いつまでも いつまでも
みえていたのです

しばらくして ぽすとは
なきながらつぶやきました

また、
ひとりになっちゃったよ


ぎんねずみのそらには
しろいものがふわり
ふわり ふわり
ゆっくりと おどりました

ゆきです ゆきです
ねむっても ねむっても
めをさますと いちめんのしろ
おともなく だあれもいない
あのさみしいきせつがまた
ぽすとのあしもとにまで
やってきていました


ともだち

ぽすとは つぶやきました
あのときふいた
なつかしいろのかぜ
いつのまにか
ぼくには ふたりも
ともだちができたんだよ

うん、そうだ
はなれていても ともだちさ

ぽすとは しずかにつぶやくと
ゆっくりまぶたをとじました

そして
ゆきは おともなく
あたりにふかく ふかく
こしをおろしてゆきました


9 . 弥生

とん ぴとん
ぴとんぴとん、ぴとんっ

なんのおと

これは そうだ
しずくがおちるおと

ぽすとは
ゆっくりと めざめました

からだは ほんのりあたたかく
まぶたのうらは おれんじいろです
そして、
すばらしい たいようのひかりが
あたりにみちているのを
はんぶんゆめのなかで
うっとりしながら かんじていました


ゆっくりと まぶたをひらいて
ぽすとは あたりをかくにんしました
からだを あたためていたのは
たかあくあがった しろいたいよう
まっさおなそらと
まぶしいひかり
あたまのつららは ずいぶんやせて
しずくがおちる あしもとには
くろぐろとしたつちが なつかしく
かおを のぞかせているのです

はるのひかりだ

ぽすとはさけびました
そして
おおきなあくびをしました


ひさびさに
ぽすとのそばを
そよそよかぜが とおりぬけます

ごきげんよう!

うれしくなって
ぽすとはさけびました

おや、なんだかちがう

ふたたびあえたとき
ひとは
なんというのだろ

おかえりなさい、

でもなくて

ぽすとは あたまをひねりました


がさがさがさ

とつぜんの ものおとに
ぽすとは あわててふりむきました

すると くねくねみちの
てまえあたりで
ゆうびんやさんが
ゆきをどけたり
いしころをひろったり
こみちのていれをしているのでした

わっ、そうだよ
あれは あたらしいゆうびんやさんだ
あいさつしなきゃ

ぽすとは とてもきんちょうしました


ていれをおえた ゆうびんやさんは
からだについた ゆきをはらうと
ゆっくり あるきはじめました

すこしずつ すこしずつ
ちかづいてくる ゆうびんやさんを
ぽすとは じっくりかんさつしました

ふかあくかぷった みどりのぼうしに
こがねいろの ふさふさしっぽ

えっ きつねのゆうびんやさん?

そうです そうです

それは ちょっぴりおとなになった
きつねのゆうびんやさん
なのでした

わあっ!

ぽすとはさけびました
そうして またしても
かたっぽうのあしを ふみはずし
ひっくりかえったかとおもうと
ごうろごろ、ごうろごろ、
きゅうなくだりのさかみちを
ころがりおちてしまったのです

ぽすとさんっ

きつねがあわてて おいかけました


くねくねみちの てまえのところで
のこったゆきに のりあげて
なんとかぶじに とまったぽすとに
きつねが あきれたかおでいいました

やれやれ、
たいへんなんだから
もう にどとおちないでね
ぽすとさん

そうして きつねはわらいながら
おもたいぽすとの せなかをおして
きゅうなさかみちを
ふうふういって のぼりました


おかのうえにもどると
ふたりは ゆきのうえにころがって
あおいそらを みあげました
ひばりが たのしくさえずって
たかいところに あがっていました

はるだね

はるだよ

うれしいっ

ぼくもっ


ふたりは かおをみあわせて
げらげらわらいました

そして しばらくはるのかぜを
むねいっぱいに すいこみました

そうそう、ぼく、
こんなことしてられないんだった
おしごとがあるんだよ

きつねは あわてて
とびおきました
そして かばんをかたにさげると

あしたもくるからねっ

そういって てをふりながら
まだまだ ゆきがのこったおかを
げんきに かけてゆきました


ぽすとは めをほそめました

たかあくのぼった たいようの
ひかりがゆきにはんしゃして
あたりはもう ほんとうに

ぴっかぴかだったのです


だから、
よかったね、

ぽすとさん。


(3話につづく)



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