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ぽすとさん 5話〜(epilogue) 山桜の咲く頃

 あ、

さいた
さいたよ、
おとうさん

ほんとうだ
きょうは
あったかかったからね
やくそくのひ
そろそろきめないと

みんなとそうだんして、ね

たそがれは あおく
あおく
やまのりょうせんに すこしだけ
あかねいろを
のこして

さくらのしろも
きつねのかたちも
こしをおろした ゆうやみに
いつのまにやら
にじんできえた

ふとみあげると つきのかお
ただ こくこくと
かがやきをます


きっと

ながれぼしは みえないよ
こんやは つきがあかるいし

そっかあ、
ざんねんだね
まんげつのそばを
おほしが とおりぬけたなら
それはそれは
すてきだろうに

きつねのおやこの ささやきごえは
かぜのおとといっしょに
きれぎれになって
いつしか やみよにきえました


そして ふたたび
たいようがのぼるまえ
うっすらとあかるくなった
ぽすとのおかでは
かぜにのって
すんだうたごえが
ふきわたりました


やまざくら やまざくら
またまだちいさい
こどものき
そよそよかぜに
ゆらゆらゆれて
ふっくらつぼみ
つぎつぎひらく


とがったくさむらには
いくつか ひらひらと
しろいはなびらが
まいおりたようです

そして
ひがしのそらが
きんいろにかがやき
たいようが かおをのぞかせますと
ふうけいが
とつぜん
いきをふきかえしたかのように
あざやかないろに
かわってゆくのです


ここは さくらのさいた
おかのうえ
むらをみおろす このばしょに

みな
いました

きつねのおやこ
けむくじゃらのたびびと
たくさんのむらびと に
こどもたち

そして
みんなのまえに
すっくとたっているのは
ながいあごひげをたくわえた
やぎです

やぎは すこしきんちょうした
おももちで
でも、
いつもみたいに やさしいこえで

みんなに かたりかけました


むらのみなさん、

けさは はやくから
きてくださってありがとう

いきているというのは
やるべきことが たくさんあって
いつのまにか
じかんがたってしまうものですね


ぽすとさんのたましいが
とびさってから

すでに きせつがいくつもすぎて

この ちいさなやまざくらも
はじめてのはなを
さかせてくれました

さくらのきは
つぎのはるにも
はなをさかせます

ずうっとながいときを
ぽすとさんのかわりに

むらを
わたしたちを
みててくれます

わたしたちが いなくなっても
こどもたちさえ いなくなっても
ずっとずっと

き とはそういうものです


わたしは
いっぱいかんがえて
おはかをつくるのを
やめました

ぽすとさんは
しごとがだいすきで
てがみがだいすきで
りっぱなぽすとだった、
だから、
わたしは
わたしは

やぎは くちごもると
とつぜん うしろをむいて
こうぼうの おもいとびらを
ぎぎっとあけたのです

そして、
そこにあったのは

つやつやに みががれた
あかいろの じてんしゃ

みんなは いきをのみ
だれかが さけびました

これは、
ぽすとさんの あかいろだ!


そうです
そうです

ぽすとさんは
ゆうびんやさんがのる

あかい じてんしゃ になったのです

きつねのこどもたちは
くちぐちにさけびました

こういうの
うまれかわりって
いうんだよ
そうだよね、おとうさん


きつねは めをうるませて
たちつくしています

すると やぎがいいました

ねえ、みなさん

やはり このじてんしゃは
いちばんなかよしだった
きつねくんに!

そうだ、
ぽすとさんは
いつも
ゆうびんやさんを
まっていたもの
もっともっと いっしょに
おしごとしたかったでしょうに

そういって
みなが せなかをおしますと

きつねは めだまをまんまるにして
そろりそろりと
じてんしゃにちかづきました


そうして きつねは
あかいじてんしゃを
おもいっきり だきしめました
するとなにか あったかいものが
こみあげて
ふれているところが
じーんとあつくなるのです

きつねは はっとしました
こどものとき
まちへひっこす まえのばん
ぽすとさんにだきついた
あのときとおんなじだ

かたちは ちがうけど
きみは、きみは、
ぽすとさんだ

きつねは
さけびました

ぽすとさん、
これからは
いつもいっしょだよ
ぼくをのせて
はしっておくれね

そうして
おおきなこえで なきました

しばらくして
おもむろに
なみだをぬぐったきつねは
きりっとしたかおで
ハンドルを ひとなでしました

そうして
おもいきって じてんしゃに
とびのったのです

そして、
となりむらにつづく
きゅうな くだりのさかみちを
いきおいよく おりていきました

むらびとたちが かんせいをあげて
おいかけます

りょうがわの
とがったくさをかきわけて
どんどん どんどん
すぎてゆくけしき
きつねは しっかりと
ハンドルをにぎりました


そのときです
ひゅうっと
つよいかぜがふいて
たくさんの しろいはなびらが
まいあがりました
ものすごい
はなふぶきになったのです

ああっ
ぽすとさんが
とけてる

おかのうえにいた
こどものひとりが
いきなり さけびました

やぎも めをうるませて
おおごえで
さけびました

この ひろいひろい
けしきのなかの
あらゆるところに

きみのけはいを かんじるんだよ

とがったくさむらの
かたすみだったり

かぜにひるがえる
このは の うらだったり

このせかいが なんなのか
やっぱり、ぜんぜん
わからないけど

きみのおかげで
すこしだけ
なにかが みえたきがするよ


ぽすとさん

ぽすとさん

ありがとう

ぽすとさん


〜追記


なつのおわりの
ひるさがり

とがったくさのくさむらに

じてんしゃをとめて
おひるごはんをたべている
ゆうびんやさんを
みつけましたよ


ゆうびんやさんは
ぽけっとからだした はんかちで
あかいじてんしゃを
せっせとふきふき
おていれをしました

そして つやつやになった
じてんしゃを ひとなでして
つぶやきました

いつか、
しゃべってくれるかな


じてんしゃにとびのると

ちりん

ベルが
ひとりでに なりましたよ

どうでしょう、

そろそろ
しゃべってくれるかも
しれませんよね


ねえ、
きつねくん。


(おわり)





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