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ぽすとさん 3話 〜春うららかな頃

10.   卯月

こんもりとした おかのうえ
とがったくさの はらっぱに
ぽすとが ぽつんとたっていました

あったかなひざしと そよそよかぜ
そらには ひばりが たかくあがって
ぽすとの いっとうすきなきせつが
ふたたび やってきていました


でもなぜか
ぽすとは ずっとしかめっつら
どうしてかって?

それは かれこれ 7にちも
きつねくんが
かおをみせてくれないからで…

きつねくんというと、そう、
しんまいの ゆうびんやさんです

なあんだ、
たったのいっしゅうかん
そう おもうかもしれないけれど
ぽすとにとってはいちだいじ

だって、
きつねくんは いったんだよ
これからは いっしょに
おひるごはんをたべようねって。
ぽすとはつぶやきました
そうして
あおいそらを みあげました

ゆうびんやさんの きつねくんに
おもいがけなく であった
あの ゆきどけの あさ

そらのいろは あのときと
なんにもかわっていないのに
きつねくんは もう
ぼくのこと
わすれてしまったんだろうか


そうじゃなく、
なにかわけあって

たとえば やぎの
ゆうびんやさんみたく
けがをして
こられないなんてこと…

ぽすとは ぶんぶん
あたまをふりました

そんなことなら
ぼくを わすれるほうが
ずうっといい

そよそよかぜさん
ぼくのきもちを とどけておくれ

かぜは
とがったくさむらを ぬけ
しずかに おかを
くだってゆきました


それから ふたばん
つきのかおを みつめたあとに
あさつゆひかる くさむらへ
きつねがひょっこり やってきました

ごめんね、ぽすとさん
やくそく やぶっちゃって

げんきなきつねを みたとたん
さみしさなんて
あっというまにふきとんで
ぽすとは にこにこ
きつねをみつめました


でも きつねのほうは
なんだか もごもご
あかいかおで
くちごもっているのです

どうしたのさ、はやくいってよ

ぽすとは もどかしくって
じたばた あしぶみはじめました

わかった、いうよ!
でも、おどろかないでね

きつねは かなりはずかしそうに
ぽつりぽつりと
はなしはじめました

じつはね、
ぼくに、
およめさんがくることに
なったんだよ

まちのこなんだけど 、
おなかに あかんぼうがいるの

ええええっ!

ぽすとは
いきなりさけぶと おもいきり
うしろがわへ のけぞりました

そして、
つぎのしゅんかん
みじかいうでを ばたばたしながら
うしろがわへ おっこちそうに、、

あああーっ!!

まあるいからだのむこうには
きゅうなさかみちが せまっています

そういえば
ずいぶんまえにも
にたようなことがありました


でも、こんかいはちがいます
きつねが すかさず
ぽすとのしたへもぐりこみ
なんとか やれやれ
ころがりおちずにすんだのです

ああ、あぶなかった
ぼすとさん
おどろくと こうなるでしょ!

きをつけないと また
あしがいたくなっちゃうよ

お、お、
おめでとう!
きつねくん

ぽすとは
ひっくりかえったまんま
そらをあおいで いいました

するとこんどは
そらのほうから
きつねがわらっていいました

ぼく、おとなになったから
ひとりだち したんだよ
このむらへ かえってきたの
いま、
ひっこしのまっさいちゅうさ

そうして
きつねは ほほをあからめると
くさむらを ぴょんぴょん
はねてゆきました


そういえば
きょうは
にちようじゃないのに
ゆうびんやさんのぼうし
かぶってなかったね

きつねくん
おやすみ もらったんだ
どんなこ なんだろう
きつねくんのおよめさんって


ぽすとは ふっと
いいこと おもいつきました
あしもとに たくさん
すみれがさいていたのです

すみれさん
すこし おはなをわけてね
きょうは とくべつに
おめでたいひなんだよ

さて、
おひるをすこしすぎたころ
ふたりが ぽすとのおかへ
やってきました

およめさんは
きつねのうしろに
かくれています

みえかくれするのは
こがねいろの ふさふさしっぽ

あれ?
およめさん、きつねくんと
おんなじしっぽ もってるの?

そうだよ、
だってきつねだもの

にっこり わらっていいました
うしろで およめさんも
くすくすわらいました


およめさんは
きつねくんよりちいさくて
かわいいかおと
ふっくらしたおなかを
もっています

ちいさなすみれのはなたばを
ぽすとはそっと
さしだして
ふたりにいいました

これからさ、
けっこんしき、
しようよ

ふたりが
むかいあわせに ならびますと
しんみょうな かおのぼすとが
たどたどしく
ことばをならべます

ええ、かみさま、
わたくしぽすとが
おふたりのけっこんの
みとどけにんとなり
おふたりのしあわせを
これからずっと
みまもってまいります


きつねくん、
あなたのかたわらにいる
かわいいおんなのこを
これから ずうっと
たいせつにすると
ちかいますか?

はい、ちかいます
きつねは しっかりうなずきました

およめさん、あなたは
この りっぱなしっぽをもつ
おとこのこに
ずうっと
やさしくすると ちかいますか?

ちかいます
およめさんも
しっかりとうなずきました


では おはなのこうかんを…

いちりんの すみれのはなを
およめさんは かみかざり

おむこさんは むなもとあたり

そしてふたりは
おたがいのほっぺにキスをしました

そのときです

はなびらに
ぽつりとひとつぶ すいてきが
のっかったようにみえました
すると みるみるうちに
さらさらさら
あめが シャワーみたいに
ふりそそいだのです
とつぜんのことでした

ひゃああっ
さんにんは おおあわて

かえでのきのしたへ
にげこむと
しきりにくびをかしげました

たいようが みえているというのに
きょうは おかしなてんきだねえ

きつねが ためいきつきますと
はなよめさんのかおが
さあっとくもりました


そうじゃないっ

ぽすとは さけびました

きょうは めったにない
とくべつに すてきなひなんだよ


しばらくして
くもがきれ あめがおさまると

うわーっ!

ひがしのそらをみた
きつねがさけびました

なんと、
なないろのにじのはしが
どんどんのびて
むらはずれから はやしのむこうの
うすむらさきの やまなみへ
きれいなアーチを えがいたのでした

ほうら、
やっぱり すてきなひだったよ
ぽすとは はにかみながらいいました

すると はなよめさんは ほほえんで
それを きつねが いとおしそうに
みつめるのです


ぽすとは ふたりをながめながら
ほんとに ほんとに
よかったなあと おもったのです

ふたりがいなくなったあと
ぽすとは ひとりたっていました
とおくにながれる
しろいくもをみつめながら
ちいさくつぶやきました

やぎくんは
どの くものしたを
あるいてるんだろうね

ぽすとの こころのなかを
かぜが ふいていました
それは なぜか
ふゆがおとずれるまえの
もみじをちらす
あのかぜとそっくりな…


ぽすとは はっとしました
ぼくは、ぼくは、
なんて いやないきものなんだ
けっこんしきのひに
さみしくなるなんて
はなよめさんは いいこで
かわいくて
そして、
きつねくんに そっくりだった

ぽすとは
あたまをぶんぶんふると
うつむいて
すこしかんがえたあとに
ふかあくうなずきました


きつねくん、
ぼくのいちばんはきみで
きみのいちばんは ぼくじゃない
でも そんなの
あたりまえのことだったんだ

そうだよね、
かみさま

やっぱり ぼくは みつけたい
おんなじかたちの ともだちを。


ぽすとはもういちど
そらをみつめました
さっきかかった にじのはしは
あとかたもなく きえて

とおくをながれていたくもが
いつのまにか
そらいっぱいに
しきつまっているのでした

そらは どんどん かわってゆく
ぽすとはおもいました


11.   皐月


けさは はやくから
きつねのゆうびんやさんが
てがみのかいしゅうに きています

ぽすとさん どうしたの
そらばっかり みているね
てがみをかばんにいれながら
きつねが たずねました
ぽすとがなんだか そわそわしていて
いつもとちがうように
みえたのです

うん、おてんきが きになるんだよ

ぽすとが
くちごもりながらこたえました
でも そらは
くもひとつない あおぞらだから
ふしぎにおもったきつねが
すかさず たずねました

あした、なにかあるのかい?


そう、あしたは にちよう
ぽすともきつねも
しごとは おやすみです

ぽすとは あわててこたえました

ちがうよ、
ただ たくさんのながれぼしが
みえたらなあって

え?こんやは むりだよ
だって まんげつじゃないか

きつねが いぶかしげに
あたまをかしげると
とつぜん
おひるのかねが なりました


ぽすとは にこにこいいました

きつねくん、おひるだよ
はやくかえんなきゃ
おひるごはんと おくさんが
さめちゃう

きつねは しぶしぶ
とがったくさのうみに
きえてゆきました

もちろん、
こんやは まんげつ
あしたは きゅうじつ
だから、
きょうしかない
そう ぽすとは おもっていたのです
そして つぶやきました

こんや、つきのでのあと
しゅっぱつだ


さて、ひがくれて
ぼうっとした おぼろづきでしたが
ゆっくりとあがりました

とがったくさむらは
ぎんいろにうかび
どうやら つきは
よみちをてらしてくれるようです

ぽすとは あしどりもしっかりと
あるきはじめました

そよそよかぜに くさばながゆれて
なんだか どこまでも
あるいてゆけそうな、
そんな きがしていたのです

ひとりぼっちなのに、
さみしくなくて
こころが すっきりと
しているんだよ
どうしてだろうね


ぽっくりまつの はやしのなかは
それはそれは まっくらで
こわいのを がまんしながら
つまずかないよう
きをつけて あるきました

でも みあげれば
まつの えだのすきまから
ぎんのつきと ほしぼしが
ひかりをとどけてくれることに
きがつくのです

こんやは かぜもなく
しずかで
よるのいきものの
けはいがありました

なんだかみられているような
そんなきがして ふりむくと

がさがさがさ

なにものかが とびさったり

とおくのしげみには
ひかるめだまが こちらを
うかがっていたり

でも
ゆっくり ゆっくり
あかいあしを うごかして
はやしのつちを ふみしめました

ぽすとは ずいぶんしっかりと
あるけるように なっていたのです


そして
ある ばしょまでくると
ぽすとが はたと たちどまり
つぶやきました


さて、ここなんだよ

めのまえには
ひだりへまがる ひろいみち
しかし よおくみると
みぎのほうへも
くさぼうぼうのこみちが
のびています

ここだけが
まだ すすんだことのないみちさ

ぽすとが
ふたまたみちに きがついたのは
かつて ともだちさがしに
とおりかかった ひのことで

やぎのゆうびんやさんが
いったことには

このみちは
ずいぶんむかしに
つかわれなくなったもので

おくにひらいた とんねるは
いつも しずくがしたたって
ちをすうこうもりがとぶらしい

むこうにぬけると
おおきなみずが あるだけで
めをこらしても だあれもいない
ただ おそらのたかいところで
おおきな たかが
わっかをえがいて
えものをねらっているんだとか

もう ずいぶんとむかしから
ゆうびんはいたつに
いくこともないんだと

でもね、

ぼくのからだは かたくって
たかやこうもりに
おそわれることはない

だから、ぼくひとりなら
だいじょうぶなんだって
きがついたのさ


さて、こみちをすすむと
きゅうに きりがたちこめて
まるで、
みるくのなかをあるいて
いるようです

ぽすとは そらをみあげました
そこには おともなくとぶ
こうもりのすがた

すると、よるのとばりの
そのまたむこうに
くろいくちをあけた とんねるが
こつぜんと すがたを
あらわしたのです
そして そのとんねるからは
おびただしいかずの こうもりが
そらへ ふきだしていました


ぽすとは そうっとおとをたてずに
とんねるにちかづきました

そうっと、
ちかづいたはずだったのです

ところが なぜか
それにきづいた こうもりたちが
いきなりむきをかえ
ぽすとのほうへ とんできたのです

かおやからだに ぺたぺたとあたる
こうもりに
ぽすとは おどろいて
こしをぬかしそうになりましたが
なんとか がまんをして
まっすぐにすすみました

だって、
どうしても むこうがわへ
いきたかったのです

それに このこうもりたちは
おもったよりちいさい
いきものでした

とてもかるくて
まるで てがみをかく
びんせんのようだと
ぽすとはおもいました

ところが とんねるにちかづくにつれ
かおにあたる こうもりが
とんでもないかずになってきたのです

いきができなくなったぽすとは
たまらなくなって さけびました

ぼくはっ ぼくはっ
なにもしないよおっ

きみたちのあかんぼうに
さわったりしないし
たべものをとったりもしない!

ただ、
むこうがわへ いきたいだけなんだ
ともだちさがしに いくんだよおっ

そうすると、とたんに ふわっと
かおが すずしくなりました

こうもりのむれが むきをかえ
そらへ のぼっていったのです

みなが よるのかりにでかけた
からっぽのとんねるは
とても しずかでしたが
じめじめぬかるんで
とっても あるきにくいばしょでした

ときどき
なにか けはいをかんじるのは
きっと あかんぼうがいるのだろう
そう ぽすとはおもいました


ぽすとは
てさぐりで かべをつかみながら
くらやみのなか
いっぽいっぽ あるきました

なにひとつ きずつけないよう
しんちょうに しんちょうに

ただ どれだけあるけば
むこうがわにでられるのか
ぽすとには
けんとうもつきませんでした


さて、
どのぐらいあるいたのか
えいえんにつづくかとおもわれた
くらやみ
もうろうとする いしき

それが
みちの ずうっとさきのほうから
さしこんでくる つきあかりを
たしかに ぽすとは みたのです
でも、
そのあとすぐに ちからつきました
そのばに くずれおち
きを うしなってしまったのです

そして
よるが しらじらあけるころ

きがついたのは
はじめてきくような
なんともふしぎなおとでした

ざざざざ ざざざざ

よせてはかえす
なみのおと

おおきなみず…

ぽすとは はっとして とびおきました

めのまえにあったのは

どこまでもどこまでもつづく
ふかいあおいろの
いちめんのみずたまり

これは せかいのはて?

ぽすとは いきをのみました

そして しばらくたちつくし
ながめていました


そらも みずも つちも
ふうけいは みな あおいろに
とけたように にじんで

そのなかに
てんてんと
うかびあがった しろいほし

いいえ ほしではなく
それは おはなでした

とんねるのそとは
しろいはなさく
いちめんのくさむらで

そのなかを
きゅうなくだりの いっぽんみちが
はるかした
おおきなみずへむかって
ぽすとをさそいました


これは とてつもなくきけんだ

ぽすとは つぶやきました

もし あしがすべったら
このまま がけをころげおちて
おおきなみずにまっさかさま

すべておしまいだ。


ぽすとは りょうあしに
ぐっとちからをこめました
そうして
がけのくさを
しっかりとにぎりしめながら
ゆっくり
さかをおりました

しろいはなの よいかおりが
そこいらじゅうに ただよっても
ぽすとは
ちからがぬけそうになるのを
けんめいにたえていました

あしがつらくって
ちいさいめだまに
なみだがにじんでいましたが
せいいっぱいのちからで
すこしずつ
さかをくだっていきました

だって
やっと ここまできたんですから
もう ひといきなんですから


そうして ついに
いちばんしたについたころには
あしは あかく はれあがり
てのひらだってきずだらけ

でも ぽすとはすっかり
いたみをわすれているのでした

だって ぽすとのまえには
どこまでもつづく
あおい あおい
おおきなみず
しろいなみは
よせてはかえし
よせてはかえし


ぽすとは
ゆめをみているようでした

さっき とおりぬけたとんねるは
はるかうえ
しろいはなさく きりたつがけが
せなかにそびえていました


ぽすとは はっとしました
やっとのおもいで
ここまできたわけを
おもいだしたのです

ぼくはね
ともだちさがしにきたんだよ

ぽすとはあわてて
あたりをみまわしました

まえにはおおきなみず
うしろにはがけ
そしてそのあいだには
くさむらが
ひろがっていました
そしていっぽんのみちが
そのくさむらをつらぬいて
いるのでした

ぽすとは
みちをあるきはじめました
なみのおとを ききながら
そして
ふるいたてものを みつけたのです
みずぎわにたつ とても おおきなたてものでした
あちらこちらが くずれていて
もうつかわれていないことは
あきらかでしたが
このあたりには
このたてもののほかには
なんにもありませんでした


そらとみずのあいだが
すこし あかねいろにそまるころ
ぽすとは そのたてものへはいりました
たてものは くちていて
あるくたびに ぎしぎしと
おおきなおとがしました
どうやら こうばのあとのようです
ぽすとは なにか
ふしぎなきもちがしていました

きかいなどが おいてある
おおきいへやを とおりすぎ
きしむ ろうかをあるいていると
とつぜん
つきあたりのへやから
ぽすとのあしもとへ
すうっと おれんじのひかりが
のびてきたのです
ぽすとは すいこまれるように
そのへやへ はいってゆきました


そこで めにとびこんだのは
おれんじのひかりが しのびこむ
こうしのついた まるいまど

こ、ここは、


ひゅーっとふいた
なつかしいろのかぜ
ずうっとむかし
くらいそうこのかたすみで
ちいさいまどから
しのびこむ…

かつて ぼくはここにいた


まるいまどへ ちかづこうと
あしをすすめたそのときです
なにか かたいものが
あしにあたりました
みると ちいさくまるいものから
かげが ながあくのびています

なんだろう?

めをこらすと ぽすとは
かみなりにうたれたように
かたまってしまいました

なぜなら それは
ぽすとのおなかについた
てがみをとりだすときの
みなれた とって と おなじもの
だったのです


ほら!

やっぱりそうだ!やっぱり…

ぼくは ともだちといっしょに
ここにいたんだ!


ぽすとは とってをにぎりしめ
むねに おしあてました
そして さめざめとなきました

まあるいまどから はいるひかりは
おれんじいろから
しろくまぶしいひかりへかわり
だあれもいない、ひろいそうこを
あかるく てらしているのでした


さて、
どのぐらいじかんがたったのか
ぽすとが よろよろ
こうばから でてきました

そらをみあげると たいようは
すこしだけ にしへかたむいて
ふうけいは もう、
きいろくなりかけていました

か、かえらなきゃ…
ぽすとは そうおもいました
だって ここには だあれもいないんだ

そして ぽすとはふたたび
さめざめとなきました
そして
あしをひきずりながら
もときたばしょへともどったのです


そして がけとじぶんのあしをみて
がくぜんとしました
あかく はれあがったあしには
もう のぼれそうにない
きゅうなさかみち

ぼくは もう もどれないのか。

ぽすとは へなへなと
すわりこんでしまいました
そして こんどは
おもいきり なきました
ないて、ないて、
なみだが かれるころ
かすかに こえがしたのです


だれっ?
ぽすとは ひっしでさけびました
すると かすかなこえはいいました

かれかけの くすのきだよ
うえをみてごらん

ぽすとが うえをみると
そこには とんでもなく
おおきなきがたっているのでした

さとがえりかい?

ぽすとがおどろいて かたまっていると
くすのきはふたたびたずねました

うまれたところへ かえってきたのかい
と、たずねているんだよ


ぼくをしってるの?
ぽすとはさけびました

ああ、もちろん
ふるいぽすとだ
きみのかたちをおぼえてる
きみとおんなじ
かたちのぽすとが
あそこのこうばで つくられて
おおきなふねで
うみをわたっていったんだ
でも ずいぶんむかしのはなし
いつのことだか おもいだせないよ

うみって このおおきなみずのこと?
ぽすとがたずねると
くすのきは はなしをつづけました


そのとおり。
こうやって まいにち
うみをながめているとね
あの そらとうみが
あわさっているところから
とつぜん すみれのたねみたいな
ちいさいつぶが あらわれて
こちらにむかってやってくる
それが だんだんおおきくなって
そのうち りっぱな ふねになるんだ

うみは あそこで おわりでなくて
むこうがわには もっともっと
ひろいせかいがあるんだよ
きみのなかまたちは とおくへ
はこばれていったんだ


ぽすとは
なみだがとまりませんでした

やっぱり
ぼくは ひとりじゃなかった
ぽすとは てのひらの とってを
にぎりしめました

すると くすのきが
はっぱで てまねきするのです
このあたりは
にしに やまがあるせいで
たいようは かたむいたとおもうと
すぐにしずんでしまいます
ぽすとは くすのきのあしもとで
ぺったりとすわりました
あたりは もううすぐらく
くすのきのかたちも
あんまりよくはみえないのでした


くすのきは さとすように
やさしくかたりかけました

いのちをすりへらすから
もう きちゃいけないよ
あしがいたいのは
きみが もう わかくないからだよ
わたしをみてごらん
ひだりはんぶんはもう
いのちがつきている
はっぱがおちているだろう

ながくいきた

たびびとは こかげでやすみ
とびは すをつくり
わたしのなかでは おおぜいの
むしやちいさないきものがくらしてる


わたしがしんでも
このからだは
しばらく やくにたつだろう

もう やすみなさい
そして あしたのあさいちばんに
むこうの ひろいみちにでて
みるくはいたつのくるまを
まつんだよ
きのいいおとこだから
きっとのせてくれるよ

やさしい つきあかりのした
なみのおとは こもりうた
おおきいくすのきにつつまれて
いつのまにか ぽすとは
ねむってしまいました
ほんとうに つかれていたのです


つぎのひのあさ、
ぽすとは はっぱにうもれていました
くすのきが たくさんのはっぱをおとし
ぽすとを あたためてくれたのです
かるくてあったかい おちばのふとんは
ぽすとのからだをいやし
あしはもう ずいぶんらくになって
いました

くすのきさん、
ほんとうにありがとう

ぽすとはさけびました
でも くすのきは
なにもこたえません

ぽすとは くすのきの
ふといみきにだきついて
しばらくじっとしていました


くすのきさん、
いのちがおわったんじゃないよね
ねむっているだけだよね

ぽすとは
いちまいはっぱをひろいました
そして なんどもふりかえりながら
くすのきのもとをはなれたのです

そのあとぽすとは
くすのきにいわれたとおり
すこし たかいところにある
ひろいみちまで
あしをひきずり あるいてゆくと
とおくに みるくをはこぶ
しろいトラックがみえました


ぽすとは みじかいうでを
ひっしにふって
くるまに とまってもらったのです
みるくやさんは
びっくりしたようにいいました

あれえ、なんでえこんなところに
ぽすとが…

おいそがしいところすみません、
あしがいたくて もどれないんです
どうか、ぽっくりまつのはやしまで
のせてもらえないでしょうか?
おねがいします

ぽすとは なきながら
あたまをさげました


みるくやさんは めをまるくすると
にっこりしていいました

うちのみるくかんと
おんなじような かたちだべ
ひとつ あきがあるから
ぐらぐらして こまってた
のってくれると たすかるべ

ぽすとは みるくかんといっしょに
くくりつけられると
しゅっぱつしました
はじめてのドライブは
すごいスピードと
気の遠くなるよな つよいかぜ


ぽすとは もういちど
くすのきを ふりかえりました

みえたのは
だんだんとおざかる
そらとつながった おおきなみず

それと たかいそらに
おおきなとりが わっかをえがいて
とんでいるのも

ぽすとはつぶやきました

あれは たかじゃなくて
とびなんだね、

ありがとう、くすのきさん

さあっ
そろそろつくよ
うんてんしゅのこえに
ぽすとは めをひらきました

やまひとつ こえてきたぞ
よくもまあ
あんなとこまでいったなあ

みるくやさんは
ふしぎそうに いいました

いろいろあって…
ぽすとが くちごもっていると
みるくやさんが わらいながら
おおごえで さえぎりました

こまかいことは きかねえ
いそがしいからな


そして てぎわよく ひもをはずすと
ぽすとを じめんにおろし
あっというまに いってしまいました

ここは みなれた
ぽっくりまつの はやしのはずれ
ぽすとのおかは もう めのまえです
おおあわてで もどると
こりすが
てがみをもって ないていました

ごめん、ごめんね
はい、おてがみいただくよっ

ぽすとは くちをおおきくあけました


こりすをみおくると
ぽすとは ほっとして
ふかあく いきをすいました

くさのにおいだ

こんどは
きつねのゆうびんやさんが
やってきました
そして はしってくるなりいいました

きいたよ、ぽすとさん
けさ、いなかったらしいねえ

ごめんなさい、
ちょっと ちこくしちゃって…

ぽすとは ぺろりと
したをだしました


そして、
てがみを とりだすきつねに
ぽすとは あるものを てわたします

これを
おなかにいれておいてほしいんだよ

それは もちかえった
ぽすとの とってと
くすのきのはっぱなのでした

なに、これっ
どういうこと?

きつねは おどろいてさけびました
どうやら、ぽすとのはれたあしにも
きがついたようです

ぽすとは にっこりわらいました


このはなし、ながくなるんだよ
ゆうびんやさん いそがしいから
またこんどゆっくりと、ね

きつねのゆうびんやさんは
ぶりぷりしながら
ぼうしをかぶりなおし
とがったくさむらを
かけてゆきました

ぽすとは きつねに
どう はなそうかなって
かんがえながら
やまむこうのそらを みつめながら
あることに きがつきました


そうだ ぼくは

ただ ここにたっていることが

うれしいんだ


(4話につづく)


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