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ぽすとさん 4話〜梅雨の頃から冬ごもりまで

12.   水無月

ときは かけてゆきました

たのしいじかんは
はやいものですから

ふかいふかい きりのなかに
ぺんきのはげた ぽすとがひとり
ほんのすこしかたむいて
たっていました
あしもとの
とがったくさのさきっぽには
ちいさなしずくが
まるで
すずをさげたようにくっついて
かぜがふくたび ふるふるゆれました

ぽすとは くさのうえのありんこを
ぼんやりとみつめました
まあるいしずくにだきついて
おみずをのんでいるのかな
そんなふうに おもいながら

ぽすとさん

とおくのほうで こえがしました

あのこえはだれ?

まるで かべのようにたちこめた きり
ぽすとのせかいは ちいさくなって
かすかなくさむらと
ありんこいっぴき
ほかは なんにもみえないのでした

ぽすとは
あしもとのくさをみつめながら
かぜがおきるのをまちました
かぜがふいて きりがうごけば
すこしは
とおくがみえるかもしれない
そうおもったのです


そして ひがしかぜが
ゆっくりとふいた しゅんかんでした
くさのうみの そのまたむこうに
なにかのすがたが うかんだのです

ふかあくかぶった あかいぼうしに
しろくてながい あごのひげ

ぽすとは くさむらのいしころを
おもいっきり けとばしました

いて、てててて

ぽすとは さけびました

ゆ、ゆめじゃないっ!

だって それはなつかしいともだち
だいすきな だいすきな
やぎのすがたでしたから

ああ たしかにゆめじゃない!
かえってきたんだ

はいいろのいしころは
だまって ゆっくりと
さかみちをころげてゆきました


うれしい うれしい うれしいっ

でも、
ぽすとのこころにうかんだのは
もうひとつ

あきのおわり
さむくてくもっぽいあさに
さいごにはなしたことば と
いちどもこなかったてがみ
なんていえばいいんだろ
おかえりなさい のあと
ぼくはなんていえば?

ぽすとは ぶつぶついいながら
おかのうえを あるきました
そして あたまをかかえると
うずくまってしまいました

ときがとまったような きりのなか
ふしぎに ふわりと
くうきがゆれました
すると うずくまったぽすとのまえで
なみだのかたちの すいとうが
ゆらゆら ゆれているのでした

ほうら やぎです
やぎが かえってきましたよ

おかえりなさいっ

ぽすとは そうさけぶと
やっぱり
なんにもいえなくなりました

するとやぎは にっこりほほえんで
とびきりやさしいまなざしで
ゆっくり かたりはじめたのです

まるで ぽすとのこころが
みえたかのようでした

あえましたよ

からまつの はやしのおくの
それは しずかなおはかでした
ぼくのみみに とどいたのは
ことりのこえと
かぜに はっぱがすれるおと
あさのひかりが さしこんで
ひだまりが
みずたまもようになっていて
ぼくは みつけたんです
いっぽんのやまざくら
しろいはなが
ひらひらと まいおちるした

ひかるいしに きざまれた
おとうさんのなまえ


ああ それから
ぼくがたべてしまった あのてがみ
かいてあったことも わかりました
びょうきのおとうさんは
なくなるまえに
おともだちに たくしたそうです
かえれなくて ごめんなさい
いままで ほんとにありがとうって
そう かいてあったそうです

そうしてぼくは ひとりになりました
おかあさんも いまは
そこでねむっています
あのさくらのしたで
おとうさんのとなりでね


なみだがぽろぽろ
ぽすとの ほほをつたいました
すると
しおみずは あかさびのもとなんだ
そういって やぎは
もっていたはんかちで
ぽすとのなみだをぬぐいました

ぽすとさん、
ぼくは ひとりぼっちになったいま
きみのさみしさがやっと
わかるようになった
だからね これからはもっと
いいともだちに なれるとおもうよ

ものごとってのは
のぞきまどをかえると
また ちがうふうに みえるものなんだ
だから
そうわるいことばかりじゃないのさ


ぽすとが とつぜん
おかのむこうをゆびさしました
すると みっつのきいろいかたまりが
こちらへむかってやってきます
そして きいろいかたまりは
いつのまにか しっぽのついた
ちっちゃなかわいいきつねになって
ぽすとのもとへ かけよると
ぴょんぴょん はねているのです

ぽすとはいいました
きつねくんはね、
ゆうびんやさんになって
そうして パパになったんだ
やぎは ひとりをだきあげると
うれしそうにつぶやきました

おやおや、おとうさんにそっくりだ


ぽすとが くるりとふりむいて
ひとみをきらきらさせて いいました

いいこと、おもいついたんだよ
きみも おとうさんになればいいんだ
そうすれば さみしくなくなるもの

いつのまにか
みるくいろのきりは すっかりはれて
そよそよかぜが
ふたりのあいだを とおりぬけました

やぎはやさしくほほえむと
ゆっくり くびをよこにふって
よくとおるこえでいいました

ぼくは ものをつくるしごとがしたい

こらこら、おまえたち
ママにだまって おうちをでたら
だめじゃあないか
きつねのゆうびんやさんが
いつものように
くろいかばんをかかえて
やってきました

きつねは やぎのすがたをみつけると
いきなり かばんをなげすてて
すたすたかけよると
うるんだひとみでいいました

おかえりなさい

そして やぎのてのひらを
ぎゅうっと にぎりしめたのです

きつねも ぽすととおんなじで
あとのことばは ありませんでした

トンかち トンかち
いらないものを もってきて
ぼくがいのちをふきこむよ
トンかち トンかち
すてられないもの もってきて
きれいなものに してあげる
トンかち トンかち
トンかち トンかち
はたらくじかんは すてきだね

つぎのひから ぽすとのおかでは
かわったうたが ひびいていました
さっそくやぎが
ものづくりをはじめたのです

やぎは ほとんどいちにちじゅう
ぽすとのせなかにもたれると
トンかち トンかち しごとをしました
よるになると らんぷがともされ
きいろいひかりが
むしをたくさんよぶのでした

ぽすとが そらをみあげると
うっすらしろく
つきが すけてみえていました
くもっていて
ほしはみえませんでしたが

トンかち トンかち
トンかち トンかち

かなづちのおとは
こもりうたのようで
ぽすとは
すぐに ねむってしまいました


つぎのひは
ひさしぶりに
あさからひかりがさしました
ぽすとが めをさましますと
あしもとには ちいさなつくえが
おかれてあって
そのうえに やぎが きのうこしらえた
うつくしい ぎんいろのさかなが
きらきらひかっているのでした
さかなには
しっかりとした うろこがあって
いまにも うごきだしそうでした

あたまをひらくとね、ほら
ここにくすりをいれるんだよ
やぎがいいました

ぽすとは あしをばたばたさせて
おおきなこえで さけびました

やぎさん すごいよ
いきてるみたいだ

ぽすとが
ぎんのさかなにみとれていると

ちょっとしつれい

くさのなかから
しらないこえがしました
ふりむくと

わあっ!

めのまえに てがみがあったのです
もちろんぽすとは
すぐにくわえてのみこむと
うれしそうにいいました

おてがみ、たしかにあずかりました

さしだしにんは
おおきなにもつをせおった
なんだか けむくじゃらの
たびびとでした
たびびとは
ぎんのさかなをみつけると
きゅうにおどろいたかおをして
かちかちに
かたまってしまったのです


じいっとうごかない たびびとに
たまりかねたやぎが
こえをかけました

あのう…

するとそのたびびとは びくっとして
あとずさりしながら いいました

あ、あんまりすてきだったもので
ごめんなさい じろじろみてしまって

それをきいた やぎのかおが
ぱあっとあかるくなりました

あの、そんなに
きにいってくだすったんなら
これ、さしあげます

するとたびびとは
おおよろこびで あたりを
ひとしきりはねまわったあと
おもいがけなく
おかねをおいていったのでした


やぎは おかねをもったまま
なんだか そわそわしていました
ぽすとは きれいなぎんのさかなを
もっと よくみておけば
よかったとおもいながら
ほんのちょっと
くちびるをとがらせていいました

いいんだよ、やぎさん
おかねをさしだすってことは
それだけ ねうちがあるってことさ
だってあのひと、
すごくよろこんでたもの

ぽすとは はなしているうちに
だんだんうれしくなりました

するとやぎは
なにかおもいついたように
ぽんっと てをうつと
はやしのほうに はしってゆきました


やぎがもどったのは
もうひざしがかたむいて
あたりが きいろくなったころでした

まちへいって かってきたんだ
ずっと きになってたからね
きみのしゅうり、さきにしなくちゃ

やぎは かみぶくろのなかから
ペンキのかんを とりだしました

うれしいよ、ありがとう
ぼく このごろなんだか
からだがいたいんだ

ぽすとは なみだぐんで
ふうーっと
ためいきをつきました
ながいあいだのあめかぜで
からだは あちこち ぼろぼろに
ペンキがはげているのでした

やぎが しっぽのふでをすべらせると
ぽすとは みちがえるほど
きれいなあかになりました

あしが かるくなったみたいだ
ぽすとはそういって
げんきにあしぶみをしました


13. 文月


やまのりょうせんには
ゆうひのおちたあとのいろが
ほんのすこし のこっていました
そして かわのせせらぎがきこえる
たにあいのくさむらに
さんにんが たっていました

ここが ほたるのみえる
とっておきのばしょなんだね
きょうは しごとをはやくすませて
やぎの おきにいりのばしょへ
みんなでやってきたのでした

みみをぴくぴくさせながら
やぎがいいました

ほら、みみをすませて
いろんなかえるが ないてるよ

クワクワクワクワ
あれはあまがえる
キェキェキェン
せせらぎにのってきこえるのは
かじかだよ
そして あしもとでなくのは
グェルグェロ ひきがえる


きつねのゆうびんやさんが
ぽつりぽつりと
やぎにむかって はなしかけました

だあれもすまなくなった
やぎさんのおうち、
ぽすとさんのいる
あのおかへもってきて
おみせにするってのはどうでしょう

すると
ぽすともうれしそうにいいました

そうだよ いいかんがえだよ
きみ、ちっともいえにかえらないし
さくひん、たくさんになったもの
そろそろぼく おなかがいっぱいだよ

ええっ きみのおなかにいれてるの?

きつねが
まんまるのめでさけびますと
ぽすとが
ぷうっとふくれていいました

だって
あめにぬらしたくないんだもの


きつねが はなしをつづけました

ゆうびんきょくのなかまたちが
きみをしんぱいしてたんだ
さっそく このことつたえるよ
こんどのにちようびに
みんなでひっこしさ いいでしょ?

やぎが ぼうしをかぶりなおして
はにかみながら いいました

さいこうのよるだよ ありがとう

ほたるだ

ぽすとがゆびさしました
すると まっくらなやぶのおくから
ひかりのつぶがひとつ
あらわれたのです


ひとつぶのひかりは ゆらゆらとんで
せせらぎの かじかのうたをこえ
くさむらの
あまがえるたちのうえをゆき
いっぽんの せのたかいくさに
まいおりると
しずかに しずかに
てんめつをはじめました

もうすこし あるいてみようか
やぎときつねは ぽすとのてをひいて
せせらぎにそって
あるきはじめました
あたりは とっぷりとくれて
くらやみのなか きつねがいいました

ぽすとさん あしもとにきをつけて

りょうてのひらが
ほかほかあったかくて
ぽすとは
すきっぷしたいきもちでした

ここで まってみようか

そういってやぎは
くさむらに こしをおろしました
みんなでよりそって
みみをすましていると
さっきよりも せせらぎのおとが
おおきくきこえました

やぎがいいました
ここはね ふたつのかわが
あわさっているばしょなんだよ
ここでぼくは むかし かわにおちたんだ

ああ、あのときの…
ぽすとはおもいました

やぎは わらっているような
ないているようなかおをして
ことばをつづけたのでした


ほんとうはね、
よくわからないんだよ
あのときぼくは
かわにおちたのか
それともとびこんだのか
とにかくながれのなかで ぼくは
いなくなっていいっておもった
だけどね、
からだは いきたいって
さけんだんだよ
ぼくはそのとき からだが
かわいそうだって おもったんだ
そうしてひっしに みずをかいたよ
やぎのわらっているかおに
ガラスみたいな
なみだがうかびました

きみのてのひら、あったかい
あったかくてよかった

ぽすとはいいました


そのとき いっぴきのほたるが
つないだてのひらに おりました
きいろいような みどりのような
ふしぎなひかりが
みんなのかおを てらしました
そして ふたたびとびたった
ほたるをおいかけて
かおをあげた そのときでした

いきをのむけしきが
ひろがっていました
いつのまに あつまったのか
ほんとうにたくさんのほたるが
おもいおもいに ひかりをともして
それは どこまでもつづく
ひかりのうみでした
とおくで また ほんのすぐそばで
とつぜんに ひかりがともり
そして きえました

ぽすとは
ほしがまいおりたのかと
あわてて そらをみあげました
すると そらにもまた
まんてんのほしが
ちりばめられているのでした

(しずんだほしは いつかみた
むしあついばんの ほたるのよう)

むかし
ちっちゃなくもとみた
あのほしぞらと ふしぎなうたを
ぽすとは おもいだしました

ともだち。

ぽすとはちいさくつぶやきました
りょうてのひらがぽかぽかで
なぜだか なみだがとまらないのでした

しばらくして
いっせいに
ランプがきえたかとおもうと
ほたるたちは いつのまにか
ちょうしをあわせて
てんめつをはじめたのです
くらやみのつぎに
ほんとうにたくさんの
きみどりいろが ともりました

いのちのリズムが
そこいらじゅうに あふれているよ

ぽすとはおもいました


14. 葉月


かぜのつよいひでした
おかのうえでは
きつねと こどもたちが
うでを ひこうきのようにひろげて
びゅうびゅうふきあげるかぜを
うけています

おとうさん、ぼく とべそうだよ

ひとりのこどもが
とびおりるまねをしました

ほんとだね、でも
かんちがいしちゃいけないよ
ぼくたちには
もりのむささびのような
まくはないんだから

おとうさんが
たしなめているようすをみて
ぽすとが くすくすわらいました


やぎのいえは
ぽすとのとなり
むらへむかうこみちのわきに
ありました
おおきなとびらと てんまどからは
やさしいひかりがさしこんで
こうぼうでつくられた
さまざまな ぎんのかたちを
てらしていました
そしてもうひとつのまどからは
とおくのすすきが
かぜにそよぐようすや
ぽっくりまつのはやしがみえました

おもてでは
きつねとこどもたちが
(あさってかいてん)とかかれた
みずいろチラシを
いっぱいかかえて たっています
いまからみんなで むらへくだって
すべてのいえへ
くばりにいこうというのです

くものあいだから
あさのひかりがさしこんで
かかげられた ぶなのひょうさつが
かぜで かたかたいいました

きょうも かぜがつよいね

やぎは しんぱいそうにつぶやくと
それをりょうてで
やさしくおさえました
おとなしくなった ひょうさつには
(かぜのこうぼう)と
かかれてありました


さあ、おおいそがしだ

やぎが さっそく
さくひんづくりに
とりかかるようです
なにしろ
あさってかいてん
つくりかけのさくひんたちを
はやくしあげてしまわないと

とんかち とんかち

いつものうたごえが
きこえてきました

だいすきなうたをきこうと
ぽすとが みみをすましますと

とつぜん うしろのしげみから
かさかさ くさのすれるおと
ぽすとはおどろいて
ふりむきました

そこには どこかでみたような
けむくじゃらのいきものが…

ぽすとは はっとしました

ぎんのさかな!

そうです、
やぎのさいしょのさくひんに
おかねをおいてった、あの、
えっと、えっと、、

すると
けむくじゃらのいきものは
ぽつりといいました

わたし、うさぎです
たびびとのうさぎ

そうだ、たびびと!

ぽすとはいぶかしげに
じろりとみました
おかしいねえ
うさぎは たまにみるけど
きみとは ぜんぜん
かたちがちがうよ

すると たびびとは
かたをおとして
すこしかなしげに
つぶやきました

よくいわれます

うさぎのみなさんにも そう…

だから、わたし
ひとりで いきてるんです

そして たびびとは
ぽすとをちらっとみると
つぶやきました

そういうあなたも
かわったぽすとですよね

ぽすとは またしても
はっとしました

それから すこしして
ふたりは かおをみあわせると
げらげらわらいました


あれからね、
いろいろと うまくいって
おかねが たくさんたまりました
これのおかげです

たびびとは
おおきい ぬのぶくろから
ぎんのさかなを とりだして
いいました

これは わたしのおまもりで
たったひとりのともだちです
そしてうさぎは それをだいじそうに
だきしめました

そのときふと
やぎが てをとめ
こちらへむかって
あるいてきたのです

あ、せんせい!

たびびとは うれしそうにさけび
やぎのところへ はねてゆきました

さくひん、
もっともっと ほしいんです
おかねは いっぱいあります

まわりを
ぐるぐるはねまわるうさぎに
すっかり めをまわしたやぎは
しりもちをつきました

あの、ちょっと
とまっていただけませんか

やぎのくるしげなこえに
たびびとは やっとわれにかえり
おとなしくなりました

やぎはゆっくりと
はなしはじめました

わたしのさくひんを
きにいってくださって
ほんとうに ありがとう

わたしのおみせ
あさってかいてんなんです
さくひんがなくなると こまります
それに なにより
すでに にもつがおおいのに
もっと もちあるくのは
たいへんじゃないですか?
それより ここにいて
わたしのさくひんが
うまれるところをみてください
もしよければ すこし
てつだっていただけませんか

すると たびびとは
びっくりするぐらい
たかくとびはねて
ぽすとにぶちあたりました

よ、よろこびで
からだがおさえられないっ

そうさけぶと
ぽっくりまつのあたりまで
どんどん とびはねてゆきました
そしてそのあと
かたでいきをしながら
もどってきたのです

それから はんにち
たびびとは
たいへん よいしごとをしました

ぴっかぴかに
さくひんたちを
みがきたおしたのです

あ、うさぎさん

それはみがかなくていいですよ

さいごのさくひんを

てにとったうさぎに

やぎがあわてていいました

これはね、なぜか かたちがみえなくて

しあがらないからね

ただ なんとなくこわせないでいるんです


すると たびびとのうさぎは

しばらくかたまったあと

めだまをきらっとひからせて

いいました


こ、これは

ぽすとさんの いすではありませんか

いす?

そばできつねが くびをかしげました

ちかごろ ぽすとさんは

たちばなしが かなり

おつらいようです

このぎんいろのかたちは

こしをおろすのに

ぴったりのたかさかとおもわれますよ


すると やぎが

あああっ!

とつぜんに さけびごえをあげると

りょうてのひらで

あたまをかかえました

なんてことだ

いちばんにつくるべきたからもの

それは、

ぽすとさんの ぎんのいすだった

きつねも

おおきなおくちをあけたまま

あたまをたてに ぶんぶんふりました


さて、

やぎはさっそく

いすづくりに とりかかりました

ふしぎなことに うさぎのいうとおり

それは ほぼできあがっていたのです

すこしのてなおしのあと

うさぎが ぴかぴかにみがきたおすと

ぎんいろのいすは

あっというまにできあがりました

ぽすとさん

ちょっとこっちにきて

これにすわってみて

すわる?

ぽすとは まゆをひそめました

そう、こしをおろすの

あしが らくになるはずだよ

ぽすとは しんみょうなかおつきで

おずおずとやってきて

そうっと ゆっくりこしをおとし

りょうほうの あかいあしを

くうちゅうにうかせました

ふわあっ!

あしが、あしが、

ぽすとは あまりのここちよさに

ふっと めをとじました

いっしゅんで

ねむってしまいそうになったのです

いままでずっと ちからをこめて

おもいからだをささえていた

ちいさい あかいあし

いたいのが あたりまえだったのに

いまはなあに、

ほのあたたかくって ここちよくって

ねむくてしかたがないよ

やぎさん、やぎさん

なんておれいをいっていいのか

ぽすとは こえをつまらせました


ちがうよ、うさぎさんだよ

きみのいすをつくったらって

いってくれたのは


やぎが うしろにいたうさぎを

まえにおしだしました


たびびとのうさぎさん

こんなにらくにしてもらえて

ほんとにうれしいよ

ありがとう


ぽすとはなきながら

おれいをいいました


するとうさぎは

たいへん かんどうして


よかったです うれしいです

こんなわたしが おやくにたてるなんて

はじめて じぶんをほめてやります


そういって

なみだをこぼしました


ほら、ぽすとさんが

もうねむっているよ


すごいよう

たびびとのうさぎさん

やっぱり

せかいをあるきまわって

あきないをしてるんだから

きづき がちがうよね

ぼくも もっとみんなのきもちに

びんかんでありたいよ

きつねもつぶやきました


わーっ!

とつぜんに

やぎが おおごえをだしました

そして みんなのかおをみつつ

いいました

つぎは いすのしたに

しゃりんをつけてみようとおもう!


なるほど、すばらしいですよ

やぎさん

そういって

うさぎが ぽんっと てをうちました

それが かんせいしたら

3にんで、いや

ぜひ うさぎさんもいっしょに

どこかへでかけることにしましょう


ぽすとは ここちよさのなかで

めをとじたまま つぶやきました


ひょっとすると ぼくは

せかいでいちばん

しあわせなぽすとかもしれない


たいようが かたむくと
たびびとは
みじたくをはじめました

わたし、もっともっと
ここにいたいです
でも そろそろ つぎのしごと、
やまのみずうみへ
いかければなりません

そういって たびびとが
ためいきをつきますと
やぎが やさしいまなざしで
かたりかけました

あなたは たびびとだから
これから たびにでる
だけど おわればまた
ここへ かえってくるってのは
どうですか

すると たびびとのかおが
ぱあっとあかるくなりました
そしてほほをあからめて

かえる…

すごいです
わたしに
かえるばしょがあるなんて…

そうつぶやきました

すると ぽすとがすかさず
こう たずねたのです

みんなと ね、
かぞくになりたい
どうだろう、

なれるかな
ねえ、やぎさん

ふふっ
もちろんさ

だって 

かたちはちがうけど
こころが つながっているんだからね

やぎは うれしそうに いいました


ひのいりまえ
きつねのおやこが あせをふきふき
もどってきました

ふうー、やれやれ、
むらのおうち、いっけんのこらず
くばってきたんだ
こどもたちも がんばったんだよ

きつねは ぽすとにそういうと
きりかぶのいすに こしかけました

ぽすとは
あしぶみしながら
さけびました

ぼくにも そのちらし、
はっておくれよっ

こどもたちが
ぷうっとふきだしました

それ、いいねえ
おてがみもってきたひとが
かならずみてくれるもの


とんかち とんかち

ふたたび
やぎのうたが きこえてきました

みみを ひくひくうごかして
きつねはいいました

やぎさん
また はじめたね

おやつをさしいれようか
いちど いえにかえって
おいもをふかして
もってくるよ

そういうと きつねは
くさむらをかけてゆきました

ぽすとは こどもたちに
たずねました

きみたちのママは?
もうずいぶん みてないね

こどもたちは かおをみあわせました
そして ひとりのこどもがいいました

げんきにしているよ
ママはぼくたちの
たいせつな いもうとになったの
おんなのこにもどったから
すごおく かわいいんだ

ぽすとは めをまるくしました

すると もうひとりがいいました

だからパパは
スーパーマンになったのさ
なんでもできるの
つくってくれるごはんだって
とっても おいしいんだから


きつねが ちかごろ
いそがしそうにしていたのは
やっぱりわけがあったんだ

そしてぽすとは
いきなり あしぶみをしました
そうして ちっちゃなうでで
ちからこぶをつくるまねをして
さけびました

ぼくに
おてつだいできることがあったら
ぜったいにたのんでね!
ぜったいにだよっ!

ぽすとのうごきが
おもしろかったので
こどもたちは げらげらわらいました
そして わらいがおさまったころ
それぞれが くちぐちに
ありがとうをいいました


さて
ついに、
あたらしい やぎのおみせが
ひらくひのあさとなりました
おおきなとびらには
こどもたちがつくった
いろとりどりの
はっぱのかざりがつけられて
それはそれはきれいです

みんなが やってくるよ!

とつぜんに ぽすとがさけびました
すると
てにみずいろのチラシをもった
たくさんのむらびとたちが
こみちをてくてく こちらへむかって
あるいてやってくるのです

やっほう!

きつねとこどもたちは
ぽすとをかこむと
てをつないで
ぐるぐるとびはねました


たからものがほしいんです
おまもりがほしいんです


やってきたむらびとたちは
くちぐちにいいました

ひとりのとしよりは
てのひらいっぱいの
このみをみせると
やぎにみみうちしました

こんなものでも かえるじゃろうか

するとやぎは こたえました

おれいはおかねでも たべものでも
さくひんのざいりょうでも
なんでもいいんです
いらないものや あまったものを
もってきてください
ぼくは
みなさんのたからものをつくります

よくとおるいいこえで そして
ほんとうにうれしいかおで やぎは
あつまったおきゃくさんにむかって
いいました

あきのさいしょのかぜが
おかのうえの
むらびとたちのうしろを
ひゅうっと ふきぬけました

ぽすとのおかは
とつぜん にぎやかになり
うわさをきいて
とおくのまちやむらからも
おきゃくが おとずれるように
なったのです

なんだか ぽすとのしごともふえて
おなかが てがみで
いっぱいになるひもありました

そして

ぽすとは ときどき
けしきが みえなくなることが
ありました
でも とくには きにしませんでした

とにかく まいにちがしあわせで
とぶようにすぎていったのです


ぽすとさん、

けっきょく

ながれぼしは いくつみえたの



15. 長月


なつかしい しずけさだ

たそがれどき ぽすとはたたずんで
ほんのすこし あかいろがにじんだ
やまのりょうせんを
とおいめで みつめていました

そらはふかいあおいろで
ほしがいくつか ひかったようでした


おかのうえ

きいろくそまったくさむら
ひぐらしのこえ

あおいつき うかんだとんぼ

やぎのさくひん むらびとたち
かけてくる きつねのこどもたち

あったかなひざし そよそよかぜ

そよそよかぜ…


なぜだろう

ぽすとのだいすきな
はるのひがかさなって

なにもかもがかさなって
みえてきたのです


ああ、そうだったのか
ぽすとはおもいました


(すべてはひとつだ)


みるくいろの やさしいきりが
ぽすとのまわりで
ふっと
うまれたかとおもうと

きいろのような みどりのような
ほたるのあかりが
てんめつをはじめました

そして そらのたかいところには
しろい つきのかおが
うっすらとみえました


やっと みせじまいだよ

やぎが あまどをしめながら
ぽすとにむかっていいました

つぎのおやすみには
またさんにんで
むしのこえをききにいこうね
くつわむしがたくさんいるところ
みつけてあるんだ

おやすみ、ぽすとさん

やさしいやぎのあいさつに
ぽすとはこたえませんでした
もう ねむっているんだと
やぎはおもいました

こうぼうの まあるいまどから
きいろいひがりがもれました、
そうして やねのうえのえんとつが
うっすらむらさきいろの
けむりをすこし はきました


ぽすとさんっ
ぽすとさんっ
もう あさだよ おきてっ

しっぽをふりふりしながら
きつねのこどもがさけんでいます

そらはたかく あきのくもを
いくつもうかべていました

しばらくすると きつねのこどもは
ふーうっと ためいきをついて
おとうさんのそばへやってきました

ぽすとさん まだおきないのかな
ねえ、おとうさん


なつが いそがしかったからね

そうこどもたちにいいながら
きつねは とほうにくれていました
なんでぽすとが はなさないのか
かいもく
けんとうが つかなかったのです

とっても おちつかないふうに
ながいしっぽを ふりふりし
ながら
あかいからだを さすってみたり
おなかのなかを のぞいてみたり
ぽすとに だきついたかとおもうと
じっとうごかなくなったりして
きつねのおやこは ながいじかんを
おかのうえですごしました

ねえ、ぽすとさん

いったい
どうしたっていうんだい

あんなに はしゃいでいたきみが
こんなふうに だまりこくって

ほしぞらのした
やぎは ぽすとのせなかにもたれて
しゃべりつづけていました

ほら、きみのあたまのうえを
ながれぼしがゆくよ

かぞえてるんでしょ
そういってたよね

こんなふうじゃ まるで、
きみが いないみたいじゃあないか

さみしいよ……


こんやは よく
ほしのながれるよるでしたが
やっぱりみえないのでしょうか
ぽすとは なんにもいいませんでした


16. 神無月

さて、

それからというもの

ぽすとは どんなひの
いつのじかんも
ひとりでは ありませんでした

むらびとたちが
つぎからつぎへ おとずれて
ぽすとのことを ゆすってみたり
くすぐってみたり

おもいおもいに
よびかけていくのですが

ぽすとは
いっこうにこたえなかったのです

そうして

なんにちもなんにちもたつうちに
なつのけはいは きえうせて

ちのようにあかい
まんじゅしゃげが たくさん
ぽすとのまわりを おおいました


すこしだけ ふゆのにおいのする
うすぐらいあさのことです

まちから
ゆうびんきょくちょうさんが
くるまにのって やってきました
おかのうえでは
きつねのゆうびんやさんが
そわそわしながら まっていて
くるまがつくと あわててかけより
ていねいな あいさつをしました
そうしてしばらく
ふたりで はなしこんでいましたが
とつぜんにきつねが
おおきいなきごえをあげました

ちがいます!
ねむっているだけなんです

すると ゆうびんきょくちょうさんは
きつねのかたを やさしくさすって
なだめるように いいました

でもね、
てがみがはいらないとこまるでしょう
どこも あたらしいぽすとに
かわっているんですよ

つめたいかぜが
くろいくもをつれてきたようで
あたりのけしきは
さっきよりもずっと
くらくなっていました


つぎのげつようびは
よあけから
きりのようなあめが ふっていました
おかのうえには きつねのこどもと
むらのこどもが てをつなぎ
まちへつながる こみちのうえで
なにか
とおせんぼをするように
たっているのでした

しばらくすると
こけいろのトラックが
がたごと おおきいおとをたて
ゆっくりゆっくりはしってきました
にだいのうえには こうじのひとと
きいろいぽすとが
のっています

トラックは
こどもたちのまえで とまりますと
ぶうぶう いやなおとをたてました


あぶないよ!

きつねのゆうびんやさんが
こどもたちのせなかをたたいて
くさむらのほうへ おしやりました
するとトラックは
そろそろと はしってから
おかのてっぺんでとまりました

たくさんのひとが
てに つるはしや すこっぷをもって
にだいから おりてきます
そしてぽすとのまわりをとりかこむと
ついに こうじがはじまったのです

つるはしがうちおろされ
ぽすとのからだにあたるとき
にぶいおとをはなちます
それはまるで ひめいのようで
きつねやこどもたちは なきながら
みみをふさぎました


しばらくして
つるはしのおとがやむと
あたりには あまつぶの
ぱちぱちというおとだけが
ひびいていました

かわいそうな あかいぽすとは
どだいごと ほりおこされて
くさのうえへ ばったりと
たおされたのです


ぽすとさん!

ぽすとさん!

こどもたちは くちぐちにさけぶと
ぽすとをとりかこんで
なきはじめました
ぽすとのあかいからだは
ふみたおされた
まんじゅしゃげの あかいろのうえで
すっかり びしゃびしゃになって
まるで ちをながしているかのように
みえました

そうして そばには
おおきな きいろいぽすとが
むっつりとして たっているのでした


どけて どけて!

そういって
こどもたちをおしのけると
こうじのひとたちが
ぽすとのからだを
ごろごろ ころがしはじめました

まあるいからだが まんじゅしゃげを
どんどんおしたおしてゆくさまを
きつねは
ぼうぜんとみつめていました

ぽすとさんは おはなを
ただのいっぽん ちぎっただけでも
なみだをうかべていたんだよ

そのときです
うしろから おおきなこえがしました

つれていかないで!
ともだちなんです

さけんだのはやぎでした


つれていかないで!

みんながくちぐちにさけびました
こうじのひとはふりかえり
こまったかおでほほえむと
いいました

そんなにおっしゃるなら
おいていきますよ

トラックは
がたごと おとをたてながら
けむりをはいて
ゆっくりと はしりさりました

あとには ずぶぬれの
あかいぽすとの なきがらが
あかいまんじゅしゃげの
ベッドのうえに
しずかに
よこたわって いるのでした

あめは しだいにつよくなり
みんなのひとみから
あふれるなみだを
つぎつぎに
なんにもなかったみたいに
あらいながしたのです


17. 霜月


くさむらが こがねいろにそまり
すっかりつめたくなったかぜが
あたりを ふきぬけました

おかのうえにある こうぼうは
ずうっと しまったままで
やぎのすがたを
みることもありませんでした
ただのいちどだけ
まちのほうへ あるいていくのを
きつねのこどもが
みかけたきりでした

ぽすとのなきがらを どうするか
そのはなしが ちっともできないまま
きせつはすぎてゆきました

ぽすとさん、おみせのなかで
どうしているんだろ
きつねは そうつぶやくと
そらを あおぎました

あかくいろづいたそらには
とんぼが たくさんういています


あきは どんどんふかまりました
そうして いつものように
きいろいもみじが
まいおどるころ


ぎし ぎし ぎし
きのとびらがひらいて
おみせのなかから
やぎが あらわれました
いくらか としをとったようにみえる
やぎは くさむらの
きつねのこどもたちをあつめると
よくとおるこえでいいました

パパをよんできておくれ
みせたいものがあるんだ


こんもりとした おかのうえ
とがったくさの はらっぱに
たっているのは きいろいぽすと

むっつりしたかおの
きいろいぽすと

きつねは おもむろに
ぽんっと
そのかたを たたきました

きいろいぽすとさん、
はるから どうぞよろしくね
きこえてると いいんだけど

きつねが そういって
かたわらのやぎに ほほえむと
やぎはだまって
ちょっとはなれたくさむらを
ゆびさしました

そこには
いっぽんの みなれない
こどものき

これはさくら?

きつねがたずねると
やぎは
たよりない みきを なでながら
こたえました

そう、うえたんだ
やまざくら

まだ ちいさいけど
つぎのはるには もう
しろいはながさく
そうしたらね、きつねくん
むらびとたちを
あつめてほしいんだ

やぎの しんけんなかおに
きつねは
せすじをぴんとのばして
こんなふうにいいました

りょうかいしたよ
はながさいたら
かならず
みんなをつれて ここへきます

やぎは ふかくうなずきました


ほうら…

さむくなったとおもったら
ぎんねずみのそらから
しろいものがふわり、ふわり

ふたりは そらをみあげました

ゆきです ゆきです

またしても
ながいふゆが はじまるのです

もう、かえったほうがいい
つもるかもしれない

そう、やぎがいいますと
きつねは りょうてで
やぎのてをにぎりました

おしごと、
もう おやすみになったんです
しばらく こられないけど
からだにきをつけて

やぎは にっこりうなずいて
よくとおるこえで いいました

では
つぎに あうのは

ゆきどけの
くろいつちが かおをだすころ

すると きつねもいいました

つららから しずくがおちるころ

こんどは こどもたちが
くちぐちにさけびました

はやしのうめが かおるころ!

そらにひばりが あがるころ!

そよそよかぜが ふきぬけるころ!

あしもとに
おおいぬのふぐりの あおいはな!

おどりこそうの ぴんくいろ!

つくしの もこもこあたま!

うわあ、きりがないよ!
やぎがこまったかおでわらいますと
きつねとこどもたちも
げらげら わらいました

そして
みんなで こえをそろえて
いいました

では、
よい ふゆごもりを!


きつねと こどもたちが
あかくいろづいた
くさむらを かけおりると
おかのうえは きゅうに
さびしくなりました

うしろすがたを みおくりながら
やぎはおもいました

いつもこうやって
みんなを
みおくっていたんだね
さみしがりやの ぽすとさんに
ふゆは さぞかし
つらかったろうね

やぎは
なみだがこぼれないよう
そらをみあげました

ゆきは
とめどなく ふりつづき

なんのおともなしに

あたりを まっしろなすがたに

そめてゆきました


(5話につづく)




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