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ぽすとさん 1話(prologue)〜春の日より梅雨の晴れ間

1    卯月

こんもりとした
おかの うえ

とがった くさの
はらっぱに

ぽすとが
ぽつんと たっていました

まっさおな そらと

みどりの おかに
はさまれて

ぽつんと たった
あかい かたちは

どての
きつねの あなからも

はやしの
すずめの いえからも

どんなに とおくの
おうちからでも

ほんとに
よおく みえるのでした


あったかな ひざしと
そよそよかぜ

ちょっとだけ
おくちを あけて

ぽすとは
てがみを まっています

すると おやおや
よだれが とろーん

あわてて
おくちを とじました

だって
あさから ずっと たちぱなし

もちろん おくちも あけぱなし

だあれも こないし
きもちが いいし

すこおし
いねむり してもいいよね

あかい ぽすとは おもいました


きつねが
どての すあなから

てくてく あるいて
やってきます

てには
きれいな しろい ふうとう

ところが
きつねの ふうとうは
なぜだか ぽすとに
はいりません

ぽすとが へんだよ

きつねが
かぜに つぶやくと
そよそよ おしえてくれました

(たぶん、ねむっているんだよ)

きつねは
とがった くさむらで

しんぼうづよく まちました


おひるの かねが なりますと

ふわあ、よくねた

いきなり
ぽすとが おおあくび

きつねは
めだまを ぱちくりさせて

くさに しりもち つきました

ぽすとは
とっても はずかしそうに

これは
しつれい いたしました
と、

ほほを ぴんくに そめました


ぽすとが
てがみを のみこんで

しばらく
ときが たちましたけど

なぜだか
きつねは かえりません

そわそわ
おちつかないふうで
ぽすとの そばに いるのでした

なんで、きみは かえらないの?

ぽすとが
おもわず たずねると

きつねは
ぽつりと いいました

なんだか
とっても しんぱいで

だって

ゆうびんやさんって
やぎかも しれないでしょ

そうだ

やぎかも しれないぞ

ぽすとは
ふっとおもいました

だって
やぎの ゆうびんやさんは
ときどき やってくるのです

もし、
やぎだったら どうするの

ぽすとが
そうっと たずねると

きつねは
とってもこまったかおで

そわそわしながら
こたえました

もし、やぎだったら
てがみを
たべるかもしれないから

ぜったいに
たべないように

ぼくが
うしろから ついてくの

となりむらの
おばあちゃんちまで
てがみが
ちゃんと とどくように


しばらく ときが たちまして
ゆうびんやさんが
やってきました

ふかあく かぶった
あかい ぼうしに

しろくて ながい
あごの ひげ

ほうら、

やぎの ゆうびんやさんです

そうして
かれが てぎわよく

かぎで
ぽすとの おなかを あけて

てがみを
かばんに いれますと

そばで
もじもじしていた きつねが

ようやく
くちを ひらきました

ねえ、ゆうびんやさん

ぼく、
ちょっとだけ
しんぱいなことが あるので

あなたの うしろを
あるいていいですか

いいですよ

やぎのゆうびんやさんは

ちょっとだけ かなしげに
ほほえみながら
いいました

でもぼくは

けっして てがみを
たべたりしないから

なぜなら ぼくは

てがみを
たべないために

ゆうびんやさんに なったんです

そんなふうな やぎのことばに
きつねも ぽすとも
おどろきました

そして
やぎの ゆうびんやさんは
そのまま はなしを つづけました

むかし

こどもだったときのこと

とおくのまちで はたらいていた
おとうさんから
とどいた てがみ

ぼくが
よまずに たべちゃったんです

それから ずっと
てがみは こなくて

もう、
どこに いるのか わからない
どうしているかも わからない

だからぼくは、

ぼくは けっして
てがみを たべません

だまって はなしを きいていた
きつねは
さっと たちあがり

ぺこりと
あたまを さげました

そして
ゆうびんやさんを じっとみて

いつも
はいたつ ごくろうさまです!

そう おおごえで
さけんだあとに

さやさや ゆれる
くさむらを
はしって
かえってゆきました


そよそよかぜが きもちいい

どようの おひるの ことでした


2   皐月


ゆうやけぞらには
いろんないろが いっぱいあって
ぽすとは それをひとつずつ
かぞえることが だいすきでした

だいだいいろに きいろにくりいむ
しろにきみどり くさいろみずいろ
あおにぐんじょう むらさきぴんく

めだまをこらすと いろんないろが
いっぱいみえてくるのでした

たべごろみかんのいろをした
ふかふかひつじのくもたちが
いっぱい おそらをわたってゆきます

そして きんいろいちばんぼしが
きらっとひかった そのときです

ぽすとの あかいあしのそば
とがったくさの さきっぽから
きこえてきたのは なきごえでした

それはなんたかさみしくて
ほんとに ひどくかわいそうで
それをきいてる ぽすとでさえも
ないてしまうほどでした

たべちゃった

ぽすとが ききみみたてますと
かすかなこえが きこえてきました

たべちゃった
だいじなともだち
たべちゃった

ぽすとが よおくみつめると
とがったくさの さきっぽで
ないていたのは はいいろの
かわいい ちっちゃなくもでした


ともだち、

ぽすとはつぶやきました
なんだかなつかしいろのかぜが
ひゅーっと からだをふきぬけました

たべちゃったから
ひとりになっちゃった

うるんだ くものめだまのなかに
ゆうやけぞらがありました

ぽろんとこぼれた なみだのなかにも
ゆうやけぞらがありました

ともだち

ぽすとは さけびました
だからその、
ぼくがあなたのともだちに。

くもはすっとなきやんで
ぽすとのかおをみつめました
そして おずおずいいました

す、はってもいーい?

いつのまにか
おそらは ふかいあおいろに
いっとうすてきなあおいろに
そめあげられているのでした

あたらしくできた くものすが
ぽすとのかおにくっついて
はんもっくみたいにゆれました

ほうら、まんてんのほしぞら
めだまをこらすと ちっちゃなほしが
もっともっとみえるんだ

ぽすとが そらをあおいでいいますと
くもは くびをかしげて
ふえのようにうたいました

ふかいふかい よるのおそらは
そこぬけいどの みずのよう
しずんだほしは いつかみた
むしあついばんの ほたるのよう
ほしはね ほしはね
みんな だれかのたいようなんだ

あっ ながれぼし

くもが おそらをゆびさしますと
ほしのかけらが ひとつだけ
すーうっと てんをわたりました

えーっと、えーっと、
ぼくがみた
44こめの ながれぼし
そんなふうな ぽすとのことばに

なあに、それ。

くもが けらけらわらいました
あおいじかんのまんなかで
ふたりは それぞれ
ゆめのなかへ
ゆっくりしずんでゆきました

きらきらきらきら
きらきらきら

なにかが
ぽすとのまぶたを てらしました
うすめをあけると そのきらきらは
いっぱい しずくをくっつけた
みずたまもようの くものすで
かぜに ふるふるふるえています

ぽすとが あわててさけんでも
だあれも こたえませんでした

ただ からっぽのくものすが
あさひのきんに そめられて
ぽすとのとなりでゆれている
ただ それだけのことでした


ともだち。

ぽすとは つぶやきました

ひゅーっとふいた
なつかしいろのかぜ

ずうっとむかし
くらいそうこの
かたすみで
ちいさいまどから
しのびこむあさひを
ふたりならんで
みたような

たしか あのとき
となりに だれか
いたような


3    水無月


あめのちはれだよね

きつねがいいました
さっきまでふってたあめが
うそみたいに すっかりやんで
そらには いつものたいようが
すまして ひかっているのでした

きょうは にちよう
しめったあさです

ゆうびんやさん、おそいねえ

きつねとぽすとが
いっしょにならんで
はやしのむこうを みつめています

しばらくすると すすきのはらに
ゆうびんやさんが みえました

しきりに こちらのほうをみて
なにかのあいずをしています

すると、

やった、やった、
とつぜん きつねがすきっぷをして
ぽすとのまわりを とびはねました

それから ぽすとのみみもとで
にこにこしながら いいました

ぽすとさん よかったよ、
まちのゆうびんきょくちょうさんが
きみに おやすみくれたんだ

ぽすとが きょとんとしてますと
きつねが もいちどいいました

だ、か、ら、

ともだちさがしにいくんでしょ


(はじめての きゅうじつ)

ぽすとが ぼうっとしてますと
かけてきた ゆうびんやさんが
いきをきらしていいました

さあ、
まずは となりむらへいくよ
ぽっくりまつのはやしのはずれに
きれいな きいろのぽすとがいるんだ


ぬかるみに きをつけてね

うしろから きつねが
こまったかおで さけびました

たかくあがった たいようが
じりじり じめんをてらしますと
とがったくさむらに
かげろうがたちました

なにしろ ぽすとは
あるいたことがないもので
ゆうびんやさんに てをひかれ

ゆうらゆら ゆうらゆら

あかいあしを ひきずりながら
ゆっくり すすんでゆきました


それでは
ぽすとさん、

よい きゅうじつを、ね。


(2話につづく)






 

 



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