チーム分析のフレームワークによるフィンク体制の振り返り(ボール保持編)
ボール非保持編はこちらhttps://note.com/7634548/n/n6511d69a6403
今回使用するレナート・バルディ氏のチーム分析のフレームワークに関する記事はこちら
https://note.com/footballista_jp/n/n06a1bcfd951a
おことわり
ポジショナルプレーなどの概念を十分に咀嚼できているとは言い難いため識者の方には満足できない内容かと思いますが、もしよければ間違いなどを優しくご指導いただけるとありがたく思います。
はじめに
UPが遅れに遅れたがボール非保持編に続く第2弾となる。
今回も3バックに移行してからの戦術分析がメインとなるがその点についてはご了承いただきたい。
ビルドアップ
2018シーズンから継続性を持って進めている“バルサ化”の路線に基づきロンドを形成し引き付けてリリースを繰り返して相手を動かし、イニエスタら質的優位の期待できる選手にいい形で預けるという第1目標に変化はなかったが、フィンク体制下では初期の“ウェリボール”や夏場の意図したオープン展開など今ある戦力に合わせて柔軟にゲームプランを組むことに成功しており、バルサ化の大看板は降ろさずに勝ち点を積み上げて残留という最低ノルマをクリアした。
ポゼッションによるビルドアップ
3バックにシステムを変更してからの基本陣形は3バック-1アンカー(フリーマンでもある)-2フリーマンの形が基本。
3バックは4バック系のシステムと噛み合わせが悪いというのはもはや周知の事実だが、神戸も例に漏れずこの配置を活かしたビルドアップを行う。
上図を見ていただければわかるようにマークする選手が不明瞭な箇所が多く、GKもビルドアップに参加することを考えるとほぼ恒常的にどこかでフリーな選手ができる構造になっている。
3バックを採用すればマークする選手は明確になるものの、やはりGKのビルドアップ参加や個人の質の差で前進に成功することが多かった。
こうして外枠を形成し隣り合う選手を経由しながらのパス回しを行って出口となる選手(サンペール,イニエスタら)に時間を与えるのが目標だが、神戸の場合はサンペールが空いている場合ボールを預けないことは稀で、これを利用したサンペールへのマンマーク戦術が神戸対策として流行。
これに対抗してフィンクは2バック-1アンカーと3バックを使い分ける“セルジ(大崎)システム”を導入し、中央での的を絞らせず持ち運びをより容易にすることに成功。鹿島戦のポドルスキの幻のゴールはこの構造が奏功した最たるものだった。
中央が閉じられている場合の主な前進サイドはプレス耐性の高い選手の多数いる左側が基本で、酒井・フェルマーレンとイニエスタが中心。
相手が4バック系の場合前述した通り神戸のHV,WBとは噛み合わせが悪く、人に基準を置いても裏のスペースが空いてしまうといった具合に(この画像での神戸は白色)
ミスマッチを利用したオープンな選手を作っての前進が主で、フォーメーションが噛み合う3バック相手でもWBがピン止めされている以上イニエスタがサイドに落ちれば(CHのマンマークは中央が空くリスクが伴う)ボール保持が安定することが多く、後方の選手から2トップ(シャドー)に縦パスをつけられる場面もあった。(松本戦の1点目はまさにこのような形からだった)
https://youtu.be/Fauo7-N5fuE
相手がどのようなシステムでもイニエスタがサイドに流れる分サンペールはボールに寄らず中央に残り、逆サイドへの展開を担う。
右サイドでは西がキーマンで、彼以外に特段プレス耐性の高い選手はいないためある程度ロンドの距離を縮めてパス回しを行う。
この場合ボールホルダーがタッチライン際まで追い込まれるため苦しいプレーを強いられるがこの局面での西の危機回避力はずば抜けており、単独の寄せなら苦にせず前を向ける特性を如何なく発揮。右サイドの信頼できる預けどころとして存在感を発揮した。
サンペールもボールサイドに寄って西とともにビルドアップの出口として機能し逆サイドへのフィードや裏を狙う山口らにシンプルな配給を行うが、あくまで左のイニエスタらにいい形で預けるのが最優先のため詰まったらGK経由でオープンな左サイドへ展開し作り直しを行う。
こういったサイドを何度も変えること(U字型にボールを動かすこと)などで相手のポジショニングをオリジナルポジションから逸脱させること≒相手を従属させる展開を作り出すことがシーズン終盤の後半の強さに繋がっていたというのが筆者の考えだ。
ダイレクトなビルドアップ
ウェリントンを失ってからは無闇やたらにロングボールを前へという局面は減り、所謂“デザインされた”ロングボールが増えた。
典型的なものは敵がハイプレスを行った際に裏に放つ牽制のロングボールで、前述した通り神戸のWBを捕まえるために前に出たSBの裏に2トップの一角またはシャドーが走り込むプレーは定番。
3バックでこそあるが仙台戦の2点目はこの手法が綺麗にハマった好例で、古橋と小川の快足アタッカー陣が一発で仕留めた。
https://youtu.be/CrqXNeEUdqw
ポジショナルな攻撃
3バックシステムの崩しで重要なのはWBの質とはよく聞くが神戸は現役代表の酒井と西がそれぞれポジションを固めているため、彼らの攻撃性能を活かしたワイドな攻めが基本となる。
左サイドが主要な前進エリアと前述した通り質的優位の期待できるイニエスタやビジャ,古橋らにいい形で収まれぱそのまま崩しに移行していたが、シーズン終盤にハーフスペースに陣取るシャドーが登場してからは酒井のフリーランを絡めてより深い所まで侵入してから所謂“カットバック”などの相手を揺さぶる攻撃が機能していた。
※上図と下図は別のシーン
個人能力を活かした崩しも健在で、イニエスタのタッチライン際に押し込められても簡単に失わない能力や古橋の仕掛けは相手にとって脅威となっていた。
個人技とハーフスペース攻略が共存したのが第32節セレッソ戦の先制点で、ライン間で浮いている山口が受けて古橋が仕上げるという理想的な形だった。
右サイドでの主要な攻め手は左サイドで出口を作ってからオープンな西へサイドチェンジ→決定機というパターンで、この形は再現性が高く実際リーグ戦では4点がこのパターンから。
浦和戦2点目→ https://youtu.be/SLE982Z2Zm4
鳥栖戦5点目→ https://youtu.be/eT0LFchRnm8
札幌戦2点目→ https://youtu.be/7lZWCOMVtGY
松本戦2点目→ https://youtu.be/GfHMvSEw_sw
イレギュラーな形とはいえ天皇杯決勝の2点目も彼のクロスからだった。
後半のオープンな時間帯になると輝くのが彼の特徴で、僅かな時間さえ与えれば高精度な折返しで好機を演出する。
クローズな時間帯でも味方の活かし方を心得ており、CB-SB間へのチャンネルランを演出するのも彼の役割。(インサイドハーフのポジションが消滅するまで)山口が攻撃面で輝けたのも彼がサイドで引き付ける役割を担ったからという側面が大きかった。
https://youtu.be/PyYm1vXgnTY
※トランジション編に続く