見出し画像

2022.4.6 明治安田生命J1リーグ第7節 FC東京vsヴィッセル神戸〜君とボージャンと汰木康也〜

※筆者多忙のため、今回のマッチレポは要点を絞ってお届けする

大時化の中でも神戸の航海は続く。試合当日の朝にはJの3クラブで実績を持つミゲル・アンヘル・ロティーナ氏の正式監督就任が間近であるとの報道が各紙より流れたが、ひとまず大事にすべきは目の前の一戦である。リュイスのチームは中3日で東京へと乗り込み、ミッドウィークのゲームを戦った。

スタメン

画像1

神戸は前節から2人メンバーを変更。初瀬に変えて汰木を左に置き、ボージャンを右に移した。右SBは山川がACLプレーオフ以来のスタメン出場。酒井が左に回った。神戸の布陣が気持ち悪いアシンメトリーの形になっている理由は、次の項で触れたいと思う。
東京は左利きのエンリケ・トレヴィザンをベンチに置き、木本と森重の右利き2人にCBコンビを託す。日によってまちまちのSBの人選は、本職アタッカーの渡邊と、今日本で一番物言いの付くサッカー選手、長友であった。

中か外か。どっち?

この試合の解説を担当していた戸田和幸氏は、前半にこのようなコメントを残していた。

「プレッシングに行くときに、神戸は中から人を出して、東京は外から出している」

このコメントだけでは伝わらないことのほうが多いと思うので、もう少しかみ砕いて解説をしていく。

中から


まず、東京のボール出しに対する神戸のプレッシングについて。東京はウイングを大きくワイドに張らせた433を採用し、サイドバックは適宜内へと入っていく。ピボーテの青木は、アルベルの教え通り可能な限りサリーダで列落ちをしない構えである。
それに対し、神戸は右サイドハーフのボージャンが1トップの大迫と同じラインに入って1列目を形成し、長友を切りながら左CBの木本にプレス。イニエスタはピボーテの青木を見て、東京の2CB+ピボーテのユニットをマンツーマンのような形で嵌めてしまう。残りのミッドフィールド3枚はスライドしながら積極的に人に当たる形で、ボージャンと汰木は同じサイドハーフでありながら、異なるタスクを受け持っているためアシンメトリーの布陣図で表現した。
GK+2CBのユニットを中央で封殺し、サイドに出た所をスライドして追い込む。こういう点から、戸田氏は「中から人を出すプレス」という表現を使ったのだろう。

画像2

その上で、1列目を突破された場合はボージャンが右サイドに戻って、442の3ラインを形成する2段構えの策を取った。

画像3

前節もサイドこそ違えど、2列目のサイドハーフとして先発したボージャン。しかし、単純な運動量のところはやはり課題で、戻りが追い付かず、対面の白井にボールを運ばれることも散見。ならばとリュイスは、彼の帰陣が遅いことを逆手に取り、プレッシングの際に彼を1列目に組み込んでしまう変形4312を採用。ある種の博打を打った。

変形4312の理由


①左CBでの森重の起用
左利きのエンリケ・トレヴィザンではなく、右利きの森重を左CBに起用したアルベル。左利きが左CBを務めないことのデメリットについては、いまさら語るまでもないだろう。右利きは体のアングル的に左サイドにボールを届けることが難しく、また、左足でのサイドチェンジも蹴ることができないため、ボールをうまく循環させることができないというのが定説である。神戸サポの方なら、大崎や渡部博文が左CBを務めていたリージョ時代を思い起こしていただけると、左利きの重要性が理解できるはずだ。
Jリーグレベルでは、マンツーマンのプレスを受けた際にそれでもボールを運び、ビルドアップに貢献できるセンターバックは浦和のショルツなどごく少数に限られる。神戸はその点フェルマーレンという世界基準のCBを擁していたのだが、祖国へ戻り、第二の人生をスタートさせてしまった。
話を味の素スタジアムに戻すと、森重と木本はその少数派ではなく、あくまでごく平均レベルのセンターバックである。というわけで、ボージャンが長友を切りながらプレスをかければ、森重はGKへのバックパスを選択せざるを得ないし、後方から有効なボールが出ることもないというのがリュイスの読みだったのではないだろうか。
②左SBでの長友の起用
アルベル体制下で、繋ぎや内に入るSBの役割に挑戦させられている長友。だが、彼が活きるのはやはりファイナルサードでサイドの滑走路を爆走しているときであって、前にアダイウトンがあらかじめ張っている状況下では、不慣れなビルドアッププレーへの貢献を強いられる。
万が一長友にボールが渡っても、彼が運ぶドリブルやサイドチェンジで神戸守備陣を脅かす可能性は稀である。なので、ここは捨て、山口のスライドによるカバーに期待する。賭けではあるが、一応論理性は持ち合わせている策である。

ポジティブなリザルト


序盤はこの神戸のプレスがそれなりに東京を苦しめる。ピボーテの列落ちを好まないのがアルベルの流儀であると聞いたことがあるが、10分のゴールキックで青木は列落ちを選択。こうせざるを得ないほど、東京が面食らっていたのは事実であろう。予想通り、マンツー気味の前線守備が有効に機能しているうちは東京のバックラインからクリーンな前進がなされることは稀であった。

ネガティブなリザルト

そもそも論として、神戸のハイプレス隊であるイニエスタ,ボージャンは常時強度の高いプレスを繰り出せる訳では無い。京都戦でも見られた現象だが、大迫はもうすこし高い位置からプレッシングに行きたそうな素振りを見せていた。
賭けには当然悪いほうの目が出る可能性もある。中央から人を出すプレッシングの弊害は、サイドに振られたり、速い展開でラインを突破されたときに人数が足りなくなってしまうこと。これはのちに言及する東京の弱点と似ている面もあるのだが、2列目を構成するのが3人だけというのは正直心もとない。神戸のサイドバックはワイドに張る東京のウイングのせいで前に出づらいので、東京のサイドバックがボールを持つと、神戸の2列目はかなり左右に振られることになる。相手が時間をかけてくれればボージャンが442ブロックに復帰する時間も生まれるが、プレーテンポの速い東京はその暇を与えてくれない。
結果として起こっていたのは、2列目ラインの隙間で東京のインテリオールやディエゴ・オリヴェイラにボールを受けられ、神戸のセンターバックが釣り出される現象。試合後のTwitterでは菊池のポジショニングがかなり問題視されていたが、彼が前に出ざるを得ない状況が数多く作り出されていたことも事実である。
ウイングまでボールを運ばれると、東京お得意のニアゾーンを使った攻撃が成立してしまう。ハイクロスをはじき返すだけだった京都戦の前半とは異なり、4バックの泣き所ともいえるSB裏への侵入が繰り返された。

外から

東京のプレッシングは、前節の京都と似たような形。ウイングがSBを背中で消して、433のまま構える形。サイドを切り、中央で奪い切らんとするこの形を、戸田氏は「サイドから人を出すプレッシング」と表現していたのだと思う。
東京のいつも通りの形やん!と言ってしまえばそれまでなのだが、このやり方を採用したのには理由があると考える。この考察の助けとなるのが、アルベルの試合後コメント。

・神戸さんは中央でのプレーを得意としています。
・スタートでは神戸さんの中央からの攻撃に苦しみました。

要するに、アルベルが避けたかったのは東京の中央が空き、神戸のクオリティーが発揮される場面。そのため、「サイドから人を出してきて」、固めていた中央に誘い込んで一気に奪ってしまう画を描いたのではないだろうか。

画像4

アルベルの思惑を打ち破った汰木康也

しかし、アルベルのイメージ通りに試合は進まなかった。その理由としては、神戸のサイドからの攻撃がある程度うまくいったことがあげられる。
キーマンは、左サイドで起用された汰木。彼が酒井とともに幅を取ることで、東京ウイングの裏からの前進を可能にする。ウイングが無効化され、インテリオールが神戸のサイドバックまでスライドせざるを得ない状況では、動かした2列目の裏に大迫やイニエスタが登場し、中央ゾーンでのボールレシーブで攻撃を加速させる。構図としては、京都戦レビューで示したものと似ている。あの時初瀬を使って行ったことを左サイドで再現したと言うこともできるだろう。

初瀬に求められたのは、右サイドで幅を取り、荻原を引き付けて酒井に時間を与える役割。そして、そこからの裏取りや、縦への突破が期待されていたと思う。上手く荻原をピン留めできれば、京都のインサイドハーフを動かして、中央にスペースを作ることができる。それでも荻原が酒井に出てくるなら、その裏を狙えばいい。

下の動画には収まっていないが、先制点は菊池の汰木へのサイドチェンジが起点。これが通ると、安部の裏に出てきた大迫が受けて渡邊をかわし、ニアゾーンを取った汰木がリターンを受け取ってそのまま加速。長友のクリアミスも重なり、早い時間での先制点が生まれた。

それと、個人的に大きいなと思ったのはポジティブトランジションの際に、「汰木は幅を取っているはず」という共通理解が生まれていそうだったこと。サイドのオープンスペースに彼が動いていくことで、そこにアバウトでもボールを逃がす形はたびたび見られた。
抜くドリブルという点に関してはまだまだ課題の多い汰木であるが、サイドアタッカーとしてきちんと幅を取る事が出来るのは示した。今後も駒不足のサイドを支える存在となってほしいところである。

雑感

繰り返しになるが、筆者多忙のため、今回のマッチレポは要点を絞って執筆させていただいた。次節は現地に足を運ぶ予定なので、もう少し内容のあるものが書けるのではないかと思う。
リュイス暫定監督の役目がこの試合で終わるのは確実な情勢である。勝ち点こそ奪うことはできなかったものの、短期間の任期の間に戦い方の道筋をつけるという最低限の役割は果たしてくれた。大本営の神戸新聞曰く今後もクラブに残ってくれるとのことだが、ポスト・ロティーナを考えても、必要な人材であることは間違いない。
後任と目されるロティーナも、スカッドのコンディション,顔ぶれを加味すると苦しい戦いを強いられることは必至。だが、彼が日本で見せてきたクリエイティブなディフェンスとクローズな試合運びは、この3週間でリュイスが作った土台ともマッチしているように感じる。当ブログでは、今後も試合を注意深く観察し、彼がピッチに顕現させた意図を少しでも多く発見していこうと思う。