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髙中・加戸『交通賠償のチェックポイント』

 新人弁護士向けのなかでは一番いい気がする。
 赤本や青本ではわからない実務的な感覚がちょこちょこ書いてあって,そこがいい。

 たとえば,事業所得者の申告外所得―確定申告に記載されていない収入がある場合,その収入は休業損害として認められるかという問題に関し,青本では

確定申告をまったくしていない場合であっても,直ちに無収入と推定して休業損害が否定されるわけではない。相当の収入があったと認められるときは,賃金センサスの平均賃金額などを参考に適宜基礎収入額を認定する例が多い。

とある。これに対して,本書では

少なくとも実務上,申告外所得の主張が認められるためのハードルは極めて髙い。収入(売上高)だけでなく経費(いわゆる悪魔の証明となる)も含め,「裏」の会計帳簿(それ自体の信用性は,必ずしも高いものではない)や膨大な原資料(預金通帳,売買契約書,納品受領書,伝票類,レジの控え等)による高度の立証が求められる。

と,いかにも大変そう…ということがわかり,青本の「否定されるわけではない」のニュアンスを補足することができる。

 このような立証面の記述は他にもある。

受傷に起因する賞与の減額・不支給(立証は賞与減額証明書等による)や昇給・昇格の遅延(立証は社内規定や上司の陳述書等による)も,損害として認められる。

 赤本や青本は,そこまで弁護士向けの記載がないが,本書はその点にも配慮がある。

 ただ,こういった記述がたくさんあるというわけではなく,たまにあるに過ぎない。とりあえず休業損害の章は参考になるところがたくさんあった。

 こういった実務上の感覚や落とし穴に気をつける必要があるが,それを強く求めるのであれば21のメソッドシリーズのほうが適役か。

 交通賠償のチェックポイントは通読用としつつ,21のメソッドシリーズをサブで使っていくのがベスト…になるか。

 




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