インハウスを1年やってみて

インハウスになって1年が経ちました。おおむね、現在の仕事には満足していますが、これからのキャリアをどうしようか…と悩んでいます。また、事情があって今年転職するつもりです。
今回のノートは、転職のためにもこれまでやってきたことの棚卸をしようと思って書きます。

契約審査

インハウスになれば当然のことながら、契約審査をすることになります。
ただ、弊社は、法務機能がほぼ存在しておらず、契約管理もまったくできていません。担当者任せです。
こういう法務機能がほぼないところに、アラサーぐらいのインハウスが入っても、年齢や内部での信用性、権限的になかなか部の権限強化を声高にいうこともできず、動き辛かったです。
つまり、ポッと出の弁護士の若造がどこまで口うるさく言ってもいいのか?という問題です。加減を間違えれば、総スカンを食らうこともあるでしょう。

ただ、幸いなことに(?)、契約について重大なヒヤリハット案件があって、これを好機に必ず法務(というか、私)を通すようにしてくれとトップに直訴して、契約審査の仕組みを導入しました。

しかし、当然ながら、法務の権限強化は、法務部(私の場合は総務部ですが…)の仕事を増加させ、事業部に審査の負担を課すことになります。関係者の理解や協力を得られなければ、うまく仕事をこなすことができず、部の権限強化が無意味になります。
本来的には、法務の権限強化をしようとした場合には、トップに直訴するのではなく、まずは部内で、つづいて事業部へ、そしてトップへと調整を段階的に行う必要がありました。

このような調整は、インハウスならではの動きではないかと思います。よくいわれる、人をまきこんで仕事をするということです。

私の場合は、「弁護士」という資格の強さと重大なヒヤリハットを後ろ盾に強引に物事を進めて、法務部の権限強化を行うことができました。結果的には、単に自分の仕事と責任を重くしましたが。
まぁ目に見えて反対されるということはなく、法務のやるべきことをやれるようにできたので、自分の中では、完璧ではないにせよ、ある程度成功したということにしています。

ただ、今後もインハウスをつづけようと思ったときには、関係者に協力をあおぐことがもっとうまくできないと行き詰まります。今後の課題です。

もし、インハウスを考えているという人は、この本を読むと実感がつかめるかと思います。

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不正調査

不正調査は負担がかなり重いです。
これは、一時的な業務ではあるのですが、通常の契約審査業務もこなさなければならず、残業、土日出勤することがたびたびあります。量的な面でつらいです。

また、関係者の面でもストレスが大きいです。
時には自分よりも地位が上の人も関わってきますし、トップも尻込みした意思決定をしようとします。
こうした関係者の偏見、独自の経験則、法的または常識的に通らない理屈をうまく軌道修正し、ときには排除して、損害ができるかぎり小さくなるように意思決定していく必要があり、骨が折れます。

ただ、事実認定や法的解釈、事情聴取等は、法曹ならではの仕事であって、やりがいはあります。ここはひとつの救いです。うまいことできているかは別論ですが、経験にはなっています。

法律相談するという社風の醸成

法務の役割として、以下の機能があります。
リスクを感じ取る機能:これは違法ではないか、損害が出るのではないかと感じ取る機能
リスクをコントロールする機能:いかにして違法または損害の危険性を小さくするかについて策を練る機能
※くわしくは「法務の技法」を。

前者は具体的には「いかにして事業部から法律相談にまで至ってもらうか」ということにあります。

やり方はいろいろあると思います。何気ない雑談を普段からしておいて、気軽に何でも相談できるような関係性を構築し、雑談のなかから法律相談を拾い上げるタイプの人もいます。

私は、雑談はあまり好きではないので、「これは法律相談してください」とルール設定しました。また、研修でも、「これは危ないので法律相談してください」と言って危機意識を刷り込んでいます。

ただ、やはり雑談から情報を収集できる方が圧倒的に仕事はやりやすいのだろうなと感じています。これからの自分の法務部員としての方向性にもかかわってきますが、どうしたらいいのだろうかと…

終わりに

インハウスの仕事も、「いかにして人との関係をつくるか」「どうやって人の気持ちもふくめた説得・調整を行うか」という人との関係性に帰着します。
当たり前ですが、法律は必須の要素ではあるが、それで全て決まらないわけです。

司法試験では法的な理屈や合理性が最重要視されて、自分もそのような価値基準をもってました。
もちろん、言い方には配慮していましたが、誤ったことを言っている人にむかってそういって何が悪い?こっちが正しいなら絶対に譲歩しないよ、というタイプでした。
しかし、街弁でもインハウスでも、実務では人の気持ち、プライドといった一見不合理とも思えるもののウェイトが重いときがしばしばあります。言い方の工夫がより一層もとめられるわけです。

そうなってくると、仕事をうまくすすめるためには、いくら自分が正しかろうと配慮や譲歩せざるをえないのです。
今までの自分の価値観と反する行動をとらざるをえず、いつのまにか行動によって価値観それ自体が変容しているところもあります。

その変容が思春期以来のアイデンティティの危機となっています。
今後、自分がどうありたい、どうあるべきなのか、変わらざるをえないのか、変えてしまっていいのか等の自問自答が出てきています。めんどくさいことに。

だからどうだという答えが出ない散漫なノートになりましたが、現状の整理としてここで終わります。

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