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アート×釣り×食×地域の可能性 | 版画作家 田中彰 氏|SHIPS AIR

SHIPS AIRとして初めての招聘アーティストは、版画作家の田中彰 氏(webサイト)。
田中氏との出会いは、私が昨年11月にあるイベントのリサーチで訪れた茨城のギャラリーでした。お目当てのイベントまで随分時間があったため、どこか面白いところないかなと情報を探していると、水戸芸術館で札幌国際芸術祭でご一緒している中崎透さん(2022年度芸術選奨新人賞を受賞!)の大型個展を開催していることを偶然知り、せっかくなのでと伺ってみると、なんとご本人が。
お久しぶりですーなんて言いながら、私が白老に移住したことや、「海に興味があってー」なんて話をすると「それならこれ絶対行った方がいいよ。」と教えてもらったのが、中崎さんが運営している個性派ギャラリー「五月の庭」で開催していた田中彰さんの個展でした。

版画作家 田中 彰 氏

プロフィール
1988年岐阜県出身。茨城県を拠点に活動。2015年武蔵野美術大学大学院版画コース修了。木や動物、釣り、水をモチーフに、人間と自然との関わりを木版画をベースに表現する。これまでに「マッチ、マッチ、マッチ。」(TOKAS residency・東京、2022)「WOODCUT LURES WORKSHOPー木版画で釣具をつくる」(水戸芸術館現代美術ギャラリー・茨城、2021)、「木ノミライ」(アーカススタジオ・茨城、2020)などのワークショップを開催。主な展覧会に「町田芹ヵ谷えごのき縁起」(町田市立国際版画美術館・東京、2019)など。

その作品の緻密な美しさとユニークな表情、展示の面白さと、彰くんの穏やかな雰囲気に、「白老でレジデンス興味あります?」とお声がけし、トントンと話が進んで白老に招聘することに。

ギャラリー「五月の庭」での展示の様子。会場の中心には囲炉裏があり、釣った魚で作った干物をふるまう彰くん。終始和やかな会場w

SHIPS AIRの目的とすり合わせ

1つ前の記事でも触れていますが(私が白老でアーティスト・イン・レジデンスを始める3つの理由)、SHIPS AIR として、今回彰くんとレジデンスを実施する上でお願いしたことが3つありました。
①町内のリサーチを一緒にやること
②まちの人を招いてのワークショップか講演をやりたい
③継続して白老町に関わるとしたらどんなことができそうか、アイデア出しを一緒にすること

今回は上記3つを大事にするということで、作品制作は必達事項にはしていなかったのですが、また何かをするときに白老で作った作品が1つか2つでもあった方が絶対良いと彰くんの希望もあり、作品制作も加えて全8日間のマイクロレジデンスを実施することになりました。
なんにせよ、11月に出会い、1月にはAIRを一緒にやるというすごいスピードで話が進んでいきました。
(その報告記事は7月UPという、すごいスピード感…ごめんなさい)

SHIPS AIR つれづれ記録

①リサーチ

白老に到着してから、田中氏と町内各所をリサーチして回る。居酒屋河庄の河崎さん(マスター)には海・河・山の季節の魅力について案内してもらいながら聞きつつ、マスターの町に対する思いや溢れるアイデアなどについてお話しを聞く。
版画作品も作っている喫茶 休養林の相吉さんと作品の話、さらに、新しくできるビール工場「OLD GREY BREWERY」について菊地さんに案内してもらい、以前から提案していた田中氏の作品をビールのラベルとして採用する件についても進展。

②作品制作

釣りをした魚を版画作品にすることが田中氏の創作ベースになっているので、私も簡単な釣竿を購入し、インカルミンタルで釣りにチャレンジ。黒そいやガヤ、アイナメが釣れたのでそれを使った作品づくりも、すごいスピードで進めてくれた。
早朝マイナス10度前後での釣りだったが、港に長時間滞在することはなかったので、漁港の様子や大きなタンカーが港に入ってくるなど、その様子も含めて楽しめた。

初日、田中氏が白老駅に到着してすぐに、歩いて白老港まで行った際に出会い、案内してくれた町民にも改めて再会。(この日の夕方、凍える田中氏を駅まで送ってくれた町民の方も、本当にありがとうございます!この場を借りてお礼を…)
さらに、毎日防波堤の端っこまで散歩するご夫婦とお話しするなども…。こういう出会いは、アーティストと一緒に普段と違うサイクルで活動することで起こる、AIRの面白いところ。

③作品制作

事前打ち合わせで、版画の材の話になった時に、白老には流木がたくさんある話から、流木に彫ってみることを依頼して、上記のガヤを電熱ペンで流木に模写してみることに。思った以上に素敵で、海岸歩いていたらふと目に入るような仕掛けができたらどうか、流木なのでもしかしたらまた海に帰っていくかもしれないところも良いのではと盛り上がる。日が暮れて寒すぎるため撤収となったが、雰囲気がわかったのは収穫。
後日、流木の写真を見た相吉さんに、「平面の版画の時よりも、流木に写した時の方が魚がイキイキしているな」と言われる。

④ワークショップ

今回のレジデンスの際にお願いしていたワークショップの実施(@私の家)。
「塩と流木」というワークショップタイトルに決め、そのビジュアルも版画で作成してくれた。
4台の電熱ペンをワークショップ用に持参してくれていたので、午前・午後と合計9人が参加。白老海岸で好きな流木を小口切りにするところからスタートし、その断面に各々作品を彫っていく。流木にもさまざまな種類があり、選んだ素材によって表面の質感や、電熱ペンで焦げたときの匂いが違いなども楽しみながら進める。彫り終わったら、刷る。
今回、田中氏が持参してくれた高級和紙と、白老町の紙「白老上質」を使用してみた。各々の作品が並ぶとなかなか良い。

⑤塩づくり

田中氏が、茨城で開催していた個展で展示していた、複数箇所で採取した海水を塩にして、味比べをさせる展示が面白かった為、白老でも「白老海岸」「アヨロ海岸」「白老港」の海水を塩に。一番美味しいのは「白老海岸」で、まろやかな甘味を感じる!ということで、田中氏が釣り上げた50cmのアイナメの刺身に、白老海岸の塩をつけて食べた。
作品(の種)と、作品の元になる地元の魚と、その海で出来た塩を食する体験は、大変興味深かった。

「食とアート」ってあまりピンと来ていなかったのだけど、今回の体験で少しイメージが湧いた

⑥まとめ

1週間の期間中で、かなりの作品の元が出来た(写真左の下に、版元が複数)。白老の滞在後は、すぐに長崎にあるレジデンスに参加し白老で作った作品を彫り進めて長崎で白老の作品として披露してくれているほか、5月には東京都国立市での個展も実施(下記に詳しく)。
引き続き企画アイデアを整理しつつ、7月にはビール工場のラベル制作で白老入りし、河崎さんと釣りにも行く予定(笑)。
さらに、9月には長期で白老入りすることも調整しており、継続的な関係性のきっかけがつくれた。
版画と紙は切っても切れない関係であるので、日本製紙との関係づくりと「白老上質」の巨大ロールでの作品づくりの可能性なども探っていけたらと話している。

東京都国立市で開催された個展

WATERMARK arts and crafts(東京都国立市)で行われた個展「樹木の航海・南島原・国立・白老」では、白老町で制作した作品も多数展示。個展タイトルに白老と入れてもらえました。
会場にもお邪魔しましたが、会場では白老での滞在中の出来事や作品の制作背景などを来場者の方たちとお話するなど、白老町のディープな魅力を伝えるまた違うアプローチとして面白いものだなぁと実感。
国立には、東京で楽曲制作の仕事をしていて、知人を通じて白老に訪れてくれた際にすっかり仲良くなったゆうみさん、茨城に訪れた際に出会っているデザイナーの阿部さんという、謎のメンバーで訪れていて、ご縁って面白い。
※ 阿部さんは、SHIPSとして発行したフリーペーパーのデザインを依頼することに。ご縁を全て回収していこうとしている。

茨城での出会い含めて、謎のメンバーで国立探報。出会いは面白い。

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