フレンチコメディの知られざる傑作『ヨーヨー』~ピエール・エテックスの才能
ピエール・エテックス レトロスペクティブと題され、「長らく観ることの叶わなかったフレンチコメディの傑作が一挙公開!」とのキャッチフレーズ。
という訳で、日本ではほとんど知られていなかったピエール・エテックスを観に行く。本当は公開された作品を全部観たいのだが、この『ヨーヨー』しか観られなかった。
「トリュフォーが絶賛し、ゴダールがその年のベストテンに選出した」と言われるこの作品は、サイレント喜劇映画と見世物小屋のサーカスへのオマージュが溢れている。前半はサイレント映画で、扉の音などのノイズが強調されていて、大豪邸の無駄に多い使用人の動きや絵画かと思ったら人間だったり、車での奇妙な犬の散歩やバスタイムが人間ではなく犬だったり、クスッと笑えるアクションが次々と展開される。キートンやチャップリンなども演じられ、サイレント喜劇映画への愛に満ちている。何度も繰り返される音楽も効果的。
大恐慌に見舞われ、屋敷を失った男は曲馬師の妻と息子の3人でサーカスの旅回りを始める。その時代変化に合わせて、映画はサイレントからトーキー映画へ変わり、ナレーションや台詞が入るようになる。またフェリーニの『81/2』や「ザンパノとジェルソミーナ」への目配せがあり、戦争が始まってチャップリンの『独裁者』を真似たヒットラーも登場する。戦争の風刺などもちょっとあって、子供から大人になったヨーヨー(ピエール・エテックスが親と子を二役演じている)は、新たな時代のテレビでも活躍し、喜劇スターになっていき、興行プロデューサーとして大成功する。そして廃墟となったかつての屋敷を修復し、小さい頃の思い出のお城をお金をかけて復活させるのだ。最後はかつてのような屋敷での大パーティー。真珠のネックレスのドタバタなど笑える要素が散りばめられ、ラストにサーカスの象が登場して、ヨーヨーは象に乗って去って行く。道化師である自らへの誇りのような振る舞い。
キートンのような動きのキレがあるわけでもなく、チャップリンのような情感に訴える物語があるわけでもなく、ジャック・タチのような芸術的でオシャレなセンスがあるわけではないが、クスッと笑える独特の可笑しさと社会風刺、道化師やサイレント喜劇映画への愛などが感じられ、フレンチコメディの粋さがある。もっともっと他の作品を見てみたいと思った。
1965年製作/98分/フランス
原題:Yoyo
配給:ザジフィルムズ
監督:ピエール・エテックス
製作:ポール・クロードン
脚本:ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール
撮影:ジャン・ボフティ
美術:レイモン・トゥルノン レイモン・ガビュッティ
キャスト:ピエール・エテックス、リュス・クラン、クローディーヌ・オージェ
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