映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』の現実の重み

トッド・ヘインズは『キャロル』が面白かったので、この映画を観た。丁寧な演出をする監督という印象がある。この映画は、環境汚染問題をめぐって1人の弁護士が十数年にもわたり巨大企業との闘いを繰り広げた実話を映画化したものだ。この話に関心を持った主演のマーク・ラファロがプロデュースにも関わっている。

一人で膨大な書類の山と格闘する弁護士のマーク・ラファロの実直な姿が描かれる。最初は企業弁護士であり、環境問題に関心を持つ社会派弁護士でなかった彼が、企業の闇の真実を知ることによって、この事件にのめり込んでいく。最初から正義のヒーローのように描いていないところが好感が持てる。農場夫のバカげた訴えを真に受けていなかった彼が、少しずつ真実に近づいていく。

そして、家族も顧みずに仕事に没頭し、夫婦関係も壊れそうになっていく描写や、何年もかかった科学的な調査にようやく決着がついて、家族でステーキを食べながら、ささやかなお祝いをしていた夜にかかってくる電話、そのあとで店の前に立ち尽くすマーク・ラファロの姿がいい。

地味な映画である。華やかさはまるでない。地味なマーク・ラファロの姿を淡々と追いかけている。企業側の悪も必要以上に誇張して描いていない。ただ、現実に起きたという大企業が抱えている闇が深い。それを一人の人間のヒーロー的な活躍ではなく、苦しみと悩みと迷いと時間がただ過ぎていく徒労感、それでも諦めない誠実な姿として描いているリアリティが映画全体の重い現実とシンクロして見応えのある映画になっている。

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