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#93 心の理論

人間の多くは約4-6歳前後に心の理論を獲得する。

心の理論とは、他者の心を類推し、理解する能力である。心の理論という呼び方は、1978年に発表されたPremackとWoodruffによる論文”Does the chimpanzee have a theory of mind?”において初めて用いられ、それ以後、特に発達心理学において、乳幼児を対象にさまざまな研究が行われるようになった。日本語では一般的に「心の理論」と訳されるが、「他者の心的状態の推定」(inferences of other's mental states)を意味する。また、同義語としてmentalizingがある

 引用:脳科学辞典

わたしたちはこの能力によって互いに理解し合うことができたり、思いやることができる。とはいうものの、どういうことだか解らない人のために有名な実験を紹介しよう。


<サリー・アン課題>


太郎と花子は1階のリビングで遊んでいる。太郎は任天堂Switchを、花子は人形で遊んでいた。

2階にいる母親が太郎に2階にあがってきてほしいと声をかけた。

太郎は、「うん、わかった」と言って、遊んでいた任天堂Switchをいつも収納している青い箱の中に片付けて、2階にあがった。

それを見ていた花子は太郎をビックリさせようとして、青い箱に入っている太郎の任天堂Switchを、いつもは収納していない黄色の箱に入れ替えた。

母親の用事が終わり2階から降りてきた太郎は遊びの続きをしようとする。

上記の状況で子どもに質問をする。

①太郎はどこを探すと思う?(信念質問)

②任天堂Switchは今どこにあると思う?(現実質問)

③最初に任天堂Switchはどこにあった?(記憶質問)

①の問いに3歳児の多くは青い箱と答える。しかし、4~5歳児になると黄色い箱と答えるようになる。

これは、多くの3歳児にとっては、自分が見て知った現実(任天堂Switchは今、黄色の箱の中にあるという現実)と、太郎の信念(任天堂Switchは青色の箱に入れておいたという太郎にとっての現実)が異なることを理解するのが難しいために起こる。

①の問いである信念質問に、多くの3歳児は正しく答えることができないが、②・③の問いである現実質問や記憶質問は正しく答えることができる。

もう少し丁寧に考えてみよう。

太郎の行動を見ているとき、太郎の行動を正確に記憶することはできる。太郎が母親に呼ばれて2階に上がっていったという事実も、太郎が遊んでいた任天堂Switchを青い箱にいれた事実などだ。

また、花子の行動を見ているとき、花子の行動を正確に記憶することもできる。花子が人形で遊んでいた事実も、任天堂Switchを黄色い箱に入れたという事実だ。

だが、太郎にとっての現実と花子にとっての現実を重ね合わせるには、二つの視点を同時に頭の中で考えなくてはならない。

太郎の視点に立った場合、母親に呼ばれて、任天堂Switchを青い箱に入れ、2階にあがり用事を済ませ、1階に降りてきたときに、任天堂Switchは青い箱の中になくてはならない。(任天堂Switchが勝手に動くことなどないからだ)

だが、花子の視点でいえば、任天堂Switchを青い箱から黄色の箱に入れ替えたのだから、任天堂Switchは黄色の箱になくてはならない。(自身の行動によって任天堂Switchを移動させたため)

どちらの事実も正しいとしたら、二つの事実に矛盾が生じてしまう。(あくまでも、太郎が知っている事実のみにフォーカスした場合)

多くの人はこころの理論を獲得しているので、太郎の視点で起きている事実と、一階のリビングで花子が任天堂Switchを青い箱から黄色の箱に移した事実を同時に理解し、太郎は任天堂Switchが移動された事実を知らない以上、1階に降りてきた時に青い箱を開くことは容易にわかるはずだ。

しかし、3歳児の頃にはわたしたちの誰もがこの問いに正確に答えることができなかったのだ。

自分が見ている世界が全てで、太郎は任天堂Switchが花子によって黄色の箱に移されたことを知らない、『もしも』の話など理解できないだ。

そのため、今任天堂Switchは黄色の箱にあるのだから、任天堂Switchで遊びたい太郎は青い箱ではなく黄色の箱を開けると予想する。

近年、心の理論の芽生えの証拠として、生後9か月頃から見られる共同注意、および生後1年前後に見られる指さしが指摘されている。また、心の理論は15か月児の乳児でもすでに理解しているという証拠も示されている。

ひと昔前は、心の理論を獲得ができるのは人間のみだといわれていたが、近年ではオラウータンやチンパンジーにも心の理論を獲得できているという学者もいる。(賛否両論があるが、人間にあるものは動物にもあると考える方が健全なようにみえる)

なにはともわれ、心の理論の獲得がコミニケーションをより高度なものにしていることは間違いないだろう。

心の理論と話はズレるが、人はワーキングメモリの量によって、脳内での作業を同時進行に行える量が異なるという。

ワーキングメモリは脳内での作業机とたとえられることがあるのだが、作業机が一つしかない場合、一回にひとつしか作業ができない。これが、5つあったとすれば、作業机が5つもあるのだから同時に5つの作業をすることが可能になる。

世間一般にいわれる秀才は、ワーキングメモリの量が人よりも多いといわれている。

ワーキングメモリ(Working Memory)とは認知心理学において、情報を一時的に保ちながら操作するための構造や過程を指す構成概念である。

これと同じで、人心掌握術に長けている人は、心の理論で使われる脳部位が普通の人よりも活性化されているのではないだろうか。

脳は可塑性が高いといわれる。

そのため、年齢にかかわらず脳を鍛えれば、弱かったシナプスも強くなり、活性化され、より良くなる可能性が高い。

鍛えられた脳はマッチョになり、あなたの頭脳活動をよりアクティブにしてくれるだろう。

今からでも遅くない、脳の筋トレをしてみませんか。


おわり


最後まで読んでいただきありがとうございます。

ウィコラさん画像を使用させていただきました。

毎週金曜日に1話ずつ記事を書き続けていきますのでよろしくお願いします。
no.93 2021.11.19








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