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旧型

ある日のとあるコンビニで買い物をして、支払いに500円玉を渡したら、「あのーこの500円。機械に通らないんですけど・・・」
と言われて返されてしまいました。

返ってきた500円玉をよく見ると昭和57年製造の旧型。初代500円玉でした。ひとまず、財布の中にあった別の500円玉・・・平成12年製造の新型500円を渡してその場を収めて帰ってきたのでした。


偽物との戦いの歴史だった500円硬貨の変遷

今回機械が受け付けずに帰ってきた500円玉は製造年にある昭和57年(1982年)に、それまでの500円札(肖像は確か岩倉具視)に代わって世に現れました。調べてみて知ったのですが、ドル換算だと3ドル以上の価値になるコインというのは世界一高価な額面のコインになるらしいです。

初代500円硬貨
一応こちらが「表」
「500」と書いてある方は「裏」だそうです。

その為に、初代500円硬貨は当時最先端の偽造防止技術が惜しげもなくつぎ込まれました。有名どころでフチに刻印された「NIPPON ◆ 500 ◆」の文字などです。
それでも500円硬貨は偽造されました。世界的にみればほぼ同じ大きさ、重さで価値としては半分以下~5分の1以下のコインを加工することで、自販機限定ではありますが、簡単に500円硬貨として使うことが出来たからです。

フチに刻んである「NIPPON ◆ 500 ◆」の文字

こういう自販機を騙す偽500円玉が後を絶たなかったため、さらなる偽造防止技術を盛り込んだ新500円硬貨が平成12年(2000年)に登場。公式な発表ではないようですが、技術の発展に伴いおおむね20年おきに新しい偽造防止技術を盛り込んだ新しい硬貨に切り替わっているそうで、現行の500円硬貨は外側がニッケル黄銅でちょっと金色ががっていて、内側が白銅で銀色。さらに内部に銅が使われているという硬貨で令和3年(2021年)から発行されているそうです。

機械からは偽物と同じ扱いの初代500円玉

一般的には硬貨は紙幣と比べると偽造されにくい傾向にあります。主な理由は材料の原価が高いので偽造したらほほ間違いなく額面以上のコストがかかります。一円玉などは製造コストだけで2円以上かかっていると言われていて、偽造する側からすれば意味がないから偽造しないという訳です。

二代目の「新500円硬貨」

500円玉が偽造されるのは、最初に書いた通り額面としてかなり高価で偽造のコストを十分回収可能であるからでしょう。初代500円玉はそのことを予測して当時考えられる限りの偽造防止技術が投入されました。技術屋の端くれだった自分から見れば、デザインした造幣局の担当は多分自信満々だったのではないでしょうか。こんな手の込んだ加工を施せば間違いなく製造コストは500円を超える。そこまで金をかけて偽造する奴はいない・・・そう思っていたのではないかと思います。

今から見れば初代500円のデザインは一つ大きな見落としがあるように見えます。コインはすでに人間の手で扱われるより、機械・・・自販機で扱われることが多くなっていたという点。デザイン担当が(恐らく)そのことを考慮していなかった。という点です。

人間が見れば一目瞭然の偽造品も自販機からすれば同じ白銅のコインであって表面の刻印が正しいかどうかなど分かりません。白銅は100円玉や50円玉でも使われている材料で扱いなれているし、それこそ機械の側も白銅の比重なら精密に計測できるから偽造品の判別もやりやすい。と思ったのかもしれません。

初代と比べるとちょっと銅色が出ている

しかし、白銅貨というのは見た目が銀色ということもあって世界的には銀貨の代わりに使われることが多く、500円より遥かに低い額面価値の外国通貨・・・具体的には500ウォン硬貨をドリルで穴をあけるなどのお粗末な加工でいとも簡単に機械を騙すことが出来ました。

結果的に平成12年(2000年)から発行された新500円硬貨はデザインはほとんど変えずに材料が白銅からニッケル黄銅に代えて電気的な導電率の違いから真偽を判別できるようになりました。

結果的に初代500円玉は、少なくとも機械には偽造した白銅貨と同じものと見なされるようになってしまったわけです。

もしも機械にも目があれば・・・カメラとAIによって大きく進歩した機械の真偽判別技術

その後500円より遥かに額面の大きい紙幣の偽造・・・偽札の登場が世間を騒がすことがありましたが、現在ではこれを判別するのにカメラとAIの力が役立つようになりました。これらの技術は元々は画像処理技術の応用だったと思われるのですが、現在では顔認証機能などのように一般的に使用されているパソコンやスマートフォンにまで搭載されるようになっています。

三代目の「新新500円硬貨」
内側に初代の白銅
外側に二代目のニッケル黄銅
さらに内部の外側から見えないところに銅
実に凝った作りのコイン

もしも初代500円玉の時代にこんな技術があれば偽物と同じ扱いはされずに済んだかもしれません。まあ紙幣と違ってコインは摩耗して表面の彫刻などがかすれてしまっても使われ続けてたりするので、いずれ材質変更などの「機械に判別させる技術」は盛り込まれたのでしょうけど。

自販機のコイン識別機能は初代500円玉が出た時代からあまり変わっていないようで、そうこうしているうちにPayPayのような電子通貨が流通するようになってきたので、将来的にはコインを入れて買い物をするタイプの自販機自体が廃れてしまうかもしれません。

潜像だけでなく、フチの隙間のような場所に顕微鏡でしか見えないような微細文字で彫刻もされているとか。

ただし、それは自販機にカメラが使われていない。という意味にはなりません。偽造コインのようなある意味みみっちい犯罪ではなく、自販機そのものを破壊するなどの荒っぽい犯罪への対策としてカメラがついていることが多くなりました。

これらのカメラは機械がデータとして処理するために撮っている「画像」で、我々が一般的な意味で考えている「写真」ではなくなってしまう訳ですが、写真も始まりのころ、芸術ではなく資料として・・・画家が絵を描くときの下敷きや見本として写真を活用していたことを考えると、この機械がデータとして撮影した画像から新しい「写真」が出来てくるかもしれません。

ちなみに初代500円玉は銀行で機械ではなく窓口での支払いに使ったらちゃんと受け取ってくれました。

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