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「闇バイトに取り込まれるのはなぜか」の1つの見解と対策提言

闇バイトに取り込まれる人はなぜ騙されて巻き込まれてしまうのか、という話が世間を賑わせて久しく、色々な意見を見ました。
それらの意見の中から「確かに」と思ったものを取り込みつつ、私自身が気がついたこと、見聞きしていることも参考にして、1つの見解を述べてみようと思います。


闇バイトに足を踏み入れる6つの要因

要因1 お金がない

まずは何を措いてもお金がないこと。
うなるほどお金があったらたぶん、闇バイトには引っかかりません。

お金がないと、判断力がにぶり、騙されやすくもなりますし、「藁をもつかむ」思いで多少怪しいと感じても引っかかってしまうことがあります。そもそも元手がない(お金もですが、体力や気力も)ので、元手なくしてお金が入ってくるようなうまい話に弱くもなるのです。

お金がないこと自体がストレスになるからかもしれないですし、お金がないために栄養や睡眠が不足しているからかもしれませんが、ともかく現象として、私も少しは(本当に少しは、ですが)感じたことがあります。裁判で言い訳にはならなくても、巻き込まれる人を減らす対策を考えるための要因としては絶対に考えておくべきポイントだと思います。

要因2 自分はバカだと思っている

働いたことがない人にとってはもちろん、アルバイトでも、それどころか正社員として入社する人であっても、雇用契約ナニソレ?会社が勝手にいい感じにしてくれるでしょ?って感じの人、本当にたくさんいるんです。私は人事労務関係に携わった経験があり、「どうしてそれで大丈夫だと思えるんだ」と不思議に思ったことが何度もあります。

彼らは、口に出すかどうかはともかく、自分はバカだと思っていたり、自分には社会のことは分からないと思っていたりするからこそ、何を出されても「なんかそういうもん」「どうやら必要らしい」くらいで終わってしまう層です。社会を信頼しているのは社会が自分に良くしてくれたからではなく、バカな自分よりはマシで、自分とは無関係に回っている場所だからです。

もし私が労務担当として働いている会社で「必要なので通帳の写しをくれ」と頼んだら、どこの会社でも従業員の一部は質問さえせず、素直に全ページのコピーを出してくれるに違いありません。そのくらいそういう人は普遍的にいます。体感では全日本人レベルで10人中2人くらい。会社の構成員の性質によっては半分を超えてもおかしくないです。

要因3 履歴が微妙

履歴書を出してくださいと言われて堂々と出せない人。

って書いたらすごく黒い人みたいに見えますが、実際にはもっともっと軽微な理由で出したくない人がたくさんいます。
たとえば途中で不登校、休学などがある人や、病気などで空白期間がある人、短期間で辞めた経験がある人、夢を追っていたためにバイトを転々としてきた人、などなど…

また、多くの人は、特別な技能がないことが就活・転活のネックになっています。いわゆる「手に職」がない、「つぶしが効かない」、「ほとんど何もかも未経験」ってことです。

そういう人にとって、履歴書・経歴不要は本当においしいアルバイトに見えるでしょう。

一方で、そんな人でも身分証はみんなと同じに持っていることが多いです。というか、それすら出せない、闇バイトよりさらに下の階層が世の中にはいて、闇バイトは実は上澄みとも言えます。運転免許を持っているってすごいことですし、マイナンバーカードをつくることや手続きについて理解できたのもすごいことなんですよ。この辺、細かくは書きませんが。

だから身分証を見せろと言われたら履歴書とは違って堂々と出せてしまう。経歴を見せていない後ろめたさがあるからこそ、身分証くらいはと提出してしまう。そういうことは普通にあるだろうなと思います。

要因4 「やばいものセンサー」が壊れている

雇用契約ってどういうものですか。何があれば雇用されたと言えますか。
雇用するとき、必ず伝えなければいけない事項はなんですか。
逆に、採用面接で聞いてはいけないことを言えますか。

たぶん、フルタイム正社員でも全部言える人は少ないと思います。
でも何となく、ある程度の経験で、「これはやばいやつ」とか「何かおかしいかも」と思える人は多いはずです。それは、これまでに「ある程度の経験」があるからです。その経験は働いた経験だけではなくて、家庭や学校の環境も含めた「やばいものセンサー」にかかわるもの全部なんです。

たとえばですが、あなたが虐待されて育ったとします。家では暴言や暴力が当たり前で、気まぐれで言を左右するのも当たり前です。学校では宿題を出せないので先生からも嫌われ、汚れているのでいじめられました。義務教育の途中から学校をドロップアウト、家出し、路上で不良少年と付き合い、ナメるかナメられるか、やるかやられるかの中で大きくなりました。殴られれば土下座だってするでしょう。
ある日バイトに応募しようとしたら、雇い主から身分証を求められました。応募時の内容とは違うことを求められました。あなたはそれを「やばい、犯罪かも」と思えますか?

ここまで極端ではなくても、そもそもそれってやばいぞ、のセンサーが壊れたりゆがんだりするタイプの経験をしてきた人はけっこう多いです。軽いもので言えば、「学校ではずっといじられキャラだった」というようなものでもそうです。人から無碍にされるのがその人にとっては当たり前ということですから。

要因5 知識がない

やばいものセンサーが壊れて・歪んでいても、知識があれば回避できます。要因4で書いた最初の質問の答えを知っていて、「いや労働法規的にそれはあり得ないやろ」と言えるってことです。

でも往々にして、多くの人はその知識を持っていません。学校でみっちりと教えられる内容ではなく自分で学ぶことですし、そもそも引っかかるタイプの人は学校の勉強がきちんと頭に入っていないことも多いです。社会が自分事でない要因2の層には、一般向けの啓発も届きません。

要因6 人権概念がない

ぶっちゃけ今の日本人の8割はちゃんとした人権概念を持っていません。
私は今、「人にやさしくするというのは人権概念ではない」という話をしています。

根本的に、義務を果たさなければ人権がないと(思想として以前に、肌感覚として)感じている人は多いですし、人権とは優しくすることだみたいな誤解をしている人も大変多いです。
そういう人が要因1~5の要素を持ってしまったらどうなるか。

まず自分に人権はありません。だって、普通の人に求められる勤労だとか勉強だとかきれいな履歴だとか無借金だとか、そういう義務を果たしていないからです。自分は落ちこぼれで、何をされても文句は言えません。また、やばいことに巻き込まれたとしても、自分は落ちこぼれなので、きっと自分のほうが悪いと言われるに決まっています。今までどんなときも、みんなからそう言われて(されて)きたからです。
これが、闇バイトに巻き込まれた人が通報しにくい心理です。

そして、周りの人にも人権はありません。自分に優しくするだけの余裕がないからです。食うか食われるか、自分に優しくしてくれないなら自分も優しくしなくて良いということになります。つまり入った家の人が抵抗したら殺してもいいという言い訳が、たとえその場限りの心情であったとしても、成り立ってしまいます。
これが、闇バイトが大きな事件にまで発展する心理ではないでしょうか。

対策提言

ここまで、要因を見てきました。では、闇バイトに巻き込まれる人を減らす対策は、何が考えられるでしょうか。

私は結局「教育」「子育て」「社会保障」を改革するしかないと考えます。

まずは、保護の強化も含めて不適切な環境で養育される人をなくし、学力の補完や教室の治安など、総合的にドロップアウトしないような環境づくりをすること。そして、学校できちんと、生きていくために必要な法律・制度の知識(要因5の解消)と、「正しい」人権を繰り返し教えること。特に制度と人権の教育は、国語算数を上回り、どんなコースを通っても必ず学ぶ機会に当たるような「最大にして必須の教育」「義務教育の究極の目的」にすべきです。

人権についての正しい知識を得る(要因6の解消)と同時に、大切にされた経験を持つ人を育てなければ、要因4を解消できません。一方で要因4を解消できれば、要因1の借金の理由の一部としての「寂しさ消費(ホスト・キャバへの使い込みや依存症)」も解消できます。

その上でこれまでの、ストレートで学校に行き、卒業後はすぐに就職して、フルタイムの正社員で働く、という道を通らなければその後の就職に差し支え、貧困やドロップアウトにつながってしまう社会のあり方を変革しなければなりません。教育制度ももっとその人の性質に応じて多様であるべきですし、教育を終えたあとの道ももっと多様であれるように整え、人々の目も教育されて変わるべきです。失敗したときの社会保障も充実しなければなりません(要因1の解消)。そうやって初めて、「ああいう経歴はダメだ」「あれではいずれダメになる」といったスティグマをなくせます。もちろんそこには、子どもに対するキャリア教育や、企業の体制の変革も求められるでしょう。

「きれいな履歴書」でないことを恥じなければならない人がいる(要因3)、「自分はバカだ」と思わされて社会を丸投げしている人がいる(要因2)ことが問題なのです。その人たちが、「勉強はできないけれど、自分には良いところがあり、それを活かして生きていける」「途中で寄り道したこともあるが、今後何にでもなれる」と思えれば、闇バイトは要りません。

おわりに

この記事は個人の一意見です。誰かの目に留まれば良いと思っていますが、内容を強制するものではありません。批判はご自由に。でも私にそれを伝えるかどうかは別の話です。

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