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プロフェッショナルファウル×演劇ユニットこれっきり 合同配信公演『プロこれオンライン』

1都3県の非常事態宣言が延長される中、皆様いかがお過ごしでしょうか。

私は相変わらず山形県に監禁され、東京にも茨城にも行けず血の涙を飲みながら夜な夜な友人とオンラインゲームをする日々を過ごしてます。

劇場で演劇観るのもすっかりご無沙汰な中、何かとお世話になってる水戸の演劇ユニット「プロフェッショナルファウル」と「これっきり」の合同配信公演『プロこれオンライン』を観劇しました。

アーカイブも残ってるので未視聴の方はぜひ。


演目はこちらのツイートをご参照ください。


公演全体の感想

形態としてはプロフェッショナルファウルが一昨年から開催している複数劇団による短編オムニバス公演『シアターゼロ』のオンライン版といった感じ。

『シアターゼロ』は都合が付かず1度も観に行けていないのですが、映像作品で「20分以内」という長さは観てる側としては非常にちょうどいいと感じました。

4作品続けて観てもしんどくないし、1作品ずつ観るにも億劫じゃない素敵な時間設計だと思います。

特に面白いと感じたのは、通話・配信という共通のプラットフォームを使っているけれども、4作品とも「場」の使い方が違っていたこと

2作品目の『Ceremony(セレモニー)』の最もミニマルなビデオ通話による会話劇から、4作品目の『家、のぞいてみてイイですか?~フワちゃんに救われた男、フォワちゃん~』では部屋全体を大きく使ったモノローグ的な形まで、非常に幅があったのが印象的です。

劇場で客も入れて上演している芝居を配信するのは多くなりましたが、そういったものとは違い今回はオンラインで配信するために作られた作品なだけに、場の設定にはどの作品も非常に工夫が凝らされていました。

こんなご時世でもなければここまで「配信であること」を活かした作品って生まれなかったと思うので、この新鮮な感覚はとても貴重なものだな、と思います。

ちょっと気になった点を一つだけ。

宣伝広報の部分なんですが、公演の情報が全てまとまった場所が見つけられなくて、公演の全体像が少し掴みにくかった気がします。

オンライン通話を使ったリアルタイム芝居なのか、録画のプレミア配信なのか。

時間きっかりに控えていた方がいいのか、公開後都合の良いタイミングで観ればいいものなのか。

主に公演の情報が4作品ごと個別に出されていたために断片的だったのもあり、「何かやるのは分かるんだけど何するのかよく分からない」という状態で当日を迎えてしまいました。

これはもう新しい取り組みなので仕方ないとは思いますし、今回の公演のために特設ページ作るのもリソースの使い方として正しいのかどうかは微妙なところだと思うので、難しいところなんですが。


1.『侮るなかれ、我はサイコ』

オンライン通話という「分断性」と、実はお互いの生活圏が同じであるという「接近性」、場の2つの特性が最大限に活かされていたのがとても印象的でした。

相手側で何か大変なことが起きているんだけど、自分にはどうすることもできない。

でも、相手の行動が何か自分に影響を及ぼすかもしれない。

「身体性が奪われる」という公演形態のデメリットを、脚本の中に上手く取り込んでいるわけですね。

その主導権の入れ替わりによる押し引きが本当に絶妙で、最後までどういう形に帰結するのか分からない展開が観ていてとても楽しかったです。

他の3作品は仮に劇場での芝居であっても良い感じに仕上げられると思うんですけど、これはむしろオンラインでやるからこそリアリティを持つ芝居だな、と思いました。


2.『Ceremony(セレモニー)』

4作品の中では最も場の使い方がシンプルで、内容としてもオーソドックスな会話劇。

しかしながら、冒頭の部分などビデオ通話の所作が非常に丁寧に作りこまれていたことや、神さんと渡邉さんのリラックスした語り口が相まって、なんだか本当に他人のzoom会議を観ているような感覚になりました。

会話の内容が内容だけに、胸のあたりがめちゃくちゃゾワゾワしたのがとても印象に残ってます。

オンラインでの視聴なのに、劇場で芝居を観ている時のように「その場の空気」が伝わってきました。

キョウスケさんの脚本って、後から自然と状況や背景がふんわりと分かってくる流れを作るが本当に上手いので、今回の形式との相乗効果も大きかったように思いました。

脚本と演技の地力の高さをひしひしと感じます。


3.『Peach boy,』

オンラインの通話とは別に「ゲーム」という場をもう一つ設けることで、作品のテーマに自然と着地する流れが非常に綺麗だったな、と思います。

ちょうど最近友人とオンライン通話をした時に

「改まって『オンライン通話をしよう』と誘うのはちょっとハードルが高く感じるけど、『通話しながらゲームしよう』なら結構気軽に誘える」

という話をしたんですよ。

主として話したいことがある時に併せてできる何かがあると少しリラックスして話せる、その感じが上手く芝居として表現されていて、3作品の中で最も「作品が持っている主題」がストレートに、かつ自然に入ってくる感じがしました。

実際この公演のおかげで「こんなご時世でもなかったらここまで『オンライン配信』に特化した作品って生まれなかったよね」と実感してると思うと、テーマに説得力がめちゃくちゃありますね。


4.『家、のぞいてみてイイですか?~フワちゃんに救われた男、フォワちゃん~』

正直なところ、タイトルだけでストーリーと帰着点は8割ほど予測できてしまったんです。

……が、絵面の強さと予測不能な2割だけで作品としては十分すぎるほどに面白いという恐ろしい作品でした。

ずんさんのエンジンがかかり始めるとどんどん回転数が上がっていく感じと、その行動を面白さとして成立させる又吉さんの合いの手が非常にかみ合っていて、もうこれが今まさにLANケーブルの向こう側で行われているというだけで面白かったです。

破茶滅茶な疾走感も「そういうテレビ番組の収録」という設定をつけることできちんと場に収まっている感じがして、違和感なく観ることができました。

物ボケ連発系の筋立てって、上手くやらないと観てる側が覚めてしまいがちなので、「場に収める」っていうのは案外重要で難しい気がします。

脚本って場の設定と魅力的なキャラクターができれば成立させてしまえるんだなぁ、と実感させられた芝居でした。


まとめ

このご時世なので、有観客で上演している芝居をオンライン配信でも見られるようにしてくれることが増えました。

けれどやっぱり現地に客を入れている以上、ちょっと置いてけぼり感がぬぐい切れないところがあったんですが、今回のように「オンラインに向けた作品」だと観ている側としてはとてもとても嬉しい。

長さの設定もちょうどよくアーカイブで気軽に見直すこともできるなど、総じて「けどやっぱり生がいいよね」とは言わせない公演になっていたのが印象的でした。

オンライン打ち上げの配信も含め、みなさま本当にお疲れさまでした。


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