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透明日記「季節が少し戻る」 2024/07/11

朝、昼、雀にエサをやる。小さい雀が来ていた。みすぼらしく濡れそぼり、腹の毛が黒ずんでいる。頭に濡れた毛が立つ。催促するように近づいて鳴く。哀れんで、多めにエサをやった。

風のよく出る曇り空。明るい灰色の雲、水気の多い空気。季節が戻るような涼しさがある。

朝、ハヤシライス。堀辰雄の「風立ちぬ」を読む。静かな小説。季節ごとの自然が書かれていていい。死にゆく妻との日々、悲しいような幸福。感情が緩やかに移ろう。時間も静かに流れていく。ぼうっと読んだ。

昼、ハヤシライスを食う。三食同じものを食べる日がわりと多いことに気づく。

川で散歩。夜中の雨で増水していた。中洲はあらかた沈み、沈み残った小さな中洲にカワウが羽を広げる。中洲の先端でじっとする。先端にじっとしている鳥はよく見かける。先端が一番いいらしい。カワウは帰りにも、同じように羽を広げていた。

水を恐れてか、鳥の姿はほとんどない。涼しさに誘われた人々が川辺に出ていた。

海パン傘男と出会う。二度目だ。五月末ぶり。上裸、エメラルドグリーンのトランクスの海パン、メガネ、傘、ビニール袋、グレーのスニーカー。傘は黒い日傘。傘の縁に、小さな白っぽい模様が付いていた。なぜ海パン上裸で日焼けを嫌うのだろうか。

向かいから男が歩いてくるのに気づくと、心がこしょばくなって、前が見れない。下を向いて鼻で深く呼吸する。少し落ち着いて、前を向き、すれ違いざま、男のファッションを目に焼き付けた。

少し歩くと、グラサンギター男が現れた。これも二度目。一ヶ月ぶり。前は目が合うと一曲やり始めたので、無視して通り過ぎた。今回は目を合わせないようにした。気を引くように、ボロンボロンとやる。

帰り際に見ると、男は白人のようだった。歩きながらポロポロ爪弾いていた。最近ギターを始めた人かもしれない。

土手の階段でアリを見る。黒と赤茶のがいる。赤茶のアリが4、5匹集まって何かを相談していた。目で内容を理解しようとしたが、何も分からない。

別の赤茶が、白い粒のような石を運んでいた。どこにでもありそうな石で、わざわざ遠くに出掛けて拾ってくるらしい。アリなりの仕事のサボり方なのかもしれない。

アリにも飽きて、帰る。いつもは土手から降りた砂利道を歩くが、今日は砂利道に海パンとギターがいたので、土手の上を歩いて帰った。

土手の上には野球部がパラパラ、ランニングしていた。大小さまざまな坊主が土手を走る。背の高い坊主の背中は見応えがあった。

今日は雲に閉ざされ、過ごし良い。

夕方、武田百合子の「富士日記」を読み始める。

夜、日中にプラスチックゴミを捨て忘れていたのがバレる。肉じゃがを食べた。

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