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『伝染るんです。①』(文庫版) P5右〜「知らない」の凄さ〜

 風習を知らない、慣習を知らない、常識を知らない。ゆえに、限界を知らない。
 人は年月を重ねるとともに世間に擦れ、普通的な振る舞いが何たるかを知る。しかし、普通だと評される人物でも、へんな考え・習慣の一つや二つは身に付けているものだ。当人は自身のへんな所に気付かない。それゆえ「あれはこういうものだ」と自前に発明する。
 俳人小林一茶は五十過ぎまで童貞で、結婚を機にセックスを覚えたという。俳人は女体の限界を知らず、日に三四回も妻を抱いた。事後の習慣まで限界がなく、性交回数を記録する習慣を発明した。
 私は讃美歌「きよしこの夜」の表記を知らないが故に、「キヨシコの夜」と変換し、「キヨシコって誰やねん」とツッコミ、学を身に付ければ「キリストの訛りか」と結論した経験がある。何かを知らないというのは、限界がないということを意味し、ない論理を創造するものだ。
 成人式は晴れ着で飛び込み、というのも無理はない。

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