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透明日記「かつて俺は、」 2023/10/31

かつて俺は、詩人だった。インコのハナちゃんに感化され、詩作に耽った。ハナちゃんは死に、喋らなくなった。それから俺は詩が書けなくなった。

かつて俺は、キレイな色の飴玉だった。俺より少し背の高い大人たちが俺をしゃぶった。甘い液体となった俺は大人たちの体液に塗れ、自分の身体を台無しにした。

かつて俺は、電柱界のレイパーだった。俺の股間は町の電柱を見境なく犯した。数年後、俺が町の電柱に似ていると話題になった。この一件で、世論は倒錯した論理で語られるということを学んだ。

かつて俺は、独学中の忍者見習いだった。布団叩きで座布団に天誅を下す訓練を積んだ。小学校に上がると、朝礼のたびに校長が忍術不要の未来計画を流布していた。俺は教育の光によって、忍者の道を断たれた。

かつて俺は、アイドルだった。女どもはプラトニックなラブに突き動かされ、鋭利な黄色い声を出して俺を追った。叫び声とともに噴き出す唾液の霧で、俺は皮膚病を患った。

かつて俺は、天才数学者だった。天才過ぎて人間が数式に見えた。個々人の肉体に宿る特殊な論理を計算し尽くした。導いた公式は色事師と詐欺師に悪用され、俺は大学から除籍された。

かつて俺は、曖昧なグーグルマップだった。遠方から道を聞きに来るものが後を絶たなかった。人々は俺に道を聞き、出鱈目な方角に歩を進めた。

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