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透明無題日常劇場 2023/07/31

 失恋の傷を音楽に癒される。

 プリンスの「Thunder 」を聴いてはぐるぐる巡る猜疑の旋律に身を託し、ゆらゆら帝国の「星になれた」で身体が終末的な風景に溶け、ナンバーガールの「透明少女」で感電した俺の裸体は夏の彼方に投げ出さたように思う。

 なぜかそれがすごく癒される。「プリンス」「坂本慎太郎」「向井秀徳」という濃ゆい個性の劇薬が心を麻痺させるのかもしれない。俺がひねくれてるのか、定番のTHE 失恋ソングでは心は癒えない潤わない。一回ならいいが、二回目以降は歌詞に免疫ができてしまう。

 まあ、そうは言っても完全に元の通りに傷が癒えるなんてことはないようで、前とは微妙に違う心と身体にリメイクされるもんやと思う。

 癒えるって、すごく現在的なもんで、過去は参考程度らしい。

 例えば、人差し指の第一関節をぶつけて皮膚がめくれ、血が出たとして、新しい皮膚は関節の動きに合わせて作られる。昔の仕様書を元に設計されるのではなく、現状に合わせて作られるオーダーメイド。傷の記憶を孕みながら生きるしかない。

 せやから、ふと傷が痛み、涙がこびれる。特に朝、目覚めたとき。胸が空虚に圧迫される。空虚は人間を苦しめるに足る体積を持っている。寝ている間に膨らんでるんやろうか。夜と共謀するんやろうか。不思議や。

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