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透明日記「雀との関係に溝を感じる」 2024/06/26

なんかずっと薄曇りの日が続いてるけど、今日のそれは雲の姿に潤いを感じるって言うか、湖に浮かぶ光みたいな涼しさがあって、吹く風なんかも月曜の朝はしつこくネチネチと暗くて鬱陶しかったけど、今日はわりとさっぱりしてて肌に当たったときの空気の切れ方が、違うな、気持ちええな、こんな風と過ごしたいなって、そういうふうに思わせる風やったな。せやから、網戸で外の空気入るようにして扇風機して過ごしとった。

ああ、風、ええ、ええ。ええ。誠に、風。そう思てるうちに、雀らがメシ食いに来よる。せやけどどうも、最近は警戒心が強くなったみたいで、ぼくが捕って食うような顔でもしてるみたいに、近づいたら手すりから離れて、隣家なり屋根の上なり、遠くに逃げることが多くなった。

三ヶ月ぐらい前はそうでもなくって、網戸の網にしんどそうな姿勢でしがみついて、首伸ばして家の中のぞいて、人間がおったらおったで、いつもエサ入れてる皿に何回も何回も、ここにエサ入ってないでって、あれ?入ってないでって、おかしいなあ、なんでやろう?って、人間の仕事の不備をなじるように、何回も何回もわざとらしく確実に聞こえるように、皿に着地して音立ててエサの催促なんかして、雀からの圧がちょっと強い感じやったけど、結構お近づきな存在ではあった。

そのときでも手に乗ってきよることはなかったけど、ベランダに顔出したら、あれ?もうエサの時間ですか?さっきもらったとこですけど、まあ、あるんやったら行きますわって感じで、すぐベランダに来てチッチって軽快な声あげて近づいてきとったもんや。まあ、来る度にはエサあげてられへんから、それなりに時間経ってなくれてやらんけどな。

でや、雀との関係に溝ができたって話。

というのも先週ぐらいまで、マンションの外壁工事の関係で足場が組まれとって、布でベランダが覆われとった。

一番上の階なもんやから、工事中も雀は足場を越えてエサ食いに来とったわけやけど、いつもとベランダの様子が違うもんやから、雀にしても、なんかここもちょっと変わったよなって、ここのベランダも前よりかいい場所ではなくなったよなって感じで、距離ができた。

そんで、ぼくと雀は人間の都合で、自然と距離置くようなって、雀が足場に慣れてきたら少しは距離縮んだんやけど、こんどは足場がなくなって、これがなくなったらなくなったで、雀らは、またベランダの様子変わったよな、あそこホンマに大丈夫なんかって思いよるから、距離ができるできる。で、もうそれは溝なんやな。

いまでは、雀らにとってのぼくは、実はちょっと危険な人物かもしぃひんって感じのグレーな存在。

雀の心はぼくにはよう分からへんし、ぼくが雀になるわけにもいかんし、雀がぼくになるわけにもいかんもんやから、この溝はどういう具合に変わっていくんかも、時間が経たな分からへんわな。

最近の雀との距離感はそんな感じ。雀との駆け引きとか難しいことはでけへんし、ぼくができるんは普段通り、来たらエサやるの一本や。

せやけど、なんでこんなに雀のこと考えなあかんねん。可愛いけど。

他にもなんか書いた。

「蟹」
蟹になりました。

とても見事に
  蟹に
 なりました。

見事でした。

「いちご」(『川辺野砂利子名言集』より)
いちごがないなら
砂利に練乳をかければいいじゃない

「ダルダル弾」
ダルダルのダルマ。ダルダル弾。脇腹に金属片が刺さっとる。おれはその金属片を抽出する作業に取り掛かった。今度の場合は動脈に近く、金属片は体内で弾け、筋繊維との癒着もあったので、非常に難しい施術を行わなければならなかった。

おれは誰もいない野戦病院の枕を噛みながら、脇腹の肉にピンセットを挿し込んだ。三つのディスプレイにおれの脇腹を映し、セロテープで開いた傷口をよく見た。よく見ながら、金属片の状態を確認し、癒着した部分をワイヤーで焼き切り、金属片を慎重に取り出した。

金属片はおれの知らない合金でできていた。何かに使えそうなので、捨てずに取っておくことにした。

脇腹から異物をあらかた取り除いて、傷口を縫合した。施術が成功した安堵からか、手元が遊んで脇腹に大阪市のシンボルを刺繍していた。

抜糸に時間が掛かりそうだ。

「曇頭(どんず)」
二日前からずっと空は曇っとる。

白濁した雲に塞がれた空はおれの脳みそを焼いて狂わせ、腐った妄想を吹き込む。一日は三日に伸び、おれの寿命の実質は縮んでいく。

一日は四日になり、一週間になり、すぐさま一年になり果て、気付いたら年金だけでは食っていけないので、おれは万引きの予想屋をやる。

雲の具合で万引きの成功率を占う。店舗と万引き常習犯双方にこの情報を売る。ほとんど神仏に願掛けるようなもんやから、クレームが来ることはない。

おれの未来は、絶望的に安定している。

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