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『伝染るんです。①』(文庫版)P13〜存在というメルヘン〜

 公平不公平もまた、個人個人思うところが違う。井の中の蛙的精神は誠に心が広く、遠大なメルヘンを井の外に繰り広げる。それはアホと呼ばれ、傲慢と呼ばれ、自愛と呼ばれるところの孤独な魂の安全地帯である。理性と感性の肩コリは「私」という存在の重みを増していく。なんてこった。
 肩コリ患者たちは世に満遍なく氾濫し、時代のスタンダードを築く。虚構の建築。「私」という存在のメルヘン。アレはあかん、コレはあかんと、あらゆる事象に禁止の境界線を引く。自己のメルヘンをよそに、「そんなものはお前のメルヘンだ」と猛り叫び奉る。重度の肩コリは巨大なチカラ瘤となり、他を圧し、また他に抗う。
 と言って、我々はみな孤独な井戸の中にある。その中にあって、孤独なメルヘンの肩コリを癒すものは、井の口より降り注ぐ「他者の鳴き音」の雨あられ。違う趣きのメルヘンの振幅。錯落たるメルヘンの響き合いから、現実を紡ぎ出すところに公平はある。

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